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”泊まれる出版社“が泊まれないときに考えたこと

こんにちは。真鶴出版 川口です。

いよいよ緊急事態宣言が解除されました。これからまたかなり状況が変わっていくと思いますが、自分たちの記録も兼ね、そして同じように地域で活動している方や自営業の方と共有できるように、ここまでの私たちの状況、そしてこのコロナ禍に考えたことを残しておきたいと思います。

まず私たちは、神奈川県の真鶴町というところで、“泊まれる出版社”をコンセプトに夫婦で活動しています。地域の情報を発信しながら、実際に町に来てくれた人を宿で受け入れる、そんな活動です。

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これまでとくに状況を発信していませんでしたが、それは大それた思想があるわけではなく、自宅保育に追われすぎて発信する余裕がなかったからです……。

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なんとか自宅保育をしながらコロナ禍以前から続いてきた仕事を一区切りさせ、各給付金の申請も終わったため、ようやく発信できる段階に入れました。

宿泊:3〜5月の売上が壊滅的。いつ再開?

まず、もっとも影響を受けたのはもちろん宿泊事業です。これまで宿は金土日を中心に受け入れていました。3、4月に関しては繁忙期ということもあり予約で埋まっている状況でした。しかし、結果的に3月は8割がキャンセルに、4月、5月は完全に受け入れを停止しました。

難しくなってきたのは二月下旬頃からでした。どんどんキャンセルが来るようになり、判断することが増えていきました。

キャンセル料が発生する場合は取るべきか? 宿泊はいつまで受けるべきか? 新規の予約受付を停止するか? すでに予約が入っている分についてはどうするか? などなど。

真鶴出版は最大二組。仮に一組限定に変えれば当初は続けられそうではありました。しかし、初めて泊まりに来てくれたゲストに付けている「町歩き」というツアーでは複数の町民と会話します。ゲストだけでなく、町民のことも考えると簡単に受け入れることはできません。

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「町歩き」では、車の通れない細い路地を案内しながら、そこで出会う町民と繋げていきます。

最終的には3月27日に予約の新規受付を停止、神奈川県で緊急事態宣言が出た4月7日からすでに入っていた予約も含めすべてキャンセルすることとしました。4月、5月と(そしておそらく6月も)まるまる売り上げがなくなっている状況です。

現在はいつ宿泊を再開するか、解除後の町の雰囲気もみながら検討していく予定です。

出版:出版物にかけようと思っていたお金がなくなる

出版事業では、目に見えて仕事がなくなったというより、「おそらく減ったのだろうな」という印象です。

真鶴出版の出版事業では大きく分けて二つの仕事があります。どこかから委託を受けて行う編集プロダクション的な仕事と、自社で企画した出版物です。

委託仕事は、しばらくの間はコロナ禍以前に受けていた仕事に取り組んでいました。5月に入って少しだけ仕事の依頼が来るようになりましたが、3月、4月は新規で仕事を受けることはほとんどない状況でした。おそらく目に見えないところで減っているのかなと思います。

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昨年度末に行なった委託仕事。真鶴町の企業誘致プロジェクト、「イトナミオフィス」のブランディングを担当。

自社の出版物への影響も、目に見えない部分が多いです。例えば昨年販売した『小さな泊まれる出版社』は、もう少し書店の取扱店舗を増やしたいと思っていましたが、営業停止しているお店もある中それどころではありませんでした。書店からの注文も一時期パタリと止まっていました。

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初回のnoteで発表したハイパーローカルメディア『いわみち新聞』も自社刊行物。真鶴よりもさらにローカルな「岩道」を舞台にした新聞。

そして一番の影響は、もともと自社の出版物の制作費にかけようと思っていたお金が、宿泊事業の穴埋めですっかりなくなってしまったことです。後述しますが、政府からの支援である程度はまかなえそうですが、いつまでこの状況が続くかは分かりません。これから何にどのぐらいお金をかけるのか、どうしても慎重にならざるをえません。

そのほか、ありがたいことに3〜5月にいくつかイベントを呼んでもらっていましたが全てキャンセル。ちょうど今年は外に出て行く年にしよう! と思っていた矢先でした。

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最後にイベントに出演したのは、2月下旬に福島県猪苗代町「はじまりの美術館」で行われたイベント。もうすっかり遠い昔のようです。

生活の変化:子育ては終わりのないマラソン

仕事以外の面でも大きく影響を受けています(いや、むしろこれがすべてと言っても過言ではありません)。前述したように、4月から自宅保育を始めました。

現在息子は2歳5ヶ月。「魔の2歳児」といわれるように、動き回りしゃべるようになり、自己主張する状況。かといって分別がつくわけではないので目が離せません。我が家では平時から子育ては夫婦で完全交代制なのですが、自宅保育においても一時間半ごとに「子育て」と「仕事」を交代して取り組んできました。

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保育園のときは必ず昼寝をしていた息子は、自宅保育中あまり昼寝をせず、夕方5〜6時頃寝て、朝5時頃に起きるという生活になってきました。だいたい午前中に一コマ(1.5H)、午後に一コマそれぞれが仕事をし、必要に応じて合間に息子にトトロを見てもらいながら打ち合わせ、夕方4時頃からお風呂や夕飯の準備。息子が寝て、元気があるときはもう一仕事して、22時〜23時頃就寝というのが一日の流れです。体力や集中力的にも二つ同時に進めることは難しく、どうしても仕事をする時間は普段の半分以下になっています。

そして子育てに休日はありません。平時では妻の実家がある横浜に帰ったり、両親に真鶴に来てもらったりしながら休日をつくっていました。また、週一回は湯河原のサウナと温泉に行ってリフレッシュしていました。それができない今、まるで終わりのないマラソンを走っているような状況でした。

ただ、体力的には辛い状況ですが、同時にこれ以上幸せなことはないと思っています。子供が一番成長するといわれる3歳までの間を、夫婦揃って見届けることができること。おそらくコロナがなければ何も考えずに週5日、時間にして週に約40時間保育園に預けていたと思います。仮に「子供を見る時間を増やそう」と思っても、ここまで増やすことはできなかったはずです。それが全世界的に子供とずっと一緒にいることが肯定されていたわけなので、こんな良いことはありません。

この2ヶ月家族でずっと一緒にいたことは私たちにとって貴重な時間でしたし、長い目で見たときに子供の成長にとっても良い影響があると信じています。

コロナ禍中の目標:「メンテナンス」と「note」

ではそんな中でどんなことを考えたのか。3月下旬、まだ今後どうなるかわからなかったときに、まずは「コロナ禍の目標」を二人で立てました。

まず、直感的に最低でも5月末までは続くだろうと想定しました(結果的に大体合っていました)。

真鶴出版は幸い固定費があまりかかっておらず、従業員も雇っていません。年度末の3月にまとまったお金が入ったこともあり、4月、5月の宿の売上が立たなくてもやっていけそうでした。そこで、5月末までの目標を「メンテナンス」と「noteの発信」に決めました。

「メンテナンス」では、これを機にこれまで後回しにしていた宿の植栽や倉庫の掃除、壁塗り、ショップの充実や経理の整理などなど手をつけられなかった部分に取り組むことにしました。

「noteの発信」はまさにこの記事もその一つですが、今後数本の記事を準備しています。今までFacebookページを中心に真鶴の暮らしを発信し、2800人のフォロワーがいました。しかし、このnoteで暮らし以外の部分、自分たちの思想や学んだことを言葉にまとめていくことは、コロナ禍関わらず恒久的に真鶴出版を支える力になると思うからです。

コロナ禍に特化した対応:「未来チケット」やクラウドファンディングについて

コロナ禍だからこそ、さまざまな事業者が独自の取り組みを行なっています。宿泊業で代表的なものだと「未来に泊まれる宿泊券」だと思います。

地域での取り組みだと、真鶴からさらに西にある伊豆下田がクラウドファンディングを実施し、すでに1,500万円以上集めています。

周りがどんどん積極的でクリエイティブな取り組みをしていく中で焦らなかったかと言えば嘘になります。ただ、前述のように真鶴出版が設定した目標はメンテナンス。現在申請している給付金が順調に入ればあと少しはつなぐことができそうですし、他にもっと大変な状況の人たちがいる中で自分たちが支援を求めることに気が引けた部分がありました。

以前宿泊したゲストからリクエストをもらったこともあり、今後宿泊券をwebストアで販売することは検討していますが、それはあくまでコロナに関わらず販売していくものと考えています。書籍やトートバッグとセットで宿泊券を販売し、泊まる前から気分を高めてもらうのもいいなと思っています。

クラウドファンディングについては、前述のように「工夫すればなんとかやっていけるのでは」と考えているので検討していません。しかし、もし町内の他の事業者からそういった話が出れば、お手伝いをする可能性はあると思っています。この後宿がどうなっていくのかわからないので、いよいよそうも言ってられなくなる可能性もありますが……。

これから:宿を“消費活動”ではなく“生産活動”に使えるか

では長期的な視点で見たときに真鶴出版の活動にどう影響していくのか? 結論から書くと、むしろ良い方向に向かっていくのではないかと考えています。

真鶴出版の創業当初からの目的は、「多くの人にいろいろな生き方の選択肢を持ってもらうこと」です。

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書籍を読んだり、宿に泊まってもらったりしながら、大学を卒業し、都市に住んで、会社に就職するという生き方だけでなく、地方移住や小商いなど、「それ以外の選択肢」を知ってもらいたいと思っています。そしてその需要は、このコロナにより一気に増えるのではないでしょうか。

3.11以降、多くの人が生き方を見直し、実際に変えてきました。その流れと同じことがアフターコロナでも起き、地方移住もこれまで以上に“ブーム”になるはずです。首都圏から近い真鶴はその需要が高まることは確実で、これまでの積極的に広く移住者を呼び込むフェーズから、“より真鶴に合う人”を呼び込むフェーズに変わってくると考えています。そのための発信を真鶴出版でもしていきたいと思います。

宿泊業でも、これまでの活動の追い風になると考えています。これまでも真鶴出版に来るゲストの目的は、アクティビティや景勝地を巡るような“いわゆる観光”ではありませんでした。「現在地方で活動しているのでそのヒントに」「これから地方で起業しようとしていて」「これからの生き方を考えようと思って」などなど、“消費”するためではなく、何かを“創造”するためのきっかけとして泊まりに来てくれることが多いです。

リモートワークで仕事したい人、移住を検討したい人など、これからさらにそういった理由で宿を利用したい人は増えていくと思います。これからの時代の新しい宿は、いかに観光以外に宿を使えるか。言い換えると、宿を“消費活動”ではなく“生産活動”に使えるかが重要だと思うのです。

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具体的に考えていることは、再開の際には一組限定の宿に変更する予定です。移住を検討している方や、ワーケーション向けの方用の長期宿泊の形態も模索したいと思っています。

それでも、真鶴の暮らしは続いていく

最後に、このコロナ禍に感じた真鶴のことについて。

このコロナ禍で改めて感じたことは、真鶴の暮らしの強度です。もちろん飲食店が早く閉まったり、観光客がいなくなったりと経済への影響は甚大だと思います。しかし、普通に暮らす分には、これまでと変わらず、いや、むしろこれまで以上に豊かに暮らしていると言ってもいいかもしれません。

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自宅の目の前には地域の人の共同畑があり、4〜5人の近所の人が作業しています。保育園に行かずに自宅周辺で遊ぶ子供はどんどん畑の人たちと仲良くなり、今まで以上にたくさんおすそ分けをもらうようになりました。

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小さな町なので、とくに集まる約束をしなくても町を歩けば必ず知り合いに出会います。そこで数分立ち話をすることが、どれだけ大切なことか改めて知りました。

当たり前のことですが、海に行ったら海があり、山に行ったら山があり、町に行ったら人がいます。それはいつでも変わりません。畑で取れる野菜にも、港で獲れる魚にもコロナは何にも影響しないのです。

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コロナにより繋がることがまるでいけないことのようになってしまいました。しかし、「密閉・密集・密接」とは、自然や地域から隔離され、分断し続けた結果できたものなのではないでしょうか。本来は海も山も川もお年寄りも赤ん坊もすべて分断されることはできないものです。自然や地域と繋がることこそ、次の時代に必要なことだと思うのです。

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真鶴出版が考えていることについては、書籍『小さな泊まれる出版社』にまとめています。初版限定、フロスティピンクのトレーシングペーパーを使った遊び紙仕様は残り僅かです! ぜひ以下のwebストア、または取り扱い店舗にてご購入くださいませ。

ヘッダーイラスト:山本ひかる

《『小さな泊まれる出版社』取り扱い店舗(5/25時点)※順不同》
ー北海道ー
いわた書店(北海道・砂川)
 
―東北―
乃帆書房(秋田)
リードブックス(福島)※イベント出店型
BOOKNERD(岩手・盛岡)
郁文堂書店(山形)
 
―東京―
往来堂書店(千駄木)
SHIBUYA PUBLISHING BOOKS & SELLERS(渋谷)
H.A.Bookstore(蔵前)
BOOKSHOP TRAVELLER(下北沢)
かもめブックス(神楽坂)
いな暮らし(稲城)
tsugubooks(練馬)
本屋B&B(下北沢)
ROUTE BOOKS(上野)
SUNNY BOY BOOKS(学芸大学)
胡桃堂書店(国分寺)
本屋 Title(荻窪)
旅の本屋 のまど(西荻窪)
本屋 REWIND(自由が丘)
 
―神奈川―
switch box あけ/たて(横浜)
アーケードブックス(横浜)
BOOK TRUCK(横浜)※イベント出店型
ポルべニールブックストア(大船)
平井書店(小田原)
sent.(小田原)
  
―真鶴―
真鶴出版
あけび屋珈琲
割烹福寿司
honohono
真鶴ピザ食堂ケニー
草柳商店
真鶴町観光協会
スクランプシャス
パン屋 秋日和
 
ー関東甲信越ー
REBEL BOOKS(群馬・高崎)
やってこ!シンカイ(長野)
栞日 sioribi(長野・松本)
那須ブックセンター(栃木・那須)
 
―関西―
恵文社一乗寺店(京都)
ホホホ座 浄土寺店(京都)
blackbird books(大阪・豊中)
coffee books gallery iTohen(大阪・梅田)
OFFICE CAMP東吉野(奈良・東吉野)
とほん(奈良・大和郡山)
storage books(兵庫・神戸)
ブックカフェ&バー ガッツ☆オン(兵庫・神戸)
1003(兵庫・神戸)
YATAI CAFE(兵庫・豊岡)※イベント出店型
WHEELACTIONBOOKSTORE(和歌山・新宮)
らくだ舎(和歌山・那智勝浦)
 
―中部―
TSUNE ZUNE 常々(愛知・常滑)
トドブックス(静岡・熱海)※移転準備中
 
―四国―
本屋ルヌガンガ(香川・高松)
 
ー中国ー
本屋UNLEARN(広島・福山)
紙片(広島・尾道)
 
ー九州ー
ブックスキューブリックけやき通り店(福岡・博多)



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