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ワタクシ的典礼暦解説:後編

この典礼暦解説は私がかつてやっていたブログに2005年の年末に掲載したものに若干の加筆修正を加え、長めなので前後編に分けたものです。

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さて、クリスマスが終わって、寒いながらも平凡な日々を過ごしていると、イースターが近づいてきました。「灰の水曜日」から四旬節がはじまります。

四旬節: 復活祭を準備する40日間。受難節とも呼ばれます。「灰の水曜日」から始まり「聖木曜日」に終わります。 冬の終わりから春にかけて、人が神によって作られたものであること、その救いのために、神から使わされた「御子」が人の罪をすべて背負って死んでくださったことを思い起こして自らの生活を反省する期間です。 また、復活祭では洗礼式が行われるのが通例のため、この期間は新たに信者になる人達のための要理教育のラストスパートでもあります(通常、カトリックの信者になるには半年から一年ぐらいの教育を受けます)。

余談ですが、中世ヨーロッパでは回心を表すために肉食(肉・タマゴ・乳製品)を禁じられ、毎日を塩漬けのニシンとマメと玉葱で過ごす陰気な季節でした。 ちなみにドイツでは四旬節の終わりに「ニシンの聖者(貧乏神)」を川に流して夏の到来をお祝いする習慣があるそうです。

イースターの象徴として「赤く着色したタマゴ」が用いられるのは「生命」「太陽」のしるしです。 つまりイースターは夏(太陽の季節)の到来を告げるお祭りでもあるのです。この辺、クリスマスが「冬至」と結びついてるのと同じ思想を感じます。

灰の水曜日: 人は神によって塵から作られたものであることを想起し、そのわざの偉大さを記念する日です。 このミサから40日間が四旬節です。

枝の主日(受難の主日):聖週間の始まり。イエス・キリストが(馬ではなく)ロバに乗ってエルサレムに入城したことを記念する日です。イエスを迎えるにあたって、群衆が己の上着を道に敷き、上着の無いものはナツメヤシの枝を採って敷いたという聖書の記述からこの祝日にはナツメヤシなどの植物の枝が祝別されます。この枝、持ちかえって各家庭の祭壇に飾り、毎年新しいものと交換する。ちょっと「酉の市」や「えべっさん」感がある風習ですね。

聖木曜日:(最後の晩餐・洗足式) ミサ(聖餐式)の原型となる主イエズスとの最後の食事を記念する日。 また、この日のミサにおいてはこの食事の際に主ご自身が弟子たちの足を洗ったという姿に習い、司祭が教会の主だった信徒の足を洗う洗足式という儀式があります。常に従うものとしてある、信者の生き方を表すものとされています。

この日のミサの最後に聖堂に普段安置されている様々な祭具が片付けられ、十字架のイエズス像には布がかけられ、常に教会にキリストがいらっしゃることを表す「聖体ランプ」といわれる明かりが消されます。

聖金曜日:(十字架の道行・主の受難) 磔刑に処されるイエズスの苦難を黙想する日。 教会に復活されたキリストの存在がなくなるこの日はミサは行われません。 ただ、信徒たちはその死の意味を考え、わが身を省みるために聖堂に集まります。

聖土曜日:(復活徹夜祭) 「主の復活」が成し遂げられたことを記念する日です。 真っ暗な中で儀式は始まります。復活のろうそくと呼ばれる大ろうそくに火がともされふたたび「キリストの光」に世が照らされたことが高らかに宣言されます。 本来は土曜日から日曜日に日付が変わるタイミングでミサを行い、そのまま復活祭になだれ込みます。

復活祭(主の復活): イースターです。通常は春分の日のあとの最初の満月に最も近い日曜日。 日本ではキリスト教最大のイベントはクリスマスだと思われていますが、本当はこちらが最大のイベント。

余談ですが、聖木・金・土曜日は「聖なる過越の3日間」と呼ばれます。 「過越」はもともとエジプトに隷属していたユダヤ民族の独立を記念する行事です。 モーゼが海を割るシーンで有名な、いわゆる「出エジプト」ですね。 このとき、神はユダヤの民の開放を要求するべくモーセを通じて様々な災いをエジプトにもたらします。 そのとどめが「過越」。エジプトのすべての家々をめぐりその家の長子をことごとく殺して歩きます。 ユダヤの民は家の門に子羊の血を塗って目印とし、この災いを避けます。

旧約聖書では繰り返し「贖いの子羊」が神への供物として登場します。 いわゆる「旧約」とはユダヤの祖たるアブラハムが、生贄の肉を焼き、その血を大地に注いで結んだ神との契約のこと。新約聖書においては「贖いの子羊」は「人類の罪をすべて引き受けて磔刑に処されるイエズス」を象徴的に表す存在となります。

パンとぶどう酒を、十字架にかけられる主ご自身の肉と血だと思って分かち合いなさいという教えも 上記の背景を知らないと、なんとなくカニバリスム的で日本人には受け入れにくいえげつなさを感じるところかもしれません。

生贄を使う供儀は、ユダヤ教のみならず古代中国からペルシア、ヨーロッパ圏などの多くの宗教で見られますが、どこの宗教でも、これらの供儀はその後何らかの形代(象徴)によって代行されソフィスティケートされていきます。古代日本の埴輪などもそうですね。 キリスト教における「パンとぶどう酒」もユダヤ教からの脱皮を図る際の代替手段であったのかもしれません。

復活節: 「復活祭」からの「主の昇天」を含む49日間。翌日が聖霊降臨の主日。 季節は初夏から盛夏に向かいます。木々は茂り、日はさんさんと輝き、この世をおつくりになった神のわざをもっとも身近に感じられるシーズンです。 復活祭に新たに信者になった兄弟たちとともに神の栄光をたたえて元気に生活する期間ですね。

主の昇天: 復活祭から約40日後の日曜日(本来は40日後の木曜日)。復活後のイエスが弟子たちの前から天に昇ったことを記念する日です。

聖霊降臨: 主の昇天の次の日曜日。炎の舌のような形をとった聖霊が弟子たちに降り神の力あるわざや復活されたキリストの証を述べ伝えはじめたことの記念日です。キリスト教会の創立記念日と思えば間違いないです。

年間第×主日: 「聖霊降臨」から「王たるキリストの主日」までの間の日曜日も「年間第×主日」と呼ばれます。要するに特別でない期間ですが、その間に、以下のお祭りがあります。

(諸聖人祭)前日が例のかぼちゃと戯れる仮装行列な日(ハロウィーン)なのでそっちがやたら有名ですが、キリストの諸聖人を記念する日。
(死者の日)すべての死者のために祈る日。

王たるキリストの主日: 年間の最終主日。 これで典礼暦の1年が終わり、次の日曜日から待降節となります。

以上、駆け足で典礼暦の一年を追いかけてきました。
はじめにも申し上げましたが、間違っていると感じるところとか、違和感とか、あるとは思いますがご容赦ください。・・・「意見の相違」や「宗派による理解の差」ではないあきらかな間違いは、コメントいただけると嬉しいです。多少の判断を加えて訂正を入れます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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