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20 社長の自己主張

とある調べ物をしていて、2016年に山ちゃんが亡くなっていたことを知った。

山ちゃんというのは山寺宏一でも、山里亮太でも、山崎邦正でもなく、名古屋発祥の手羽先チェーン「世界の山ちゃん」の創業者・山本重雄氏のことである。山ちゃんは自身を店の顔として、似顔絵を用いたキャラクターにしていたので、顔写真を見たことがなくても、なんとなくその容貌はイメージできるだろう。

ぼくが初めて世界の山ちゃんに行ったのは2005年の2月だった。当時、ネットを通じて仲良くなった友達とオフ会をしようということになり、ちょうどその頃、名古屋で有名な世界の山ちゃんが東京に進出してきたというので、前年に開店したばかりの西武新宿店をその会場として選んだのだ。

ただ、そのときは山ちゃんの手羽先の人気ぶりをよく理解しておらず、予約もせずに行ったらとても入店できる状況ではなく、その日は別の居酒屋で飲むことにした。しかし、この日の「予約なしでは入れなかった」という体験が、いっそう山ちゃんの手羽先を食べてみたい気持ちにさせた。

その願いは、運良く翌月すぐに叶う。仕事で名古屋へ行く機会があり、そのことを、名古屋在住の野球カードコレクターの知人に話したら、現地にいるコレクターの仲間が集まって歓迎会をしてくれるというのだ。当然、ぼくはその会場を世界の山ちゃんに指定した。

集まったのは7人ほどだっただろうか。東京ほどの加熱人気ではないとはいえ、7人プラスぼくを入れて8人がいきなり入店するのは難しい。最初に行った店では入店を断られたが、さすがは本場。支店はいくらでもあるので、近くにある別の店に行ってみたところ、すんなり入ることができた。

そこで起こった話もかなりおもしろいのだが、本題から逸れすぎるので、それはまた別の機会に書こう。とにかく、初めて食べた山ちゃんの手羽先は、スパイスの刺激と、その奥からじわりと感じられる甘味のバランスが絶妙で、一瞬のうち大ファンになった。山ちゃん、本当にいいものを発明してくださった……。

世界の山ちゃんのように、創業者を店のイメージキャラクターにしている飲食店は多い。

もっとも有名なのは「すしざんまい」の木村清社長だろうか。マグロの初競りで史上最高値の3億円で落札したことから一気に名前が知れ渡った。両手をポンと打って「すしざんまい!」と叫ぶパフォーマンスは、そのまま等身大の立像にもなって店頭に立っていたりする。

すしざんまいが関東を代表する看板社長なら、関西を代表するのは「がんこ寿司」の小嶋淳司会長かもしれない。豆絞りの手拭いを鉢巻にして、口をムッと一文字に結んだ頑固そうなおやじさんの絵。これは俳画家の戸田尋牛に依頼したものだそうだ。

飲食店ではないが、「APAホテル」の元谷芙美子社長は常派手な帽子をかぶり、「私が社長です」のキャッチコピーと共にマスコミに露出している。一度見たら忘れられない顔写真入りのレトルトカレーや携帯ストラップを作るなど、自身をキャラ化して宣伝に励んでいる。

等身大の立像といえば、ビートたけしのカレー屋「北野インド会社」や、梅宮辰夫の「梅宮辰夫漬物本舗」では、店頭に本人を模した立像が立っていた。彼らは人気芸能人だから、そうやって存在感をアピールするのはよくわかる。しかし、寿司屋の経営者という一般人を立像にするのは、やはりよく考えると不思議なことだ。社長の自己主張が形となって客を出迎える。なんとアクの強い営みだろうか。

……と、ここまで書いて、世界でもっと有名なイメキャラ社長がいたのを忘れていた。

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