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イナダミホとわたし

「もう振り返らないよ 時間も止めない すべてを受け止められる 私になる」(junior size『私になる』)

同い年のシンガー・ソングライター、junior sizeのデビューシングル『私になる』の歌い出しだ。これをはじめて聴いたのは、浪人生の頃だった。

自分が頭のいい人間ではないということを自覚した失望感や、友人たちから置いていかれているという焦り、選んだ高校を間違えたという後悔や、これからどうなるんだろうという不安に押しつぶされそうになっていたときだった。

「もう振り返らないよ 時間も止めない すべてを受け止められる 私になる」

過去を後悔して、自分だけが置いてきぼりだと思い込み、不安で勉強が手につかなかったわたしに、この歌は強く響いた。

高校時代は3年間、ほぼ不登校だった。家から近くて、確実に受かる高校を選んだ。でも、それがよくなかった。成績がいいと悪目立ちするため、勉強をせずに、部室で歌ばかりを歌っていた。余裕で合格したはずの高校を卒業するころには、壊滅的な成績になっていた。

そういう状態だったから、当然、浪人をした。それも2年。2浪目は柏校から御茶ノ水校に校舎を移し、夏期講習も冬期講習も、受けられるだけ受け、正月を除いて毎日予備校へ通った。

わたしの楽しみは、歌を歌うことからMDで歌を聴くことに変わった。当時はインディーズレーベルの女性シンガー・ソングライターに惹かれていて、柴草玲の『あじさい』、天野月子の『箱庭』、イズミカワソラの『浮かれビート 地下一階』、大津美紀『手のひらからこぼれる雨』……そして、junior sizeの『私になる』『手のひらに』を聴くようになった。

「もう振り返らないよ 時間も止めない すべてを受け止められる 私になる」

このフレーズは、それからの人生で、つまずいたとき、何度も立ち上がるキッカケをくれた。大学院を休学したとき、博士浪人をしたとき、仕事をやめたとき、自分になんの才能もないことを受け入れたとき……。

でも、わたしにはこの歌がある。自分らしさを取り戻すのは、自分次第だということを、この歌は教えてくれる。わたしは馬鹿だから、すぐに忘れてしまうけれど、この歌を聴くと、また立ち上がる、何かをはじめる勇気が出る。

この歌を作ったjunior sizeは、いま4児の母になり、イナダミホ名義で音楽活動をしている。年に2回以上ワンマンライブも行っている。そのイナダミホが、フルアルバムを作るために、All or Nothing方式のクラウドファンディングをはじめた。

双子の男の子たちを含めた4人の子どものお母さんとして、そしてシンガー・ソングライターとして活動することだけでも、大変なことだろうと思う。少し前に話題になった「#天井は散らからない」を取材した記事で、彼女の日常を垣間見ることができる。

「天才か」「最高すぎる発想」 部屋が散らかって嘆いていると、母が? – grape [グレイプ] https://grapee.jp/740794

今年6月のワンマンライブのときだったと思う。イナダミホは、「(対バンではない)ワンマンにひとが来なければ、自分の歌が必要とされてないということだから、ワンマンをやるのはとても怖い」と語っていた。

クラウドファンディングも、きっとそうだ。彼女の音楽が必要とされていなければ、出資してもらえない。それが、明確に数字で見えてしまう。実際に、彼女はクラウドファンディングをはじめてから、何度も胃を壊したという。

けれど、彼女が勇気を出してはじめたクラウドファンディングは、目標額の100万円を達成し、12月2日に最後のストレッチゴールを200万円に設定した。

残り日数は、あと5日。

わたしには、彼女の歌が今までもこれからも、ずっと必要だ。たぶん同じように思っているひとが、たくさんいる。そして、これから作られるフルアルバムで彼女の歌に出会って、彼女の歌を必要とするひとが、きっといる。

だからわたしは、ファンとして、彼女の歌に救われたひとりとして、全力でイナダミホを応援する。

ここまで読んでくれたみなさんに、お願いがあります。イナダミホの最高のポップスを聴いてください。そして、いいなと思ったら、ぜひクラウドファンディングでわたしと一緒に、彼女を応援してください。



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