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マンガMee人気作家の漫画の作り方を大公開!『誰か夢だと言ってくれ』みっしぇる先生インタビュー【連載立ち上げ編】

マンガMee公式noteでは、デビューを目指すみなさんへ、面白い漫画作りのヒントになる情報を発信中。マンガMeeで活躍する人気作家さんに、漫画家志望者なら気になる漫画作りのアレコレを教えてもらうインタビュー連載を公開します。

今回は、累計発行部数140万部突破(※電子版を含む)の大ヒット作『誰か夢だと言ってくれ』を連載中のみっしぇる先生と担当編集にお話をうかがいました!

  1. 連載立ち上げ編

  2. ネーム編

  3. 作画編

と、全3回にわけて掲載予定です。第1回となるこの記事では、『誰か夢だと言ってくれ』の立ち上げの道のりについてお届けします。


はじめてのストーリー漫画への挑戦

——『誰か夢だと言ってくれ』(以下、『誰夢』)はみっしぇる先生の初のストーリー漫画ということで、どのような経緯で立ち上げることになったんですか?

みっしぇる デビューから『誰夢』を描くまではずっと、4コマのギャグ漫画を描いていました。デビュー作は『シャルロッテ!』というロリータ服を着た女装男子の話で、集英社の少女漫画のマンガ賞で『別冊マーガレット』のデビュー賞を受賞してデビューという流れです。

その当時は、まさか自分がストーリー漫画を描くとは全く思っていませんでした。確かにずっと憧れはありましたが、ショートの4コマ漫画を月刊連載していた身としては、「どうやったらこんなに長く描けるんだ!」と思っていました。

そんななか、当時の連載が終わりそうな時に、当時『別マ』にいた担当さんが「BLのストーリー漫画を描いてみない?」と声をかけてくれたのが『誰夢』のきっかけです。したいとは思いつつ、こんなにもしっかり連載を続けられるとは思っていませんでしたが……(笑)。

担当Y みっしぇるさんのお仕事が一段落するタイミングだったこともあって、新作に挑戦できたらと思ってお声がけしました。「いつかストーリー漫画に挑戦してみたい」と前々から打ち合わせの時におっしゃっていましたよね。


キャラクターは自分の好きなものを詰め込みました

——どのように、お話は思いついたんですか?

みっしぇる 担当さんと一緒に原宿へ着物の展示会に行って、そのあと近くのカフェに行ったんです。その時に会話のなかで「最近ハマっているものありますか?」と聞かれたので、シルバニアファミリーの話をしたんですよ。そして後日、担当さんがちょっと疲れていたみたいだったので「シルバニアファミリーで癒されてくださいよ〜」と、人形を担当さんにあげたんです。

そうしたら担当さんが「シルバニアファミリーの中に入って、イケメンの生活を覗けたらいいよね」って言いだして(笑)。

最初は「担当さん疲れすぎだな〜」とか「なにを言っているんだ…?」とか思ったんですけれど、その流れで、「透視できたらいいよね」「じゃあ夜かな?」「夜なら夢かな?」という話になって、今の『誰夢』の土台ができていきました。

——ベースはそうやってできたんですね!キャラクターは、どう作られたんですか?

みっしぇる 初期のネームは背の小さい猫みたいな男の子が、背の高い大型犬のような男の子にプンスカしているという、恋愛漫画よりもコンビものの雰囲気が強い内容だったんです。そんな2人が、はじめは常にバチバチしていて、お互い大っ嫌いで……という始まり方でした。

第1話初期ネーム

なぜそういうネームになったかというと、相手の生活を覗いた時に「自分のことが好きなの!?」と一番びっくりする人って、普段は自分のことを嫌ってみえる人じゃないかなと思ったからです。じゃあそういう関係性の2人で話を考えようとなった時に、わたしが元気で活発で幼めな男の子が好きで。そんなちっちゃい子がキャーキャー、やいやい言っている姿って可愛いなと思って(笑)。それで、小夜が生まれました。

ふと思いましたが、わたしは主人公に自分の好きなものを詰めこみがちです……。デビュー作の『シャルロッテ!!』も、当時わたしがロリータ服が大好きだったのと、少年漫画が好きだった影響で男の子しか描ける自信がなくて、「ロリータ服を着た女装男子」が主人公になりました。小夜もわたしの好きを詰め込んだキャラクターデザインになっていると思います。

樹は、小夜とは反対の子にしようという流れで生まれたので、初期の構想と今連載中のものとで、大きくて真面目という原型はあんまり変化がありません。はじめの企画は、めちゃくちゃセンター分けだったくらい(笑)。

名前が少し大変だったかな……?全然思いつかなかったので、「真面目」から「真柴」と仮でつけていた名前が、そのまま彼の名前になっちゃいました。


少女漫画ならではのトキメキを伝えたい

——初期ネームから、現在のストーリーになるにあたってどのように作品を練られたんでしょうか?

担当Y 初期ネームももちろん面白かったのですが、みっしぇる先生が先ほどおっしゃるように、男の子2人がバチバチしている雰囲気が強かったんです。マンガMeeは、少女漫画のキラキラ感を楽しんでいる読者が多いので、

  • もっと少女漫画らしいトキメキを大事にしよう

  • BLを普段読まない方にも楽しんでもらえるようにしよう

という2つの方向性を意識して、初期ネームから調整をしていただくことにしました。

みっしぇる 初期ネームは、小夜と樹が嫌い同士なことを伝えるために、1話の冒頭から2人が喧嘩している内容になっています。でも、それだと少女漫画のトキメキは伝わらないんですよね……。恋愛の話であることも伝わらなさそう……。それをどうしたら読者の方々にキュンキュンしながら読んでもらえるかと、すごく悩みました。

その結果、冒頭は低身長がコンプレックスの男の子が、背の高い男の子に好きな女の子をとられてプンスカする内容にして、恋愛の話であることを伝えられたらと変更を加えたんです。

『誰か夢だと言ってくれ』 ©︎みっしぇる/集英社

担当Y チビとか、デカいとかいう言い合いで嫌いあっているよりも、「自分が追いかけても届かない。何を考えているのかもわからない。そんな人が、実は自分のことをめちゃくちゃ好きだったらどうする?」という方向性へのチェンジですね。

——恋愛のトキメキを重視するなかで、当初の予定にはなかった箇所はどこでしょうか?

みっしぇる すごく恥ずかしいんですけど、エッチなシーンですね。この2人でそういうシーンを描く予定は全然なかったです。そういうシーンを描くことに、すごく抵抗があったので……。

担当さんからも最初は、掲載媒体がアプリだからBLにはお決まりの濡れ場はなくて大丈夫だと言われていたんです。でも、だんだん「本当にときめきを重視するなら必要かも……入れてみようかな……」となってきて、結局3話のラストにあのシーンを入れることになりました。

そういうシーンは読む分にはすごく好きなんですけど、自分で描くとどうしても恥ずかしくて……。今でもエッチなシーンがある原稿の回は、お風呂に入っている時に頭を洗いながら「次は濡れ場のペン入れだ……」と、恥ずかしくて震えています(笑)。

そういうシーンの詳しい描写や体勢の構図を担当さんに打ち合わせで説明するのも恥ずかしいので、ネームもめちゃくちゃわかりやすく描くようにしていますね。


「王道」を読んできたからこそ——

——マンガMeeでの企画はすぐに通られたんですか?

みっしぇる ありがたいことに1回目で通りました。ただ、企画が決まったあと、掲載が始まる前に10話分を描き溜めておくんですけれど、その描き溜めの時期が本当に辛かったです……。

自分としては、『誰夢』はBLほど綺麗な絵柄でもないし、1話目からエッチなシーンもない。かといって、スタンダードな少女漫画でもない。だからどっちつかずな作品だと、不安に思っていたんです。BLを普段読んでいる方からしたら生ぬるいだろうし、少女漫画を読んでいる方からしたらどうなのかなと思いながら描き進めていました。

担当さんや副編集長にもちろんフィードバックをもらってはいましたよ……!それでも「この作品、本当に面白いのかな……?」と自分でもわからなくなって、何回も読み直して「大丈夫かな?」って悩みながら描き溜めしていましたね。

——掲載が始まってからの評判は、どうでしたか?

みっしぇる 実際に掲載が始まると、マンガMee内でのコメントは「面白い!」と言ってくれる方が多く、本当に読者の方々に支えていただいたと思っています。

連載開始日は何時にマンガMeeで更新されるのかを把握していなかったので、夕方ごろに起きたらコメントやハートがたくさんついてて、すごくびっくりしました。悩んでいたこともあって、これでいいんだ……と安心しましたし、読者のみなさんに楽しんでいただけていることを実感できて嬉しかったです。

Twitterでも、当時はフォロワーが600人ほどしかいなかったにもかかわらず、多くの方に読んでいただくことができました。本当にありがたかったです。

——反響はいかがでしたか?

みっしぇる わたしは、なんなら今でも自信がなく探り探りで描いているので、前に『誰夢』を読んでいる友人に感想を聞いたんです。自分で今ここで言うのもちょっと恥ずかしいですが、「王道感がいい」と言われました。

たしかに、初めてのストーリー漫画で何もわからなかったので、少女漫画や、BLの王道展開を全部入れ込んで作ったんです。とはいえ、そんなに凝ったことができるタイプではないので、自分なりに考えた恋愛漫画の王道要素

  1. キャラの組み合わせを王道の『クールと元気』『チャラ男と優等生』のような正反対なものにする

  2. キャラの心の動きを大切にする

  3. とにかくときめくシーンを!ドーン!!

をわたしは意識しています。そのためにセリフも印象に残るようなものを考えるようにしていますね。

だからこそ、新しさがないんじゃないかと不安に思っていましたが、それがいいと言ってもらえて、今は少し安心して描けるようになりました。

『シャルロッテ!』が受賞した時の授賞式で、ひとつ、すごくよく覚えていることがあるんです。授賞式に参加していた漫画家さんに話しかけていただいて、作品に対して感想をいただいたんですね。

その時に「ユニークですよね〜」とか「珍しい設定ですね〜」とか言われるのかなと思っていたら、なんと「王道ギャグ漫画だ」と言われたんです。

「ロリータ」に「女装」なので、「これが王道……!?」と思ったと同時に、ちょっと悔しかったです(笑)。

でもたしかに、りぼんで連載されていた『HIGH SCORE』や『へそで茶をわかす』が大好きで、当時はよく読んでいたんですよね。なので、自分のギャグ漫画のDNAは王道だったと今では思います。『誰夢』も王道と言われているので、そう思うとわたしはずっと王道の漫画を描いてきているようです(笑)。


キャラクターの性格をつきつめたら?

——第2章と第3章…とお話が続いていますが、元々はどこまで考えられていたんですか?

当初は小夜と樹の話で終わる予定でした。けれども、ありがたいことにすぐに続きを描こうと編集部から言ってもらえたんです。ならば第1章の当て馬だった晴人を幸せにしてあげたかったので、晴人と雨竜の話を描くことにしました。

そこで、「小夜と樹にはない年の差の恋愛ができたらいいな。晴人が『きゃー』ってなるなら、真面目そうな男子が実は性に奔放だったところを夢で見たらいいかな……?」などと考えていったら、雨竜のキャラが浮かんできました。

雨竜は最初、要素をめちゃくちゃ盛り込んだキャラクターだったんです。優等生であり、オタクであり、性にも奔放……みたいな。なので、はじめは自分を売っていた理由もオタク資金を集めるためだとしていたんですが、流石にキャラが濃すぎかなと(笑)。

要素をわかりやすく整えつつ、晴人が樹に対して劣等感のあるキャラクターだったので、晴人を肯定してくれて、好きな人にはグイグイと一生懸命にくる子にしたら第1章の2人と差がつくかなと思って性格が決まっていきました。

朝日奈 雨竜・初期キャラデザ

——みっしぇる先生が一番愛着のあるキャラクターは誰でしょう?

みっしぇる みんな大好きですけれど、キャラ単体でいうと、今は樹かもしれないです。わたしは、はじめはどの作品でも受けの子が好きなんですが、読み進めていくうちに攻めが好きになっていくようです。これまでは他の方の作品を読むなかでそういう傾向があるなと感じていましたが、今は自分の作品を描いていても、小夜みたいなかわいい男の子が好きで描き始めたのに樹が好きになっています(笑)。

ペア的には現寿ありひさと夢路ですね。

——一番考えるのが大変だったキャラクターは誰でしたか?

夢路かな……?実は、夢路は最初のキャラクターデザインから大幅変更をしています。

最初は、おおらかで、笑顔が絶えないほわっとした掴みどころのないキャラクターだったんです。今ではツンツン寄りの人間になっています。

御曹司としてのプレッシャーについて色々考えたりする人はそんなに明るくならないんじゃないかな、と担当さんに言われて、たしかにそうだよなと。そうして性格を突き詰めていった結果、今の夢路になりました。現寿ありひさとのカップリングを考えたときに、おおらかな人と、明るい人が惹かれ合っても、あまり盛り上がりが作れないかもと思いました……(笑)。

『誰か夢だと言ってくれ』 ©︎みっしぇる/集英社


『誰夢』は必然的な作品かもしれない

——最後にみっしぇる先生の考える『誰夢』の魅力を教えてください。

みっしぇる インタビューでお話ししながら気づいたことがあるのですが、星新一さんのショートショートが好きで、『誰夢』を描く前に、ショートな読切のストーリーを描きたいと思っていました。そのときに考えていた題材が2つあって、どちらも「夢」に関する話だったんです。

いま思うと、好きな映画も今敏監督の『パプリカ』ですし、「夢」という題材自体がわたしの好きなものだったんだなと思います。なので『誰夢』を描いているのは必然的な出来事かもしれません。

キャラクターも題材も『誰夢』はわたしの好きなものが詰まっていて、それを読者のみなさんに好きだと思っていただけて、こんなに嬉しいことはないです!

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関連リンク

第2回の「ネーム編」はこちらから▼

『誰か夢だと言ってくれ』はマンガMeeのアプリからお楽しみください▼

取材・文/戸田帆南

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