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小豆島旅行記2【嵐の前のゲリラ上陸編】プロローグ

1.とある宿の支配人の独白

それは、翌日から始まる3連休を目前にして台風が接近していたこともあり、予定を変更するお客様も多い金曜日のことだった。
チェックインが始まり館内が賑やかになる15時前に外出先から帰館した私にフロントのスタッフがこう告げた。

「支配人宛に女性の方がが見えられています」

「女性」である。
よくホテルに出入りをしている仕事関係の人が訪ねて来ているのであれば、スタッフも名前を知っているので、「●●さん」と私に伝えるだろう。「女性」という表現をするということは、そういう人ではないのだ。
記憶が確かであれば今日この時間にアポイントは入ってない。一体誰が…。
聞くところによると、その女性はロビーで私の帰りを待っているらしい。
心当たりのない来客の存在に少し緊張しながらも、お待たせしているということで取り急ぎロビーへ歩を進めた。

ロビーで支配人を待ち構える謎の女性

チェックインがはじまる15時を待っているのだろうか、ロビーには数名のお客様の姿があった。
そして、海に面したロビーの窓辺にそれらしい小柄な女性の背中が見えた。
窓から海を眺めているその女性は、帽子を深く被っていて後ろ姿では誰であるか判別できない。
「こんにちは、お世話になります」
意を決してかけた私の声に女性が振り返る。
「あ、こんにちはー!」
と、良く通る大きく高い声で返事をしながら振り返った彼女は、顔を覆う大きなマスクをズラしてこちらに顔を見せた。
それはまるで「私、綺麗?」と問いかける口裂け女のように。

見事に崩れ落ちた宿舎さん。この後、バレないようにメンバーとは違う名義で予約していたことを聞かされて、汗ビショビショになったのである


逆光で少し暗かったが、彼女の顔を認識した瞬間、私は驚きのあまり数歩後ずさりして膝から崩れ落ちた。
なぜ…?
なぜ、ここに!?
そう思いながら崩れ落ちる視界で捉えたその女性は、私の様子を満足そうに見届けてワルい表情を浮かべてとても嬉しそうにケタケタと笑っていた。
少し離れたソファーにいた人影が彼女の後ろについたと思うと、一緒に笑い始める。
その姿にも見覚えがある。忘れる訳が無い。ひょこっと青い服の人も出てきた。
瞬時に色々悟る。
闇だ!
やられた、隠密行動だ!
…今夜は忙しくなるなぁ…。


2.チョーケシ兄やんの独白

「どうなってんの?アレ、何やったん?」

それは3連休の前、台風の接近の影響か少し暇な金曜日のことだった。
私は、キツネにつままれたような気持ちで、同じ表情を浮かべて妖怪美術館の受付に立つ妻に話しかけながら、パソコン作業をしようと窓辺の席についた。

窓辺でパソコン作業をするチョーケシ兄やん…あれ?兄やん?

時は、その少し前に遡る。
15時を回った頃だったろうか、Twitterの引用リツイートの中に不可解な投稿を見つけた妻が
「え!なにこれ…」
と声を上げたかと思うと、なにやら困惑した様子で画面と睨めっこしはじめたのだ。

妖怪美術館を騒然とさせた「匂わせ投稿」

彼女の視線の先を覗き込んだ私は驚いた。パソコンの画面に映っているのは私たちがよく撮影をしている西光寺の見える迷路のまちのフォトスポット。そこに青いツナギを着た人物が立っている写真だった。
金曜の今日、写真に写る人物はそこに居るはずのない人である。
「合成……??してる感じじゃないよね…?」
奇しくも新型のiPhoneが発表になり、その注目の機能として画像の切り抜き合成が話題になっていた直後だった。彼もそれを買おうか迷っていると番組で話していたのを覚えている。
画像を拡大して見ながら不自然な箇所がないか探すも見当たらない。
「もしかして、おる?」
「見に行ってみよう」
場所が妖怪美術館からすぐそこだったこともあり、私たちはその場所に向かうとこにした。

もし、彼らが本当にいるのならば…。彼らが来ているのであれば…。

そう思うと、自然と速足になっていた。

小豆島が舞台になっている「からかい上手の高木さん」にも出てくるため聖地となっているフォトスポット
キツネにつままれたような表情のチョーケシ兄やん

しかし、そこには誰も居なかった。辺りを探してみるも青いツナギどころか人が見当たらなかった。

「やっぱり合成かな?」

美術館に帰りながらそう結論付けたものの、どこかスッキリしない。何かが引っかかる。
ルパン三世に逃げられる銭形警部はこんな気持ちなのかもしれない。モヤモヤとした気持ちのまま美術館に帰ってきた私は、独りごちながらパソコン作業についたのだ。
今思えば、外がよく見える窓際の席で仕事を始めたのは、何かの警告だったのかもしれない。
私の中のアラームが気をつけろと言っていたのかもしれない。

それから数分が経っただろうか。
「え!?なにこれ!」
またしても妻の驚く声が響く。
もしやと思い、Twitterを確認すると再び小豆島のフォトスポットから写真が投稿されていたのだ。

国民宿舎小豆島の前にある天使の羽のフォトスポットでの匂わせ写真。島にいることをバレないために、まず先に宿舎に行って支配人をこちら側につけた後で撮影したとか

青いツナギの彼が立つその場所は、国民宿舎小豆島だった。

投稿を確認すべくパソコンの画面に張り付いていたその時のこと。
私の視界の隅っこ、美術館の外の建物の陰から青い何かがぴょこんと現れた。
「!!!!」
声にならない声を上げ私が顔を上げた瞬間、ソレはサッと看板の陰に隠れる。
私は目を凝らす。
するとほんの数秒あいた後、青い影が猛然とコチラへ向かってダッシュし始めた。

兄やんや姉やんを驚かせるために、チョーケシ棒ドロボーになったジェネリック兄やんこと中岡勇人

青いツナギを着た丸メガネの長髪の男性。
それは、まさに私たちが先ほどから探していたその人だった。
私と同じ緩いパーマをなびかせながら走る彼は、私の居る目の前の広場に置いてあったチョーケシ棒を手に取ると、それを担いで身を翻して逃げていく。
立ち上がる私。
それと同時にケータイが鳴り始める。

こんな時に!?

振り返ると、後ろにいた妻も突然のことに呆然と立ち尽くしている。
「行って!とりあえず行って!」
妻に向かってそう言うと、私は電話に応答した。
スマホを片手に妻が駆けていく。
スマホを操作したかと思えば両手で構えて駆けていく妻の様子を見ながら、
「あー、先生、お世話になっております。」
と電話の相手とやり取りを始める。
外からよく通る女性の大きな笑い声が聞こえて来た。

あぁ、闇だ…。
やっぱり来てたんだ…。

そう思うと、膝から崩れ落ちそうになる。
それを堪えつつ、外から聞こえてくるケタケタという大きな笑い声を耳にしながら、
電話の相手にただ生返事を返していた。
今夜は忙しくなるな…
そう腹をくくりながら、頭の中でこの後のスケジュールを立てていた。
先生との会話はほぼ入ってきていなかった。

3.妖怪美術館を操るのヒトの独白

「行って!とりあえず行って!」

という夫の声に弾かれるように私は我に返った。
咄嗟に外へ駆け出した私の頭の中で

カメラは?動画撮らなきゃ

と声をかける冷静な自分がいた。
走りながらカメラを起動する、両手で構えると先ほど青いヒトが駆け込んで行った建物の陰にカメラを向ける。

作戦成功を確信して腹を抱えて笑い転げる闇チーム平日組の面々

建物の陰から一瞬カメラとおぼしき物が見えた途端に
「きゃー!はははははははは!」
良く通る大きな女性の笑い声と手を打つようなパンパンという音が響き渡った。それに合わせるように数人の笑い声も聞こえる。
まち中に響き渡るような大きな笑い声。この声の主を、私はよく知っている。
勢いよく建物の陰をのぞき込むと、腹を抱えて爆笑している3人組の姿があった。
もう逃げも隠れもしない。いたずらが大成功してはしゃいでいる子供のような3人を見ると、自然とこちらも笑えてきて、声を上げて笑っていた。

「やっぱり、来とったー!」

声に出しながらも、私たちを驚かせるためにこんなプロレスを仕掛けてきた闇メン達に、どんなプロレスをかえしてやろうかと頭の中では計画を練り始めていた。

「西光寺まで見に行ったんですよー!」

3人にそう話しながら、

今夜は忙しくなる…

と私は、内心ワルい顔をしてワクワクしていた。

4.闇メン休日組の独白

スマホから鳴り響く
♪チョーケシチョーケシ♪
という歌声。闇のグループLINEの音で目を覚ました私は、画面に映し出された写真を見て飛び起きた。
これ、フェリー…小豆島に行くヤツやん!
隣で目が覚めたばかりの旦那も驚きのあまりおかしな声を出している。

急ですけど、平日組で繰り出すことにしましたwwwwwww
夕方までは島にいると分からないツイートで攻めるので上手く便乗してくだされ。

闇のグループLINEより

とのリーダーからの指示でゲリラ戦に打って出たことを知った我々は、夕方まで全力で知らんぷりをし、何かあるかもね~とほんのり匂わせるような投稿をしたりしていた。
逐一報告や、匂わせ写真を撮っている様子などが流れてくるグループLINEを見て楽しいやら羨ましいやら。
ずっと再訪したいと言っていた小豆島を全力で楽しんでいる平日組の3人の様子を見守っていた。
彼らの隠密の旅の全貌をここに、小豆島旅行記ゲリラ上陸編として記そう。

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