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「imagination」発売に寄せて/とおるくんのお話

2022年11月2日(水)

永原真夏2nd Full Album

「imagination」


\祝/発売\祝/


やったー!!!!

入稿の諸々が嵐のように去って(本当に嵐だった)、いまはツアーに向けて、いそいそと準備をしています。来週には、ジャケットや曲目を公開できるはず。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。


 

さて、今日は、このアルバムをつくる際に、きっかけになった人のお話を綴ってみようかなと思います。


私は高校生のとき、よく、吉祥寺の東急前にあるドトール(通常デカド/なぜなら吉祥寺で一番大きなドトールだから)に放課後お茶をしに行っていました。〝よく〟なんていうのはかっこつけで、ほぼ毎日、やることもないので、ドトールに出向いては閉店まで友達と時間を潰しているかんじ。

毎日同じ喫茶店に通うようになって、初めて気がついたことがあります。それは、自分と同じように、毎日ドトールにいる人たちが存在するということ。

そのうちの一人に、私たちはコッソリあだ名をつけました。「とおるくん」です。ドトールの『トール』部分を拝借しました。とおるくんは、推定40才くらいの男性で、長身で、眼鏡をかけていて、髭をもじゃもじゃに生やしていました。Yシャツを着て、いつも姿勢良くテーブルに座っています。

とおるくんは、いつも一人でした。一人で来て、いつも同じホットコーヒーを頼み、いつも同じ席に座り、いつも同じ言葉を、一人でずーーーっと、繰り返し発しています。確か、いつも政治にまつわる単語を叫んでいた気がします。あまりにも大きな声で同じことを繰り返し発し続けるので、最初はびっくりしたけれど、それ以外は普通なので、私たちも、まわりのお客さんも、店員さんも、皆そこにとおるくんがいることをあまり気にしていないようでした。

しまいには、待ち合わせに早く着いた際などには「とおるくんの後ろの席陣取ったーーー」と友達同士でメールし合っていたくらいです。

そうして、とおるくんが私たちの中で馴染みのメンツになって数年後、初めて街中で、とおるくんを見かけました。おそらくお母さんと思われる人と仲良く歩いていて、あまりに普通に、サザエさんの一コマくらい、自然に、コミュニケーションしていました。

私たちはびっくりしました。

なにせよ、普通に会話するとおるくんを、その日初めて見たんですから!

私たちが知っているとおるくんは、空気に向かって、ずっと同じ言葉(というより、単語という方が近い)を繰り返していて、私たちには見えない何かが、彼には見えているんじゃないかという雰囲気でした。

ここにいるのに、ここがまったく見えていないかんじ。

どちらがとおるくんの本当の姿なのかなんて、わかるわけありません。思えばどこに住んでいて、どんな人生を歩んでいて、どんな人なのかすら、うちらはまったく知らないし。

思えば、いつも彼が喋っている単語は、一体なんなんだろう。なにを表しているんだろう。

正直、へんな人で、頭がおかしくて、それだけかもしれない。けど、もしかしたら、とおるくんにしか見えない・わからない何かがあって、それがただの妄想だとも、言い切れないんじゃないのか。わたしが見ているこの世界だって、真実だと証明することはとっても難しい。

わたしとあなたしかいない空間であったことが、他者からしたら嘘か本当かわからないように、いや、誰かたった一人と寸分狂わずまったく同じ景色を見ることや、等しく状況を共有することだって難しいのに、とおるくんがおかしくて、私が普通だなんて、そんなわけがあるかよ。

世界は人一人分あって、それが重なって〝世界〟と呼ばれるものが構築されているんだと、初めて知る体験だったように思います。


私たちも吉祥寺のドトールに集まらなくなって随分と時が経ち、とおるくんのことなんてすっかり忘れていたのですが、コロナ禍になり、彼をふと思い出すことが増えました。わたしもあなたも、とおるくんと似たように喋っているねと。


テレビがなければ、スマホやPCがなければ、あそこでたまたま会って喋らなければ、わからないことがたくさんありました。誰にも言わなければ、なかったことになることも、たくさんたくさんありました。私の頭の中でしか起こらなかった怖いことや恨み、ハッピーなことやかわいいことも、たくさん。

窓際のテディベアが寂しそうな気がする。お皿を拭いたら喜んでいる気がする。あの人は悲しんでいる気がする。空気を含んで、風が膨らんだ気がする。分かち合った気がする。昨日と今日で、生まれ変わった気がする。

私がおかしいのか?これは現実かな、妄想かな???


ひとつ確実なことは、見ないと知ることができない情報があるということと、見ないと芽生えない感情があるということです。


そして、そこから旅に出て、音楽を作ったのが、新しいアルバム「imagination」です。


長くなりましたがつまりは、どうぞよろしくお願いいたします、というご挨拶です。

煮るなり焼くなり飛ぶなり潜るなり、お好きなときに、お好きに聴いてね。


ツアーもあるよ!

イェイ
たのしみだな〜

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永原真夏
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