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2017/07 第103号「ありのままに、ひたむきに」

 歌舞伎の市川海老蔵さんの妻、麻央さんの死は、全国民が悲しみにつつまれました。三十四歳、幼い子を遺して往かれたことは、何とも言いようがありません。話題になったブログ(日記)に、闘病中のありのままの姿を見せることによって、多くの方が力をもらい勇気づけられました。
 ところで、「人生は一度きり」という言葉があります。年を重ね、度々自分のこととしてズシンと重く感じることが多くなってきました。若い頃、突き進んでいた時代を思い起こしながら、前よりも身近に感じられます。特に、僧侶として人の死に関わることが多いと余計です。ですから、病から自らの死を宣告される方は、なおさらなのでしょう。
 麻央さんが、英BBCで「今年の百人の女性」に選ばれ、寄稿した文章の言葉です。
「人の死は、病気であるかに関わらず、いつ訪れるか分かりません。例えば、私が今死んだら、人はどう思うでしょうか。『まだ三十四歳の若さで可哀想に』『小さな子供を残して可哀想に』でしょうか。私は、そんなふうには思われたくありません。なぜなら、病気になったことが私の人生を代表する出来事ではないからです。私の人生は、夢を叶え、時に苦しみもがき、愛する人に出会い、二人の宝物を授かり、家族に愛され、愛した、色どり豊かな人生だからです。だから、与えられた時間を、病気の色だけに支配されることはやめました。なりたい自分になる。人生をより色どり豊かなものにするために。だって、人生は一度きりだから」
 
人のこころに響く輝いた言葉でもありました。
 この度、代を継がれた本願寺の大谷光淳ご門主、初の著書『ありのままに、ひたむきに』の中からです。
「好ましくないこと、特に老いる、病気になる、死ぬということを避けることはできません。そのことを、プラスやマイナスとしてとらえるのではなく、ただありのままに受け容れていく。しかし、それは非常に難しく、なかなかできることではありません。自己中心的なとらわれの心でこの世界を見るから苦しみが生じるのであり、お釈迦さまは『如実』、つまり世界をありのままに見なさいと言われています。」
 麻央さんは、この「如実」のさとりをもって往かれたのでしょう。しかし、どうしても、若くて子どもを残して可哀想にと思ってしまうのは、まだ私にとらわれの心があるからなのでしょう。

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