日本のカジュアルゲームデベロッパー大躍進の裏側と、僕が今後期待していること

先日KAYACさんのカジュアルゲーム、Park Masterが、iOSのUS App Storeで見事1位を獲得されました。

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アプリはこちら。
iOS: https://apps.apple.com/jp/app/park-master/id1481293953
Android: https://play.google.com/store/apps/details?id=com.kayac.park_master&hl=ja

これで日本のカジュアルゲームデベロッパーさんで、US1位を獲得されたのは、僕の知る限り4社目だと思います(もっとあったらごめんなさい)。
とても素晴らしいことです。

グローバルでのカジュアルゲームの市場を見ると、大手のパブリッシャーによる寡占状態が強まってきており、いわゆる自分たちでゲームを開発しているデベロッパーで新しい会社が上位に入ってくることは極めてまれです。
そんな中でUSのTop10に新しいゲームを送り込み続けている日本のデベロッパーの魂に感銘を受けております。一方でこれらの裏側には、AppLovin JPのBDチームの地道かつ献身的な仕事も一役買っています。
このような結果を出し続けられる理由は4つあると考えています。

1. MAX

一見地味で、単に順番にSDK呼べばいいんでしょ、ってだけに見えるメディエーションツールですが、実際は各ネットワークSDKの仕様の差異を吸収し、なるべく正確に収益を計測し、ABテストをすることは至難の業です。
実際今僕が一番時間を使っているのがここです。
機会損失を限りなく0にすることで、単にMAXに乗り換えただけでも大幅な利益のリフトを得ることが出来る裏には、地道な仕事が潜んでることを知りました。
各ネットワークのエラーであっても必ずまずMAX側で出来る限りの原因、及び対策を見つけた上で、各ネットワークとコミュニケーションを取る、これを数十のネットワークに対してやり続けることは、想像以上です。

2. 公平性

MAX自体がAppLovinのトラフィックを完全に他と公平に扱っているのはもちろん、BDチームはあくまで収益の最大化を目指して、他のネットワークの最適化も提案し、ネットワーク自体を紹介することもザラです。
実際MAXになる前は30%くらいの収益がAppLovinだったのに、MAXにして5%になる、とか普通にあります。
こんなこと普通は絶対やらないと思うし、この数字こそが公平性の証明になってると思います。
メディエーションのレイヤーは、ある意味どのネットワークを配信するかの決定権を持つ神のような存在なので、そこを抑えて自社のネットワークを優位に配信したい、というのはビジネスの原理として非常に理解できます。しかし1つのネットワークが50%や60%の収益を生み出している状態がヘルシーじゃないことは容易に分かるでしょう。

3. UA/Monetizeの一本化

これも、業界のスタンダードからは完全にずれていると思いますが、AppLovinには出稿側、マネタイズ側の区別がありません。一人の担当がクライアントさんの両面を見ます。
特にハイパーカジュアルは、マネタイズの数値とUAの数値がリンクしているために、ここのフィードバックの速さが極めて重要です。
マネタイズの数値を分析し、すぐにUA側に反映する、これが出来ないとどんどん競争の激しくなるカジュアルゲームの市場で上位に立つことは至難の業です。

4. ビジネス理解

クライアントのビジネスそのものを理解して、包括的、有機的にベストなアクションを取れる。これはAppLovin全体ではなく、その中でもJPチームの圧倒的な強みになります。
例えばカジュアルゲームであれば全員がUSのトップチャートのアプリをプレーし、何がうまく行く要素なのかを話し合ったり、ゲームへのフィードバックも行います。(もちろん無料サービス)
ともすれば、ネットワーク側への局所最適化になりがちな営業、という行為を、ちゃんとクライアントの利益のためになる落としどころを広い範囲で探すことが出来るので、息の長いパートナーシップが可能です。
これは3で、UA/Monetize双方の知識を持つことで、ビジネス全体の理解が可能になります。またBDのメンバー自身も、起業経験があったり、元ゲーム開発のエンジニアであったり幅広いバックグラウンドを持っているので、それぞれの強みを活かし、協力してビジネスを伸ばしています。

さて、これまでは手前味噌に見えることを書いてしまったので、これまで僕が日本のデベロッパーを見てきて感じたことを最後に書きたいと思います。
これまで世界的に見るとまだまだ日本のデベロッパーのヒット作は少ない状況で、そこにはいくつかの歴史的、文化的な要素があると思います。

1. 完璧主義

ザッカーバーグは、Done is better than perfect.と昔言っていましたが、カジュアルゲームはまさにこれです。速さは最大の武器です。
早いデベロッパーであれば、数日で1個プロトタイプを作って、すぐにテストマーケティングをします。
一方で、日本のデベロッパーを見ていると、最初の段階で出てくるもののクオリティはかなり高いことが多いですが、その分プロトタイプが出てくるまでに数ヶ月かかる、みたいなことがよくあります。
とにかく無駄を削ぎ落とし、妥協し、ユーザーに体験させたいたった1つの体験にフォーカスすること、これが第一のハードルです。

2. スクラップ&ビルド出来ない

さて、プロトタイプが出来た時点でテストマーケティングをします。結果はどうでしょう?大体9割がそこですぐに数値を見て、無理だと判断出来ます。さらに、そこを通過したうちの9割はその後のテストで脱落します。
つまり、いかに早く見切りをつけて次に行くか、が非常に重要です。
この段階に来た時に、非常によく聞かれる質問があります。
「このゲームが成功する可能性はゼロなんですか?」
それは誰にも分かりません。2年かけて改善したらうまくいくこともあるでしょう。ただ1つ言えることは、統計的に短期間で成功する確率は限りなくゼロに近い、ということです。
それを語るのはデータであり、そのデータに殉じることが第二のハードルです。

3. ものづくり文化

日本は歴史的にものづくりの文化があり、これまでも素晴らしい製品を世界に送り出してきました。しかしそのことが、悪い方向に働いてしまうこともカジュアルゲームの世界ではよく起こるのです。
ゲーム=アートであるので、お金になど興味はない、お金を稼ぐことは悪である。こういった考え方は、気づかないかもしれませんが、少なからず僕らの身に染み付いていることが多いです。
中国の会社と話すと、これを非常によく指摘されます。彼らの多くは、ゲームはビジネスだからお金を稼ぐことが何より重要である、と考えています。
僕はゲームが大好きですし、漫画もアニメも大好きなので、もちろんそういう意味でアートな側面は絶対にあると思います。
ただ、それがビジネスの足を引っ張ることがないとは言えないのです。

では、これから先カジュアルゲームの市場で日本のデベロッパーはどう戦っていけば良いのでしょうか。今でも大小を問わずたくさんの会社さんからカジュアルゲームへ参入したい、というお話を頂きます。その中でもいわゆるソーシャルゲームを作っている会社さんからも、お問い合わせ頂くことが増えました。
僕はまさにそこに日本のデベロッパーが世界で輝く道があると思います。

ハイブリッドカジュアル

去年から僕が勝手に「ハイブリッドカジュアル」、と呼んでいるゲームのジャンルがあります。

現在多くのカジュアルゲームは、広告収益が全体の9割以上で、いわゆる課金収益はほぼありません。
少し前のタイトルになりますが、比較的長期でヒットした、Mr. BulletのApp Storeの順位データを見てみましょう。

図1

まずは、ダウンロードのランキング。1位を取ってから、30位くらいを長期でキープしています。かなり成功したカジュアルゲームだと言えるでしょう。

図2

 次に課金のランキングです。これは相当低順位ですね。ほぼないに等しいです。

一方で、ハイブリッドカジュアルは、広告:課金が1:1に近い、もしくはそれ以上のものと定義します。
とてもいい例が、アーチャー伝説です。
アプリはこちら、
iOS: https://apps.apple.com/jp/app/アーチャー伝説/id1453651052
Android: https://play.google.com/store/apps/details?id=com.habby.archero&hl=ja

図3

まずはダウンロードのランキングですが、こちらは大体20-50位くらいを長期で維持しています。

図4

そしてこれが課金のランキングです。なんと50位くらいにずっといます!

広告での収益だけだと大体アプリのLTVはどんなに頑張っても$1くらいが限界です。しかしハイブリッドカジュアルであれば、同じだけの課金があるとして単純に倍の$2。実際はゲームの運用などがあるものが多いのでユーザーのライフタイムが長くなるので、もっとLTVも上がると予想されます。
一方でゲームの見た目は非常にカジュアルに見え、ある程度の低CPIで獲得することが可能です。

僕がなぜ日本のデベロッパーがハイブリッドカジュアルに向いていると思うのかは、日本には世界一の課金、運用のノウハウがあるからです。
ソシャゲで培ったそのノウハウを活かして、新しいコンセプトに挑むデベロッパーが出てくれば、僕は日本からSupercellのような会社が生まれることも夢物語ではないと思いますし、そうなってほしいと願っています。

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