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胡蝶は夢なのか

忙しい先生のための作品紹介。第9弾は……

佐藤利行、越智光夫『胡蝶は夢なのか』(中央公論新社 2021)

対応する教材    故事成語
ページ数      190ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★★
読みやすさ     ★★★☆☆
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★★★☆☆

作品内容

 中国の故事を31個とりあげて紹介しています。故事成語の本文(書き下し文)と現代語訳、出典解説、2人の作者の対談が載せられています。1つの故事成語について、多くが5ページ程度、長いものでも10ページ程度で書かれており、軽く読むことができます。

おすすめポイント「故事成語の文脈がわかる」

 本書の筆者は、漢文学者で広島大学副学長を務める佐藤利行氏と、整形外科医で広島大学学長を務める越智光夫氏です。2人の対談では、佐藤氏が漢文の背景や関連する別の漢文などを紹介し、それを受けて越智氏が医師や学長という目線で話を広げます。それにより、漢文の意味をただ理解するだけでなく、その考え方が別の分野や実生活にどのように活かされるのかがわかります。

 また、故事の背景が記されている点も大きな特徴です。それぞれの故事成語がどのような文脈で生まれたのかが現代語で詳しく説明されています。たとえば「矛盾」であれば、該当箇所の前で孔子の言葉が引かれています。孔子は、周王朝の君主である堯と、その家臣で民を徳化(徳によって感化すること)した舜をどちらも賞賛しました。それに対してある人が「尭がすばらしい君主なら舜が民を徳化する必要はないし、舜が民を徳化したのなら尭はすばらしい君主ではない」と矛盾を暴きます。これにより、法家である韓非が儒家である孔子を批判するためのたとえ話であったことがわかるのです。

 他にも、故事が出典ごとにまとまっており、歴史の流れや諸子百家の考え方の違いもわかりやすくなっているなど、故事成語そのものだけでなくその背景知識までしっかり学べるのが本書の大きな特徴です。

授業で使うとしたら

 各章段は独立しているので、一冊すべてを読む必要はありません。扱う箇所だけを読めば内容がわかるようになっています。

 本書は、教材部分の解説にとどまらないため内容はもりだくさんです。しかし一つ一つの解説が短く、また柔らかい文体で書かれているため、内容のわりに読みやすくなっています。
 一部の対談は生徒に身近でない話題もあり、少し難しい場面もあるかもしれません。しかし、対談の前の解説部分だけでも読む価値は大いにありますので、紹介しやすい本です。

 故事成語を授業で扱う場合、出典作品と内容が直接的には関係ないものが多くあります。例えば「矛盾」であれば、出典である『韓非子』の特徴と「矛盾」の話がどのようにかかわっているのかがわかりにくいのではないでしょうか。本書では、出典作品の特徴などと故事の内容を結びつけているため、教材の内容を学習した後の補足説明として使用することもできます。

【付録】掲載されている故事成語一覧

・朋有り遠方より来たる(『論語』)
・吾十有五にして学に志す(『論語』)
・後生畏るべし(『論語』)
・剛毅朴訥、仁に近し(『論語』)
・憤せずんば啓せず、悱せずんば発せず(『論語』)
・学びて思わざれば、則ち罔し(『論語』)
・伯牛疾有り。子之を問う(『論語』)
・助長(『孟子』)
・五十歩百歩(『孟子』)
・其の天爵を修めて、人爵之に従う(『孟子』)
・是れ為さざるなり。能わざるに非ざるなり(『孟子』)
・天網恢恢疎にして失わず(『老子』)
・小国寡民(『老子』)
・胡蝶の夢(『荘子』)
・吾は将に尾を塗中に曳かんとす(『老子』)
・轍鮒の急(『老子』)
・出藍の誉れ(『荀子』)
・矛盾(『韓非子』)
・履を置わんとして度を忘る(『韓非子』)
・官を侵すの害(『韓非子』)
・不死の薬(『韓非子』)
・株を守る(『韓非子』)
・病膏肓に入る(『春秋左氏伝』)
・貪らざるを以て宝と為す(『春秋左氏伝』)
・虎の威を借る狐(『戦国策』)
・三人之を疑えば、すなわち慈母も信ずる能わざるなり(『戦国策』)
・前利を得んと欲して、後患を顧みず(『説苑』)
・舟を刻みて剣を求む(『呂氏春秋』)
・知音(『呂氏春秋』)
・塞翁が馬(『淮南子』)
・耳を掩いて鐘を盗む(『淮南子』)

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