おれの愛(テレ東ドラマ脚本案)
あらすじ:2人の幼馴染。大学生ほどの若者。
1人は明るく常に場のムードメーカーになってきた男。小さな頃から女の子からも常に好かれてきたが、明るいだけの男が相手にされなくなる時期がきてからはモテない。なんなら嫌われる。
もう1人はいつも落ち着いている。思慮深く、目先の利益で簡単には行動しない。けれど気持ちには素直。一番尊いものを守るためならわりとなんでもする。思慮深いクールな彼はものこごろついた頃からおちゃらけた彼が好き。それは不変の事実。だけどちゃらけた彼にそれは届かない。最初は、ハマった女の子相手にちゃらけてその度に軽傷を負わされて自分のところに帰ってくるその人が愛しかった。けど、なんだ同じようなことを繰り返しても、おれの気持ちは届かない。同じことの繰り返し、他のことならなんでも解決できるおれにもこれはもうどうしようもない、誰か、なんとかして助けてほしい。
その思いから彼は、自分たち2人の関係を清算するために、別れさせ屋に依頼をする。それまでの葛藤。
2人の会話はクールな彼の家の中が多い。冒頭はその彼の家の下の自販機。親友を好きという気持ちと葛藤する彼とそんなことまったく知りもせずずかずかとふみこんでくる彼。後半は、クールな彼が依頼する場面。黒っぽい背景のイメージ。洗練された前半の私服こイメージと、後半の、闇に隠れたい、普通でいたい というイメージとのギャップをつけたい。
〈本編〉
ガコン、無機質で遠慮のないその音で我に帰る。自販機が缶コーヒーを排出した音だ。現実に意識を戻してくれてありがとう。本当に感謝する。
俺が意識を飛ばしていたこの瞬間、おれの顔面についてるはずの耳に入っていたのは、系多(けいた)がまた新しく女の子をすきになったという話だった。彼は有頂天だ、可愛くて小さくて、抱きしめたら折れそうな、触れたら溶けそうな女の子と心から分かち合った話。俺はどうしてこんな話をきいているんだっけか。その背丈の小さな女の子、マミちゃんが、系多の話すナニに笑って、ナニに驚いて、ナニに感銘を受けたんだっけ?俺の時系列は?頭の中は混乱しまくっているのに、この俺の顔には何一つ動揺は現れていないんだろう。スーツ姿で営業途中のおれと、見るからに土木作業員のケイタ、人から見ると、感じる温かみが違うらしい。ケイタは昔から老若男女、人間動物問わず、無条件に愛される。
「なぁ、セイも早く彼女つくれよ。俺たち絶対にダブルデートしようぜ。おれがわーってはしゃいで、セイが落ち着いたツッコミを入れて、それで女の子2人は楽しいと思うんだ。2人がきゃっきゃっとしてたら、それでいいと思うんだ。」
作業服のポケットから携帯を取り出してケイタが笑う。ふた昔も昔のかたのアイフォン 。暇さえあればこうやって現彼女の写真を見る男。健気に。豆に。どんな些細なことも連絡してあげる男。
系多はこうやって、あまり2人だけの時には見せなかったような真面目な顔でおれに恋愛論を説いてくることがおおくなった。なあ、おれは、そんな顔をみたいとは思ってないよ。
もう、10年も2人きりそばにいるのに。
「…この前も、ユリちゃんといい感じの時、お前は同じことを言っていたよ。結婚するとか言ってた。2人なら新しい桃源郷を作り出せる、他に何もいらない、おれが彼女だけの自家発電所だ!!!そういってたよな、」
ケイタはなんで覚えてるんだよ、という顔を露骨に作る。おれが、お前の言動の一挙一動で、覚えていないことなど何一つないことを、知っているのかだろうか、いつか知ってくれる日は来るのだろうか。「そんな昔のことはいいんだ。おれは前しか見ない。」ケイタが嘯く。
そう、ケイタはアイフォンのバックアップは絶対とらないし、元カノに連絡はとらない。わかりやすく女好きなのに、過去は見ない。
綺麗で可愛くて物分かりのいい女が好き。これがおれの一番わかりやすい定義なんだ、分かりやすすぎてどんなやつでも、おれに、おれのタイプの女を紹介しやすいだろ?物事をうまく運ぶためには、分かりやすいっていうのが一番大事なんだよ。
最近ケイタが得意げにおれにいう言葉だ。なんども反芻した。自分にいい聞かせるために。分からせるために。
お前は、新しい発見をした時、いつもおれに得意げに顛末を論じるだろ。その、脈絡も突拍子もない組み立てを聞くのが、おれは一番すきなんだ。
そして、お前は、はっきりと誰よりもお前を知ってる、わかり合ってる男友達がお前のことを愛してることは、一生知らないんだ。
そうやって自虐的な気持ちでおれは毎朝目覚める。起きた瞬間に、ケイタを思う。毎日、変わらない。おれは、こいつから離れられない。
一生側にいて、一番仲のいい男友達ですよ、なんならずっと面倒見てやってます。こいつ、おれがいないとだめなんですよ。そんな顔をしながら、結局、おれが、おれだけが、ケイタをひたすらに求めている。おれが離さないから、それだけの理由で、いまだにあいつは、側にいる。おれの隣にいる。
「…だから、おれは、あなたに、頼んだんです」
黒のキャップに黒のマスクで顔面の8割を隠している。服装も、ダボっとしたニットにコーデュロイのパンツ。ありがちな長めのダッフルコート。
量販店てきなありふれた服装。しかし足元を見やると磨いた革靴がある。それは3日前に新刷の雑誌に載っていた、いまだ販売されていないものだ。彼が持っているプライドを殺してまで身につけてきた今日の服装。嫌だっただろうな。
だって彼にとって、今日は特別な日だ。愛する人と、自分とを、分かつ日。
そんな日は、特別1番綺麗な自分でいたいと願うだろう。最後の日。刻み付けたいだろう、彼の脳に、自分の脳に、一番綺麗な自分を、刻み付けたいだろう。
大衆に混ざりたいと思ったからこそ選び取った服。そこに、彼の、彼の想い人への愛の深さを見た気がした
わたしはそういう愛の懐の深さに弱いのだ。なぜなら1人では愛を満たせないから。わたしはその愛の物語の片鱗を見せてもらうためだけに、こんな仕事をしているのだから。
「承知いたしました。仰せのままに、遂行いたします。あなたの心を、凪にするために。
三上系多さんを、あなたの前から一生消します。」
この言葉を伝えて仕舞えば最後通告。 もう後戻りは聞かない。取り返しはつかない。
2度と戻らない。もう、2度と会えない。
終
#テレ東ドラマシナリオ #そのさよなら代行します
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