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職業訓練校で陶芸を学んだ話~入学試験編~

職業訓練校という言葉を聞いたことがあるだろうか。
職業訓練校とは、失業中または休職中の人が再就職を目指して技術を身につける職業訓練が受けられる施設だ。
メジャーなところだと簿記に関する職業訓練やプログラミングに関する職業訓練について耳にしたり、ハローワークの職員に勧められたりしたことがある方も多いだろう。
あまり知られていないが、愛知県には陶芸に関する職業訓練を受けられる職業訓練校がある。
正式名称は「愛知県立名古屋高等技術専門校窯業校」である。長すぎるので以下「窯業校」と呼ぶ。
何を隠そう、私はその窯業校のデザインコース卒業生の一人でもある。
今回はまず序章として、入学に至るまでの手続きや試験について書いていきたいと思う。
これから入学を検討している方の参考になれば幸いだ。

入学条件

職業訓練は求職者全てを対象にした制度だ。
ちなみに窯業校の募集要項の欄には、以下の条件が書かれている。

・陶磁器業界への就職を希望している方
・中学校を卒業した方(卒業見込みを含む)、またはこれと同等以上の学力を有すると認められる方

上記の条件を満たした上でハローワークで推薦状を貰い、入学試験を受けて合格すれば晴れて窯業校の生徒だ。

入学試験

入学試験の内容は、訓練校によって様々だ。
窯業校の場合は以下の三つだった。(あくまで私が受けた時点での話)

・ペーパーテスト
・スケッチ
・面接

製造コースデザインコースそれぞれ試験を受ける教室は別だが、内容的には同じようだ。
以下で詳しく見ていこう。

・ペーパーテスト

入学条件に中学レベルと銘打ってあるだけあって、かなり簡単な内容だった。
基本的な算数や、漢字の読み書きなど日能研的な問題が多い。
ただこれはあくまで義務教育終了レベルかどうかを見られているだけで、あまり点数は重視されていないらしい。

・スケッチ

私の時は一人一つ素焼きの陶器が配られて、それのスケッチを専用の紙に持参した鉛筆で描かされた。
当然ながら全員同じ形、同じ大きさの陶器だ。
なのでそうそう差は出ないだろうと思ったら、私の前の人が練り消し持参でガチのデッサン書いてて焦った。
練り消しと言っても、小学生の時文房具屋で買って貰ったコーラとかの匂いがする練り消しとは当然違う。
無機質な実用一辺倒のがちなヤツだ。しかもちゃんと使い込んでて所々グレーになっている。
ネタバレすると前の人も私も合格したので、入学後に詳しい話を聞いたところ、その人は美大卒の方だった。
理学部卒の私の適当デッサンでも合格したので、この試験は画伯レベルじゃないかどうかの確認程度のものだと思われる。

・面接

一番基準が分かりにくいのが面接試験だが、一番重要視していると先生方も明言していた。
面接試験を受けてみて、主にチェックされているなと感じたのは以下の三点だ。

・協調性があるか
・最後までやりきれるか
・職業訓練のなんたるかを理解しているか

・面接ポイントその一…協調性があるか

窯業校での実習は、グループ作業が多い。
特に製造コースは大きな機械を複数人で使う作業が多く、その分グループで作業する機会が多いようだ。
グループは名前順で決まってしまうので、当然グループ内にはマイペースとせっかちが混在する。
もしそのマイペースが全く悪びれないタイプ、もしくはせっかちが他人にも同じペースを求めるタイプだった場合グループ内は地獄と化す。
訓練校内での人間関係は悪化し、精神的に通い続けるのが難しくなるだろう。
職場の人間関係を理由に転職する人が多いように、人間関係が拗れて職業訓練校を辞めてしまう人もいるらしい。
訓練内容は最初から最後まで受けないと意味がない内容になっているので、欠員が出ても訓練生の途中補充はない。
窯業校側としても、途中で辞められてしまうと実績にならないので困るというわけだ。

・面接ポイントその二…最後までやりきれるか

前述したように途中で辞められてしまうと訓練校側としても大きな損失になるので、最後までやりきれるかどうかは必ず聞かれる。
特に聞かれやすいのは家族の理解があるかどうかと、お金の問題だ。
職業訓練校はある一定の条件を満たせば、給付金を貰いながら通うことが出来る。
学費はタダな上に、お金まで貰った上で陶芸について学べる。そんな都合の良いことがこの世には存在するのだ。
ちなみに私は条件を満たせなかったので、給付金はもらえなかった。世の中そんなに甘くない。
だが恐らく大抵の人は給付金を貰うことが出来る。しかし、金額は聞くところによるとそう多くはないらしい。
給付金はあくまで補助で、基本は一年かけてじわじわ貯金を食い潰していくことになる。
条件を満たせばバイトも出来るらしいが、朝から夕方まで重い土を運んだり体力仕事をした後でバイトが出来る人はそう多くはない。
バイトもせず貯金を食い潰しつつ陶芸の学校に通っていると聞くと、一見遊びっぽい。
もし家族に理解がなければ、通い続けるのは難しいだろう。
また、窯業校は物理的に通いづらい場所にある。
名前に名古屋と入っているが実際には瀬戸市にあり、最寄り駅から30分ほど歩く必要がある。

・面接ポイントその三…職業訓練のなんたるかを理解しているか

個人的に一番見られていると感じた点でもある。
職業訓練校は学校ではない。再就職を目的とした訓練を受ける場所だ。
なので通っているのは「学生」ではなく「訓練生」で、教えるのは「先生」ではなく「指導員」だ。
職業訓練校に学費がかからないのは、皆様が払った雇用保険金が投じられているからである。
なので職業訓練校としては、投じた雇用保険金を回収できるレベルの雇用保険料を、卒業した訓練生から徴収したい。前述の給付金を受給しているのならなおさらだ。
平たく言い換えるなら、職業訓練校を卒業したからには企業への就職が求められる。
窯業校は陶芸のイロハを教えてくれるが、陶芸作家を育てる施設では決してない。趣味で習うような陶芸とも当然違う。
面接では必ず卒業後どうしたいか聞かれるので、この辺りを理解した返答をすれば問題ない。

最後に

いかがだっただろうか。
色々と小難しいことを書いたが、前述した面接ポイントはあくまで私の予想であり実際のところは謎に満ちている。
なにせ私自身はっきり言って協調性はないし、最初から最後まで通いきったが最終的には就職せずに独立している。協調性がないので。
このままではあまりにも申し訳ないので、せめて雇用する側になるレベルまで満月窯を大きくしていきたいところだ。

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