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死んだように眠る

体が重く感じてから五日目。
ついに動かせなくなった。
今日の一限は無理だな。と思いながら天井を見つめる。
二限は出席したいと思いながら、一時間かけて布団を出た。

思い腰をあげて、ぐっと伸びをする。
耳元でぞわぞわとした音が流れる。
聴診器で血圧を測って以来、これが血が流れる音なんだと理解した。
「今日も生きている」と暗い部屋でひとり呟く。

9時に立ち上がったのに、既に時計の短針が10を指している。
準備は全然進んでいないのに、記憶がないまま時間が溶けていた。
なんとか靴を履いて玄関のドアを押すと、
まぶしすぎる光に目がくらんでふらついた。

朝から居ました、とでも言いたげな表情で教室に入る。
『あれ?いるなぁ…。さっき居ないと思ったんだけどおかしいな。』
「気のせいだよ、疲れてるんじゃない?」と隣の友人と冗談を言う。
友人と私は通学時間長い同盟を組んでいて、今年、私は裏切った。

なにより電車が嫌いだった。
香水の匂い、閉鎖された空間、近すぎる距離。
ガタゴトという音が耳の中で反響する。
通学時間を理由にして、一人暮らしを希望した。

『やっぱり一人暮らしってしんどいものなのか。
 私達は早起きして時間かけて来てたじゃん?
 だから一人暮らしなら朝楽勝、って思うんだけど。』
「…私寝つきが悪くて。今日ほぼ徹夜状態なんだよね。」

寝つきが悪いのは嘘ではない。
徹夜状態は嘘だった。
いつからか私は“寝坊しがちな人”になった。
朝早くから目は覚めているのに。

寝ようと思って布団に入っても、一時間は眠れない。
ずっと天井を見つめてぼんやりとする。
小さい頃は天井の染みで顔を作って、心の中で会話をしていた。
真っ白な一人暮らしの部屋では、話し相手も居なければ天井の染みすらない。

ふと友人の言葉を思い出す。
もうなるべく休みたくない。
朝起きたら体が軽くなることを祈りながら、
ゆっくりと死んだように眠った。

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