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書くことは究極のサービス

10代の後半、季節の変わり目やその時の体調によって肌の調子が安定しない時期がありました。とはいっても、たいした症状ではなく、思春期特有の自意識のせいで、ほんの小さな肌の不調も充分悩みになりえただけなのですが。
病院に行くというほどでもない、でも気になって仕方ない、そんな状況です。ですから、いったい周囲の誰にその悩みを相談していいのか分かりませんでした。

悩んだ挙句、手紙を書いた


放っておこう、気にしないようにしようと思えば思うほど、だんだん悩みは膨らんでいきました。どうしたものかと考えた結果、当時使っていた化粧水の会社、資生堂のお客様相談室に手紙を書いたのです。自分が書いた手紙の内容は、もうはっきり覚えていません。おそらく、自分の肌の悩みと、どの化粧水を使えばいいのかを尋ねる短いものだったと思います。

しばらくすると、少し厚めの封書が届きました。それは、私の手紙を受け取った資生堂の社員さんからの便せん5枚にもわたる返信でした。
その返信は、白い便箋に青いインクの美しい文字で書かれていて、まず、真っ青に晴れ渡った空模様を思わせるコントラストに目を奪われました。

「なんて美しい文字だろう。」

手紙の内容を読む前に、この手紙を書いてくれた、きっと“美しい人”を想像して、感動にも似たうれしさがこみ上げてきました。内容に目をやると、そこには、悩みの原因からその対処法に至るまで、一つひとつ丁寧な回答が書かれていました。相手の気持ちを受け止めようと一生懸命に拙い手紙を読んでくれたのでしょう。

購買力もない、さらにどこの誰とも知れない10代に、これほど丁寧に向き合ってくれる人がいることに驚きました。どこにも行き場を失くしていたちっぽけな悩みを受け止めて、寄り添ってくれる人がいる。それは、当時の私に、何ものにも代えがたい安心感を与えてくれたのです。このことがきっかけで、ときどき浮気はしても、ずっと資生堂のファンです。

書くことは必ず誰かの役に立つ

おそらく、書くことは究極のサービスです。
人は、自分のために書かれた文章や物語を探して何かを読みます。自分のためだけに書かれた一文を探しているとも言えるでしょう。

だから書く力を養ってほしくて、小論文の書き方を教えています。教えた生徒たちが、誰かを癒す、誰かを助ける、社会を変えていける、いつかそんな文章が書ける人になるように。

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