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神様のフォークロア/プロットストーリー「初出撃。」

ええと。

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サイキックアクションロマン「神様のフォークロア」。
民放系の深夜アニメ枠で2012年の第1クール(1月~)放送スタート。
入れ子構造になった世界設定と、「誰かを守る能力」としての「ガーディアナ」という力をもつ女子高生キャラ設定が一部で話題となった、同名のライトノベル系小説が原作(コミカライズ展開中)。
主ターゲットは10代~20代男性。いわゆるラノベ層、TRPG層などを軸に、一般層を含めて設定。
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…という設定の「TVアニメ風の何か」のプロット。

そもそもは、2011年10月13日にイーストステージ・いけぶくろで開催されたイベント「声優のリアル企画 Respond! You!!2nd - 聞きたくねーか本音のハナシ!- 」内で行われた公開模擬オーディションのために用意したもの。世界設定、キャラクター設定、プロット、ビジュアライズ(さらには原作ノベルやコミカライズの制作)など、わたくし個人ではなく複数人で制作していた作品ですが…そろそろ時効でいんじゃね?

…こちらの文章は、とりあえずキャラクターイメージを共有するために主要登場人物達とのファーストコンタクトを主人公である朱理の視点で描いてみたものです。もちろん「神様のフォークロア」という作品は実際には存在しませんが、それにしては入れ込んで書いてるなあ。別途設定資料集もあります。

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【ここまでの展開】

中学3年生の夏、ある事件をきっかけにガーディアナとしての能力を大きく目覚めさせた夏目朱理は、この春、めでたく地元公立中学を卒業。私立照陽女学院高等部へ入学することになった。
なれない私立女子校に戸惑っていた彼女だったが、徐々に友人や先輩たちとも打ち解けていく。

そんな彼女に昨年末の選挙で新生徒会長となった南竹真理から五校連合生徒連絡会「竜胆連」の一員となるようにとの連絡がある。自分自身が生徒会長になったことで、空いた渉外担当のポストを埋めるようにというのだ。

竜胆連。
表向きは学校行事の調整や市の行事運営の補助ための「各校生徒会の連絡会」である。「生徒会OBOGの互助組織」でもあり、中央政界や財界、平坂市に誘致された大手企業などに強力なパイプを持つとされているこの組織は、実際には、古来より境を守護し、ダークマータと呼ばれる怪物からこの世を守ってきた、ガーディアナの組織のひとつである。

夏目朱理は火属性のガーディアナでも抜群の能力を持つものとして、あらたに竜胆連に加わることを承諾した。

その直後。

帰宅途中の彼女は、偶然にも一体のダークマータと遭遇する。
しかもそのとき連れ去られようとしていたのは中学のクラスメートである××であり、それを阻止せんと立ち向かっていたのが幼馴染の高岳佑だったのである。

怒りに燃えた朱理はそのガーディアナ能力『狐火』を起こし、ダークマータを無事撃退した。
だが、周囲を灰燼と化したその力を見ながら、高岳は冷静につぶやいた。
「まだまだですね」と。

・・・それから数週間が過ぎ。

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「一年雪組の夏目朱理さん、夏目朱理さん。至急生徒会室へお越しください。繰り返します、一年雪組の・・・」

放課後、帰り支度をしていたところを校内放送で呼び出された。

「朱理ぃ…いまの会長だよね。あんたなんかしたん?」

他のクラスメイトがちょっと遠巻きな視線を投げてくる中、声をかけてきたのは二宮洋子だ。

「ニノ、何でさ、私が何かした、ってのが前提なわけ?」
「え、あんたが何かしたんじゃないとすると・・・何か・・・されたの?会長に?」「なんでよ?」

明らかにからかう口調でへらっと笑うニノを半眼でねめつけながら、手に持っていたバインダーでひとつ叩いておいて、私は教室を出た。
雪組の教室は、一階から三階まで各学年ごとに雪月花の3クラスが並ぶ第一校舎の一階いちばん奥。
ここから、中庭を挟んだ第二校舎の端にある生徒会室へ行くには、昇降口のある渡り廊下をぐるっと廻ることになる。
少なくとも私が会長に呼び出される理由はひとつしかなさそうだし、であれば急ぐに越したことは無い。

「朱理、竜胆連でしょ。がんばってね」

声をかけてくれたのはサチ、手塚幸恵。
一般生徒のニノと違ってガーディアナのひとりである彼女の言葉がちょっとだけ胸に来て、振り向かずに軽く手を振る。
渡り廊下に入ったところで背後から声がかかった。

「あら、朱理さん。ひとりでお帰りなの?」

満面の笑みを浮かべて近づいてきたのは、三年雪組、品行方正風光明媚の誉れ高きおっとり姫、中山さくら様。
まったくもってありがたいことに、この私、夏目朱理の「お姉さま」であらせられる。

この照陽女学院という学校は、色々なところで姉妹校である英国の女子寄宿学校「エコール・ド・ドミナマリエ」の風習を採り入れているのだが、そのうちのひとつがこの新入生歓迎会の席で同じクラスの三年生の女子との間に交わされる「フラワーリング」と呼ばれる擬似姉妹の習慣だ。要するに学内のいろいろな行事や風習、さらには礼儀作法などを習うためのチューター制度のようなものだが、15歳の春にいきなり「お姉さま」が増えるというのはなかなかにショッキングな出来事だと、私は思う。

わがお姉さまのように、心底「妹」をかわいがってくださるかたの場合、特に。

「いえ、お姉さま。まだ帰るわけではないんですが、ちょっと生徒か・・・」「ねえねえ、お気づきになった?ほら、朱理さんとお揃い。」

ああ、お姉さま、やっぱり校内放送は聴いてないし、わたしの台詞も聞こえてないのねー。

「お揃い、ですか?」

ええと、そのお召しになっているのは、わたし夏目朱理のトレードマークともいえる紺のダッフルコート。どうやら同じものをお姉さまがお買い求めあそばされたらしい。

「ふふ、どう?似合うかしら。」

袖口をつまんでくるりんと回ってみせるお姉さま。
いまは、もう6月のおわり。わたしじゃあるまいし、暑いでしょうに、まあ。

「さくら先輩・・・じゃないお姉さま。なんでまた、そんなものを」

悲しげに眉間にしわを寄せられてしまったので、あわてて言い直し。

「もちろん、朱理さんがいつも着ているからよ?、意外とお安いのね、コレ」
「はあ、そうなんですか。ええと、・・・うれしいです、お揃い」
「そう!そう言ってもらえると、わたしも嬉しいわ、朱理さん」

私の財布にとっては意外とお安くは無かったのだけど・・・ここは、適当に流すところだ。

「それでね、朱理さん、今日は、これから・・・」
「あ、あの。お姉さま。わたくし先ほど南竹会長から呼ばれていまして、生徒会室に行く途中なんです。たぶんちょっと急ぎの御用ではないかと思うので、ごめんなさい。ここで失礼します」
「あら、真理ちゃんが?・・・そうね、彼女があなたを呼んでいるなら仕方ないわね」

ちょっと遠くを見る目つきをしたさくら先輩は、気遣わしげに私に目をもどして言った。

「じゃ、お勤めご苦労様。大丈夫、あなたならうまくやれるわ」「はい、ありがとうございます」

私はすこし小走りで生徒会室に向かう。
昇降階段で振り返って、肩口で手を振る笑顔のさくら先輩に頭を下げて、小声でつぶやく。

「行ってきます」

うん。大丈夫、うまくやれる。きびすを返して昇降階段を駆け上がった。


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「失礼します。すみません遅くなりました」

生徒会室は第二校舎三階の一番手前。ちょっと息を整えてからノックして中に入った。
正面に座っていたのが小柄な三年生が、生徒会長の南竹真理さん。
ちょっとだけ咎めるような目つきだったのであわてて謝った。

「ああ、夏目さん。来てくれてありがとう。大丈夫よ、一刻をあらそうような状況じゃないから安心して」
「・・・すみません。ちょっとお姉さまに」「ああ、さくら様なのね。ま、ソレは仕方ないか。・・・それで、夏目さん。」

表情を和らげて、右手を指す南竹会長。

「こちら、ご存知だと思うけど竜胆連の高岳さん。コードネームはブルーローズ」
「竜胆連専任担当書記官の高岳です。あらためてよろしく」

ほぼ気配を感じさせずに、いきなり隣に詰襟の学生服を着た長身の男性が立っていた。その後ろに大柄な女性がひとり。
ぜんぜん気がつかなかった・・・って、あの今なんて?

「え、あの。高岳…さん…ですか」
「ええ、高岳ですが、なにか?」「いえ……なんでもありません」

沈黙。見つめ返された目が泳いでしまった。だって・・・ねえ。このひと佑兄に見えないよ、全然。

「早速ですが、夏目さん。貴方に召喚状です」

高岳を名乗るその男性はよどみない口調で続けた。

「本日15時、竜胆連顧問 石見芳江発令。五校生徒連絡会担当理事全員の検印済みです。こちらの召喚状を受け取ると同時に、あなたは竜胆連渉外担当としての作戦行動に入っていただきます。本作戦および今後の竜胆連渉外担当としてのコードネームは『ファイアフォックス』となります。実行計画の詳細は、竜胆連副長 南竹真理に伝えておりますので、そちらから」

来た。やっぱりソレだった。
今期のはじめの選挙で生徒会長になった前任者の南竹先輩直々のご推薦で、私が竜胆連渉外担当となって初の出頭だ。
引継ぎを受けて以来、いえ、私が狐達を取り戻してこの学校に入学が決まったときからそれなりに覚悟はしていたとはいえ、やはり緊張が走る。

南竹会長がこちらを怪訝そうに見ている。ああ、そうか、復唱しないと。えーと、今なんて言ったっけ・・・まあいいか。

「はい、了解しました、高岳さん、いえブルーローズ」

きっちりと折り目正しき返答を返せたかどうかはわからないけど声を張って応えて正面を見返した。あれ?

「…もう出て行かれたけど。」「え。」
「いつもああなのよね。必要事項を伝達したら、即いなくなっちゃうの。竜胆連のお仕事イヤなのかな」
「あ、でも・・・」「ああ、一緒にいたのがピンクベア。先代の聖クリストファーの渉外。今は書記官の補佐をしてくれているのよ」
「そうなんですか。じゃあ・・・」
「ジャンプよ。彼女は自分以外は一人運ぶのが手いっぱいだから。・・・さ、それはそれとして行きましょう、ファイアフォックス」
「わかりました・・・ふ、副長」

「よくできました」

南竹会長が笑いながら頭をなでてくれた。彼女のほうが数センチ背低いからちょっと背伸びして。でもお姉さんっぽく。

そうだ、ここからは夏目朱理じゃなくて、ファイアフォックス。会長でも南竹さんでもなくて、副長。
私は竜胆連の渉外担当だ。気合入れていかないと。扉を開けて昇降階段に向かう。

「そっちじゃないわよ」「え?」

ああんもう。せっかく気合入れたのに。

「でも、副長。行く先は詰所ですよね?」「ええ、急ぎみたいだから、直通ルートを使うわ。」

南竹・・・副長がさっさと先に立って歩いていく先は玄関とは逆方向。クラブ棟のある旧校舎に通じている連絡通路を渡って旧校舎一階の裏手、第4焼却炉。たしか焼却ゴミの搬送に不便だということでずいぶんと長い間使われていないはずなんだけど、ええと、まさか。

副長が、焼却炉の古びた火窓をあげて中を覗き込む。と、ごとんと重い音がして煉瓦製の焼却炉の脇がスライドした。

「さ、入って」

・ ・・やっぱりかあ。どこのチャーリーズエンジェルなのよ、とちょっと笑った。

副長の後についてぽっかり開いた戸口を潜るようにして階段を数段下りたところで明かりがつき、背面が閉じた。
水銀灯に照らされた年季の入ったイギリス詰みのレンガの通路がまっすぐ伸びている。うわあ、年季入ってるなあ。

「急ぐわよ」

副長とふたり、その通路を駆けた。

「着いたわ、そこを上がって」「どこに出るんですか、ここ」「上がれば判るし」「それはそうですけど」

がこ。
音がして、目の前が開けた。階段を上がったところでセンサーが働いたらしい。広がる白い光の中に深いみどりの匂いがした。

「…富士見台」

月瀬高校の裏山にある展望台だ。かつては富士講の出発点として此花咲耶姫を奉る神社があったんじゃなかったかと思う。ここから竜胆連の詰所まではほぼ2分ぐらい。ほぼ直線で来たのだろう、普通の道筋で来ると歩いて15分ぐらいの距離を5分で駆け抜けた計算になる。もともと平坂市の中心部は江戸時代に郷士の館があったとかなにかで、道が矩形になっているところが多いらしい。小学校の郷土史の学習で聞いたことだけど、いまはその理由がわかる。
なんて、考えていたところで肩口をつつかれた。ああ、そうだいそがなくちゃいけないんだったと思いながら振り向くと、副長が両手で前髪を上げてニコニコしている。

「えーと?」
「富士額。・・・ダメ?」

何でこのヒトは脱力系ギャグが好きなんだろう、どう考えてもキャラ合わないのに。がっくりと肩を落とした私を見て、副長は満足そうに言った。

「それじゃ詰所に行きましょう。みんなそろそろ集まっていると思うから」

はい、副長。仰せのままに。


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「入ります。」
ひと声かけて、詰所のドアをあけた。一斉に視線が飛んでくる。
一人、ふたり、三人・・・ああ、もう全員揃ってるんだ。直線だとウチが一番遠い・・・のかな。そんなことは無いはずだけどな

「ああ、ブルー。ちょっとまってねー。今、芳江先生もこっちにいらっしゃるからさー」

と、どこかほわっとした口調で副長に声をかけたのは黒いセルフレームのメガネをかけた一人だけ私服の長身美人。
薄いグリーンのキャミの上に白シャツ、ブルーデニム。スタイルも抜群で女優とかモデルさんでも通りそうな感じだけど、メガネが・・・ダサカワっていうか、微妙。

「もう、ブルーって呼ばない!」「ブルー、って副長のコードですか?」

あ、かぶった。しかも振り向いた副長の目が怖い。聞いちゃいけなかったのかも。

「そー、ブルー。まあ、あたしが縮めたんだけどねー。真理の前のコードネームは『ブルートフォース』だからー」「だから、せめてその名前で呼んでよっ!」「えーいいじゃない」「よくないっ」

なんだかよくわからないけど、副長ものすごーく拒否ってる。
ブルートフォース・・・馬鹿力って呼ばれるより「ブルー」のほうがいいような気がするけど。

「わたしは、べつにイエローでもかまわないんだけどな」
「あはは、すみません。ピンクがいなくなったと思ったらブラックが入ったっスからね」

「うるさい、小夜子も結衣もだまれ」「ブルーぅ、作戦中はコードネームー」「だから、ブルーは私のコードじゃないし今は副長だし!、あなたもレッドじゃないし!」「えー、総長になってもレッドでいいじゃーん」「だからぁっ」「ふくちょーって呼んであげるからムキになるんじゃねーよー、ブルー」「いまブルーって呼んだ!あと抱きつくな!」

なんなの?このノリは。

「ああ、気にしないで。いつものことだからそのうち慣れる・・・さて、ぢょしノリはその辺にして、ファイアフォックスは初めてなんだから、自己紹介でもしておかない?芳江先生がいらしたら、即作戦スタートだと思うから」
「そーだね。じゃーアトムから」
「そのアトムって略し方もどうなのかな」

と、笑いながらこちらに向き直ったのはちょっと線の細い印象のきれいな男の子だ。
月瀬の詰襟をきっちり着込んでいるけど、なぜか髪型はうらやましいぐらい癖の無い黒髪ストレートのロングボブ。よく見るとサイドに細かい編み込みがされてるんですけど・・・男の子、ですよね。

「男の子ですよ、っていうかこれでも一応年上なのでオトコノコってのもどうかと思うんだけどね、ファイアフォックス」

え。・・・読まれた?てことは彼は。あれ?でもそれっていけないんじゃ。

「うん、精神や感覚に働きかける水属性のガーディアナ、特に精神感応系の能力の乱用は戒めるべきだね。もっとも彼女達にしてみれば、好き勝手他人の心を覗くことができてもお断りらしいけど、ね。オニキス?」
「ええ、そう。ひとの心って結構気持ちわるいんだもの、ああ、ごめん。あなたが特にそうだってことじゃないからね、アトモスフィア?」

すこしとげのある口調で言ったのは彼の影に座っていた小柄で華奢な女の子だ。ツインテールにした髪、平坂北のセーラー服。

「自己紹介を続けるよ。僕は野々村太一、コードネームはアトモスフィア。ごらんのとおりの月瀬高校の渉外担当だ。だから属性は天。能力は『超計算』。戦術的には君達実働部隊に助言を与え、行動をサポートすることになる。作戦中はできるだけ僕のいうことを信用して素直に従って欲しいな。信頼されてなくても行動を読むことは出来るけど、やっぱりちょっと悲しいから、ね」

長い髪に軽く指を絡めてするすると梳き流すようにしながら、爽やかな口調で話し終える。
なるほど、『超計算』。心を読んだのではなくて、たぶん表情とか態度とかで読み取られたのか。
それにしてもモテそうだなあ、このひと、って思ったとたん後ろの女の子が大声で言った。

「太一は男子ひとりだけで、空気みたいに存在感がうすいからアトモスフィアなのよ」
「そんなことないだろ、ひどいな。で、オニキス。きみの番だ」
「それじゃ、次はわたし。沢井涼子、コードネームはオニキス。平坂北高校の渉外担当で属性は水。能力はさっきの会話でわかったんじゃないか思うけど『精神感応』。ここでのお仕事で言えば・・・まあ、平たく言えばレーダー手みたいなものだと思えばいいんじゃないかな。ターゲットになるダークマータがどこでどんな状況になっているのかを探るのが仕事。」

早口で畳み掛けるような口調、少し甲高い声。けっこうキツいひとなのかな。

「え、じゃあ。今も捜索中なんですか?」
「いい突っ込みをくれるわね、ファイアフォックス。そうよって言いたいけどさ、ちょっと想像してみて。平坂市の人口が65,000人。闇雲にこの人たちを掻き分けながら一体のダークマータを追いかけるのは結構シンドいわよ。実際にはある範囲で指示がでてから網をかけていく感じ。それに網をかける作業はエリアごとに何人かで手分けをしてる。まあ、広いエリアを大雑把にチェックするものだから精度は高くないんだけどね。おおよその位置を捕捉してからが私の出番。真打は最後に出るものよ。判る?」
「・・・はい。すみま」「ああ、謝らなくてもいいの、わかってもらえれば」

オニキス・・・さん、わざと謝らせてくれなかったよね、今。

「ふたりとも3年生だからー。今年で引退のロートルチームだからいたわってあげてねー」

さっきレッドと呼ばれてたひとが、のんびりと声をかけた。
ありがたい。言われなければ二人ともいくつなのか見当がつかないで困ったかも。

「じゃあ、引き続きー。こんどは実働班だね。イエロー、よろしくー」「だから、イエローじゃないでしょ」

なんとなくわかった。こっちのひとがボケで、副長がツッコミだ。
しかもボケはきっちり計算されていて、だけどツッコミは天然。つまり南竹先輩が遊ばれてるのね。

その、イエローと呼ばれた眠そうな目をしたショートカットの娘が口を開く。

「草刈小夜子。コードネームはアクアヴィット。木属性。たぶん・・・実戦ではあなたの盾になるからよろしくね」「た、たて?」「ええ。盾。・・・ガード。がっちり守ってあげるから、きっちり当ててちょうだいね」

「盾」って言葉が聞き間違いに感じられるようなおっとりした口調。ちょっとさくらお姉さまを思わせるようなやわらかな物腰。
木属性ってことは平坂工業のはずだけど工業高校でこのタイプはめずらしいんじゃないかなーてのは偏見かしら。

「それと、・・・怪我したら言って。治すから・・・なに?いつき・・・あ、そうだ。カレーが好き、でいいの?」「小夜子ー、イエロー的に重要だから、そこ覚えといてー」「仕込むな、いつき!あなたも乗らない、小夜子!」

・・・仲いいなあ。

「はいはい。そんじゃー次、行きますよ」

今度はさっぱりした口調で元気な声。

「うす。林結衣っス。コードネームはブラックキャットで『瞬間移動』出来ます。総長と同じ聖クリストファー学園で、2年生。アトモスフィアの指示を受けて、あなたとアクアヴィットを現地に送るのがメインのお仕事になるんでよろしく。」

このひとも結構小柄。意志の強そうな濃い眉と表情豊かな大きな目が特徴。
聖クリストファーの紺ブレザーとチェックのスカートに茶色のカーフスキンっぽいワークブーツをあわせてるのがお洒落なのか個性的なのか。上着もレザーとかニットとかにするとパンクっぽいかも。でもいいなあ、制服だけなら聖クリストファーがかわいいと思うんだよね。ウチの制服は男子には人気あるらしいけどいまいちかわいくないと思う。

ええと、ということは。聖クリストファーは私服通学OKだから。

「最後はわたしだよね。ブルーは紹介する必要ないし。」

やっぱり副長とじゃれていた、このひとが総長なのかしら。

「大野いつきです。まあ、巡り会わせみたいなものですが、一昨年は渉外担当で去年は副長。今年から総長になりました。順当に出世街道驀進中。この中で、3年間皆勤賞なのは私とブルーとイエロー。コードネームは『レッド』なのよ。」「だからそれ違う!いろいろ違う!」「まあ、細かいことはおいおい説明するねー」

だんだん悲鳴じみてきたなあ、副長。こんな姿見たこと無いからちょっと面白い。
なんて、なんとなくのんきなことを考えていたところで、詰所の扉が開いた。

「ご苦労様。みんな集まってるわね」

入ってきたのは私も知っている痩身の女性。照陽女学院理事長にして竜胆連の現顧問、石見芳江先生。
今までの雰囲気から一転して、皆に緊張が走る。

「で、今は?」
「ファイアフォックスに簡単な自己紹介を。とりあえず本人以外は一通り」

いつもの冷静な口調に戻って報告したのは副長。隣でかるい笑顔で頷いている総長。

「そう。じゃあ、そのまま済ましてしまいましょう。探査報告はもう少しかかりそうですから」

「あらためて、竜胆連顧問、石見芳江です。よろしくね、ファイアフォックス、夏目朱理。あなたの力で出来るだけ多くの人たちを、そしてこの世界を守れるように、これから頑張って頂戴」
「はい。石見先生、よろしくお願いします」
「じゃ、皆さんにもひとこと」

「はい。夏目朱理、照陽女学院一年。南竹先輩の副長就任により、新しく竜胆連渉外担当になりました。コードネームはファイアフォックスになります。火属性で、能力は『発火』です。皆さんよろしくお願いします」

わたしはできるだけ深く頭を下げる。
三つ数えて頭を上げた。みんながこっちを見ていた。


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ぱん、と芳江先生が手を叩いた。

「はい。じゃ、ブリーフィング始めます。
本日13時25分、平坂第三小学校の校庭にて、同校4年3組の北村美鈴さんが同級生の目の前でかき消えるようにいなくなりました。美鈴さんが姿を消す直前に上げた大きな悲鳴を、一緒にいた同じクラスの小谷由紀さんが聞いています。他の児童に不明者はありません。平坂第三小学校では、この事件を「神隠し事案」と判断、14時10分平坂市役所環境保全部へ通報。
環境保全部からの要請に応える形で本日15時、竜胆連顧問石見芳江として渉外担当の召還を発令しました。
なお今回より照陽女学院渉外担当として、夏目朱理を実務起用。
これについては事前に五校生徒連絡会担当理事全員の検印済みの召喚状を発行しています」

ここまで一気に話して、芳江先生が全員を見渡す。皆がうなずく。

「現在のところ、神隠しはダークマータによるものである、と我々は判断していますが、現況となったダークマータは探知されていません。環境保全部の当直ガーディアナによるサーチがまもなく終了すると思いますのでそれまで総員詰所にて待機のこと」

「へえ、てことは平坂三小の周辺じゃないんスか」

と声を上げたのはブラックキャットだ。

「そうね。当然学校周辺から網を広げていっているんだけど、引っかからない」

と、芳江先生。

「そうすると・・・」「トリさんかな?」「それ言うならハーピィタイプでしょ」「その呼び方はハーピィが傷つくから、やめよう?」

たぶん相当訳が判らない顔をしていたのだろう。アトモスフィアが解説をしてくれた。

「僕たちが相手をしてきたダークマータには大体3種類のタイプがあってね。ひとつはファイアフォックス、この間、あなたが倒したヒューマンタイプ。手足の長い人形みたいな姿で、比較的よくしゃべる、というか多少ガーディアナとの意思の疎通が可能。それからビーストタイプ。基本的に4つ足で移動するんだけど後足でたちあがることも出来るので気をつけて。そうだな、熊とかイメージしてもらうと正しいかなあ。最後が、今言ったハーピィタイプ。大型の鳥のような外見と言うか、要するに羽根があって飛べる。だから、捜索範囲が一番広くなるのはハーピィタイプ。一方でビーストタイプは隠れるのが上手いので見つかりにくい。それと、この二種類がガーディアナと会話したことはほとんどないらしい。どっちにしてもろくな会話になるわけじゃないのは、経験済みだよね」
「はい。この間の相手からは悪意というか、嘲弄のようなものを感じました」「うん。かなり沢山話したみたいだね、この間のヒューマンタイプ。そういう意味では相性がいいのかも知れないね、ファイアフォックスは」
「相性がいいって・・・ちょっと、いやですね」「そんなことはないよ。人間、一番怖いのは相手が何を考えているかわからないことなんだから、さ。ダークマータ相手だって何を考えているかわかればこそ対処のしようもあるんだ」

「ファイアフォックスみたいに焼きつくしたり、副長みたいに叩き潰したりできるんならともかく、だけどね」

割り込んできたのはオニキス。

「叩き潰す?」
「そう。あなたが入る前のフォーメーションだとね。アクアヴィットがダークマータを移動できないところに追い詰めたら、ブラックキャットがさらわれた人を奪還する。でもって総長がアポートした重量物を副長が叩きつけて倒してたのよ」「重量物・・・」「電柱とか、石灯篭とか。あと、軽自動車とか?」「砲丸の千本ノックってのもあったね」

そ、それは。なんというか豪快な。ああそれで、ブルートフォースなのかあ。

「そういう意味では、ファイアフォックスの加入で実行部隊が3人体制(スリーマンセル)で済むようになったってメリットはあるよねー。装弾手が別途必要ってのは無駄が多いから、なーブルぅー?」「うるさいなー、いちいち電柱かついで歩けって言うの、あんた」「面白じゃん、電柱担いだちびっこ」「うるさい」「えーと、運ぶほうの負担も考えてほしいっス」「重さ関係ないくせに」「いや、それなりに」

「あとはー、わかってると思うけど余計なところに火を飛ばさないように気をつけて頂戴ねー」「はい、総長。気をつけます」

前回、そのあたりの考慮ナシに力任せに狐火を叩きつけてしまったのを思い出す。

「まあ、そこらへん、戦闘に適した場所を選定するのも僕の仕事だから、任せて?」「はい、お願いします、アトモスフィア」

『こちら保全部観測室。ダークマータらしき影を観測しました。石見顧問よりのご指示をお待ちします』

詰所にアナウンスが入った。と同時になにも言わずに芳江先生が立ち上がって詰所を出て行く。

「ふう、お仕事だね」「真打登場」「今回は私達も待機でいいのよね」「楽してるみたいに言わないでよ」

ぞろぞろというか微妙に緊張感のない会話をしつつ、アトモスフィアとオニキス、そして総長と副長が続く。
私も付いていこうとしたところで、アクアヴィットに留められた。

「わたしたちは、ここで待機よ。どこで何をすればいいかが決まったら、一気に動くから」「実働部隊の出番はもうちょっとお預けっスよ」

ええと。

「あの、アクアヴィット、それからブラックキャット。私は結局なにをしたらいいのでしょう?」
「アトモスフィアから指示があったら、そこめがけて思い切り撃って。たぶん今回はそれだけよ」
「それだけって」「まあ、現場行ってからあんまり頭使ってる時間ないっスから、あたしら」

・・・そうなのか。

「いい?私達の仕事は、まず第一にさらわれた人の奪還、それからダークマータの殲滅。
奪還については基本的には結衣…ブラックキャットの役割で、フォローが私の仕事。ファイアフォックスにもそのうち手伝ってもらうと思うけど。要するに囮になるというか、注意をひきつけて相手の足を止めたところで相手の懐までテレポートで飛び込んで奪還するのね。飛び込むっていっても不用意に突っ込んだら撃退されるだけだから、結衣に人質を確実に奪還してもらうためには相手の動きを完全に抑えるのが一番いい。で、それが済んだら、こんどこそあなたの出番。お得意の狐火でダークマータを一気に殲滅してくれればそれで任務終了よ。」

さっきまでのほやんとした眠そうな態度がウソみたいにテキパキした口調。
それと・・・気のせいじゃない。アクアヴィット、瞳が紅い。
そんな私の視線に気がついた様子で、アクアヴィットが手にしていたジュースのブリックパックを振ってみせた。

「ふふ・・・ドーピングしてますから」

ドーピング?薬物?

「アクアヴィットは、こう見えて700年…」

と、そこで三人の手元や胸元で携帯がいきなり大きな音を立てた。
渉外担当になることを承諾した日に受け取ったものだ。

『はい、おまたせ。みんな準備はいいかな?』

流れ出たのはアトモスフィアの声。

「オニキスがダークマータを捕捉したよ。現在佐原5丁目の上空を飛行中。次に休むであろう地点を予測したから、二人を連れてそこに先行してくれるかな、ブラックキャット?座標は今、オニキスが送る」

「ラジャりましたよー。オニキス、座標了解。じゃ、二人は私と手をつないでください。この距離なら、念のため三段で跳びます。手を離さないように」

転瞬。平衡感覚がなくなった。

「ひとつ!」

一瞬、地面に足がついたような気がした。とたんに、また平衡感覚が失われる。

「ふたつ!」

平衡感覚というか現実感といったほうがいいかな。全身の感覚がなくなって戻ってくる感じ。これが、テレポート?

「みいっつっ!はい到着っ!」

あうう。急激に戻ってきた感覚で体がパニックを起こすのがわかる。ちょっと脳貧血っぽい感じでへたりこんでしまった。

『大丈夫かい?ファイアフォックス。ブラックキャットも一発で飛んであげればいいのに』とアトモスフィアが笑う。
「ちょっと体力温存気味でお願いします。ハーピイだとすると、逃したらさらに遠くへ跳ぶことになるし」とブラックキャットが返す。
『大丈夫だと思う。ちょっとパニクったけど、意識はしっかりしてるから。ほらがんばれ、ファイアフォックス?』とオニキス。

「・・・大丈夫です。すみません」

と、私が立ち上がろうとしたところをアクアヴィットが支えてくれた。そのまま背後にあった木にもたれて息を整える。

「いい?ファイアフォックス、この位置を動かないで。ここならあなたの前方に障害物はないわ。ブラックキャットが人質を奪還したら私がダークマータを目の前に追い込むから、そしたら狐火を当てて。…おそらく3分ぐらいだから準備して待機」

『わ、僕の言うべきこと全部言われた。・・・だ、そうなのでよろしくね、ファイアフォックス』

「じゃ、行ってくるね」「お待たせしないように頑張るっスよ」

二人の姿がかき消えた。やってくる静寂。急に不安になる。本当に大丈夫だろうか。
そうだ狐火達を起こしておかなくちゃ。とりあえず全開でいくのかな?

『ファイアフォックス、今回は全力じゃなくていい。的確にコントロールできる数を呼び出して、相手にぶつけるんだ』

「わかりました。みんな、出てきて」

「はい」「よーう」「ひさしぶり」「元気してた?」

4匹の狐火が私の周りに浮かんだ。

「いい。もうじき目の前にいやなモノが来ます。私が言ったらそいつを思いっきり蹴っ飛ばしてきて」
「はい」「おっけー」「わかったー」「けっとばすー」

そのとき、かなり近くで何かが倒れる音がした。かなり鈍い音だ。

『ブラックキャットが人質の奪還に失敗。ダメージを受けた。アクアヴィットが「癒し」てる。ファイアフォックス、もう少しそのままキープできるか?』
「もちろん」

ダメージって・・・あの音がそうだとすればずいぶんとひどい怪我をしたのじゃないだろうか。

『・・・よし。今度は成功だ。まもなく目の前にダークマータが現れるが、いきなり撃つな。アクアヴィットの指示が出るまで待機だ』
『こちらブラックキャット。行くよー』

がさがさがさーっと大きな音がして目の前に黒いもやもやしたものが現れる。
確かに大きな羽根が生えている、その片翼を半ばから捻るように地面に引き据えてアクアヴィットが立っていた。

「待たせたわね、ファイアフォックス」

すごい、明らかに自分より大きなダークマータをアクアヴィットが右手で押さえ込んでいる。
そして逆の手をいっぱいに伸ばしたその先に、小学生を抱いたブラックキャット。

アクアヴィットが左手を離したとたん、だいぶ離れたところにブラックキャットがジャンプした。
テレポートってあんなショートジャンプもできるんだ。

『ショートジャンプなら、君が感じたような身体感覚的な違和感は少ないしね。人質にはできる限り怖い思いをさせないように最善を尽くすべきだろう』

こんなときにも、ほんとに至れり尽くせりだなあ、アトモスフィアさん。

『さて、そろそろだ。頼んだよファイアフォックス』

まさにそのとき、アクアヴィットが叫んだ。

「聞こえる?私が手を放したらこいつは逃げようとして舞い上がるわ。そこを狙って」

私は何も言わずに構えを取った。
腰を落とし、左拳を腰だめに右掌を突き出したいつもの構え。
周囲に浮かんでいた狐達が右手を包むように集まって強い輝きを放ち始める。

「いつでもどうぞ!」

「放した!」

アクアヴィットが叫びながら倒れこむように跳躍したのが、スローモーションのように見えた。
ダークマータが巨躯をひとゆすりして起き上がり、舞い上がろうと翼を広げる。

「みんな!いけえぇぇっ!」

右手を押し出すようにして、叫んだ。
いちだんと輝きを増して火球と化した狐達が跳びだして、過たずダークマータの肩口や首筋を蹴りつけた。
蹴ったところから紅蓮の炎が上がる。たちまちダークマータの全身が炎に包まれ、一瞬の後、炎は大きく燃え盛り消え去った。後には灰も残らない。

やった。

「終わった」「どうだ」「やったよー」「えらい?」

狐達が得意げな顔で帰ってくる。えらいえらいとなでてやると満足げに消えてゆく。消える度に強烈な寒気が襲ってくるのはいつものことだ。全力じゃない分、このぐらいなら耐えられる。

『無事、作戦終了だね』
「そうね。総長、悪いけど環境保全部に車を廻してもらえるように言ってくれない?ブラックキャットがちょっと動けなくなってる。テレポートの余裕はあるんだけど」

そうだ、ブラックキャット。結衣さん、怪我をしたって。
あわててそちらに駆け寄ると助け出した女の子と一緒にへたり込んでいる。

「だ、大丈夫ですか?立てますか?」
「ああ、大丈夫っス。でも立てないけどね」「ええ?」

彼女の両膝から下が・・・無かった。

「義足なんスよ。生身のトコはアクアヴィットが治してくれたんスけど、こっちは叩きつけられたときに動作不良起こしたみたい。こうなると付けといても重いばっかりで動けないんで。外せば、テレポートでも這ってでも逃げられるッスからね、念のため」

見ると、あの茶色のブーツがすっぽりと外れてすぐ脇に転がっていた。
え、でも、じゃあ。

『そんな顔しない。彼女は彼女の道をちゃんと彼女の足で歩いてる』

芳江先生の声だ。

『アクアヴィット、まだドーピングの余力があるならファイアフォックスを「癒し」てあげてくれる』

その声は副長だ。

「大丈夫です」「まあ、そう言わないで」

アクアヴィットに背中から抱きしめられた。全身がじんわりと温もり活力が沸いてくる。

「本来は、こっちが私の力なんだよねー。荒事担当ばっかりだけど」

いつの間にか目の色が戻っている。きっと彼女も何か秘密があるんだろうけど、今は聞く気になれない。
総長がのんびりした口調で告げる。
『3人ともご苦労様。今、環境保全部が回収に向かってるよー。北村さんご夫妻…美鈴ちゃんのパパとママも一緒だから。・・・じゃ、これにて作戦しゅーりょー。はやく帰ってきてね』

『「お疲れ様でしたー」』

期せずして、全員の声がハモった。
こうして、わたしの竜胆連としての初仕事は終わった。

・・・いつの間にか日が暮れかけている。疲れた。


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【とりあえず、了】


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