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細胞内はどうしてマイナスの電気を帯びてるの? #00057

 活動電位の理解の前に、細胞内の電位がどうしてマイナスになっているのか、を理解しておかないといけません。これは細胞膜にはイオン種選択的な流入経路があり、細胞内外でカリウムイオンの濃度差が存在するためです。仮想実験を使って簡単に説明します。(小野堅太郎)

 まずは、平衡電位なるモノを理解するために仮想実験を行ってみましょう。実験条件として、カリウムイオンだけが通る孔(ポア)をもった膜で仕切られた2つの溶液が入った水槽を思い浮かべてください。水槽に向かって左側にはカリウムイオン(陽イオン)とその対になる陰イオンがたくさん入った溶液が入っており、右側には濃度の薄い溶液が入っています。

 液体中の物質は、水分子を含めて激しく動き回っています(目では見えませんが)。ですので、物質は常に混じりあい、濃度が等しくなるようになります。この仮想実験では、カリウムイオンだけが通る孔がありますので、濃度の高い方から低い方へ(左から右へ)相対的にカリウムイオンが移動するようになります。これは濃度差によって引き起こされるため「化学ポテンシャル」といいます。ほっておくと、左右でカリウムイオンの濃度が同じになるまで変化が起きるのですが、そうはならないのです。

 なぜかというと、電気的な力が拮抗して働いてくるからです。陽イオンのカリウムイオンが流れこんだ右側はプラスに、カリウムイオンが減少した左側は取り残された陰イオンがあるのでマイナスになります。つまり、膜を挟んで電位差(左低右高)が生まれます。このイオンの動きで生じた「電気ポテンシャル」によって、陽イオンであるカリウムイオンは左に引き戻される力が働いてきます。そのため、左右でカリウムイオンの濃度が同じになることはないわけです。

 化学ポテンシャルと電気ポテンシャルが釣り合うことによって、電位は平衡状態に達します。平衡とは、安定して変わらなくなる状態です。つまり、ある一定の電位差が左右で生じた状態でカリウムイオンの相対的移動は止まってしまいます。この時の電位を「平衡電位」というわけです。これは濃度差とイオンの通りやすさで決まってきます。

平衡電位

 細胞膜では主にカリウムイオンが常に通りやすくなっています。この孔を「チャネル(channel:流入経路の意)」といいます。TVとかYouTubeの「チャネル」と同じです。TV放送の周波数帯を合わせると流入経路が通じたように情報を得られるので「チャンネル(流入経路)」となるわけです。生理学では、英語の発音に近い発音で「」を除いて「チャネル」といっています。よって、カリウムイオンが通る孔を「カリウムイオンチャネル」と呼ぶわけです。小野はそのためYouTube動画エンディングで「チャンネル登録をお願いします!」というところを「チャネル登録をお願いします!」と言ってしまっています。撮影後に中富先生から指摘されて気づきました。

 というわけで、細胞でもカリウムイオンの濃度差を主とした平衡電位が生じますので、細胞内はマイナス(およそ-60 mV)になっています。このように細胞が活性化していない時の細胞内外の電位差を「静止膜電位」というわけです。

 シビレエイとか電気ナマズ、電気ウナギは特殊な発電器官をもっていますが、こういった電位差(電圧)を強く発生させれます。それぞれ200V、400V、800Vもの電圧を発生できます。私の好きな古い漫画「バオー来訪者(荒木飛呂彦著)」の必殺技で「バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン(直訳:バオー破壊闇雷現象)」というのがありますが、同じ仕組みにより発生しています。6万Vまで発生可能です。

 話が逸れたので元に戻すと、静止膜電位とは「極が分かれている」ことを示すので「分極している」といいます。この分極状態から脱する、つまり、細胞膜の電位が上昇して0mVに近づくことを「脱分極」といい、分極しすぎる、つまり細胞膜の電位が静止膜電位よりマイナスに下がることを「過分極」といいます。ちなみに、0mVを超えるような電位になることを「オーバーシュート」といいます。

 まだ、活動電位の話へはいけません。次の記事では、等価回路と電気緊張性電位について話をします。

00:00 前回の復習
00:42 今回のダイジェスト
01:05 本編スタート(平衡電位の仮想実験)
02:58 イオン半透膜での電位差形成
04:57 静止膜電位
08:17 分極(脱分極と過分極)

補足・訂正

 模式図は理解の手助けになる反面、どうしても厳密性が失われます。「イオンが水に入っている」というような絵ですが、水分子よりカリウムイオンの方が小さいんですよね。そういう意味では、いい加減な模式図です。

 あと、「イオン」とは何か、とかの説明もあったほうがよかったと思います。水分子は凄いんです。酸素原子に対して「く」の字型に水素原子が結合するため、極性分子(構造内に電気的ばらつきがある分子)となっています。そのためNaClなどは水の中でイオン化して「溶ける」ことができるわけです。

動画クイズの答え

 YouTube動画エンディングのクイズの答えは、「表にはまだ出てないけど将来的に力を発揮する(才能が開花する)可能性を秘めている」です。私も若いときに言われてみたかった言葉です。もう今の自分(46歳)にポテンシャルが残っているかどうかは疑問です。結構、違う意味で使われるときありますよね。科学界でのポテンシャル(potential)は「電位」です。活動電位の英語はアクション・ポテンシャル(action potential)となります。アクションの意味も併せて考えると、洒落た命名されているなーと思います。

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