『天満の師走』 作・モトキ タカノリ

 大阪・天神橋筋商店街から左の横道に入ると、大阪天満宮がある。日本三大祭りのひとつ天神祭りがあり、地元の人は天満の天神さんと呼ぶ。生まれも育ちも天満の市島潔は、毎月1日になるとお参りに訪れる。神恩感謝に真心を捧げ、無事に一か月過ごせた感謝と、新しい月の無病息災・商売繁盛など祈念する。祖父が興したガラス工芸品の加工会社を30歳で継いで以来、40年間欠かすことなく続けてきた習慣だ。
 潔が家業に従事してから40年のあいだに、大阪市内にあった中小あわせて60社ほどあったガラス加工業者は地価高騰のあおり受けて移転や廃業を余儀なくされた。特に平成に入ってから、安い輸入品に押されてガラス産業自体が衰退の一途をたどり、市内でガラス加工を営む業者といえば、潔が経営する市島ガラス加工所の一軒だけになってしまった。

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