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細胞膜は抵抗とコンデンサーの働きを持っている #00058

 前回の記事では、活動電位の理解の前に細胞内が-60mVぐらい(静止膜電位)になっている仕組みについて話しました。今回は、細胞膜の電気的特性についてです。(小野堅太郎)

 静止膜電位は、「細胞内外のカリウムイオンの濃度差」と「細胞膜でのカリウムイオンチャネルの存在」により安定的に分極している状態を形成してるわけです。これらの用語については、前記事を復習してください。

 細胞膜は脂質二重膜を基本としてできています。脂質二重膜はリン脂質からなる膜が2つに重なった膜です。シャボン玉のように石鹸からできる泡は、1層の膜です。リン脂質は、水となじむ「親水基」の頭の部分と、水をはじく「疎水基」の2本の足が繋がった物質です。この疎水基の部分は「アルキル結合」といって、それぞれがくっつきやすくなっています。静かな水面にリン脂質を垂らすと、疎水基の部分が連なった一層の膜ができるわけです。水面に接するのは親水基の頭の方だけになりますのでリン脂質の頭を下にして、二本の足を上に向けた状態で膜ができます。この膜が空気を包んで丸くなったものがシャボン玉です。

 生命は海から生まれたと言われています。海は波打つため、1層のリン脂質膜はかき混ぜられます。その時たまたま膜の疎水基面が合わさって2重膜になったわけです。2重膜の球体になると、親水基が内外両方を向いているので、膜を隔てて内側と外側に水が存在することができます。つまり、水中で小さな部屋(cell)が出来上がったわけです。

 水中であれば、物質を変性させる太陽から紫外線は水面で反射されるのでRNAやDNAは安定した状態を続けられます。たまたま脂質二重膜からなる球体の内部に取り込まれたRNAは、その内部で化学反応を続けます。これが現在最も有力とされる生命誕生のストーリーです。

 Cellは進化し(多種細胞との融合)、RNA配列からより安定的なタンパク質を作製し、その一部が細胞膜に発現するようになります。タンパク質とは1本のアミノ酸が連なった長い物質です。アミノ酸の種類により結合するために幾重にも折曲がり、複雑な構造を取ります。リン酸化されると動的に構造を変化させることもできます。膜に発現するタンパク質は、親水基→疎水基→親水基→疎水基→・・・というように水になじむ部分となじまない部分からできており、疎水基の部分が膜に埋め込まれます。膜から飛び出し折れ曲がっている部分は糖鎖がついていてタンパク質の機能を修飾します。

 下の模式図にある赤いのがリン脂質の頭(親水基)、黄色がリン脂質の足(疎水基)です。水色が糖鎖で修飾されたタンパク質になります。イオンチャネル(イオン流入経路)というのはタンパク質です。真ん中に孔が形成されており、アミノ酸構成から「ある種のイオンだけ」が通過することができます。ですので、細胞膜はイオン電流を流すことができるので「抵抗」の電気的特性を持ちます。そして、膜としての厚みを持っていますから「コンデンサー」の特性も持っています。これが並列回路で繋がっているものが「等価回路」ということになります。

等価回路

 さて、この等価回路ですが、どういった電気変化を示すかというと、下の図のようになります。細胞膜を横切るように電流を流したとすると(緑ライン)、コンデンサー特性により電圧は急には変化せず、ジワリと上昇します(赤ライン)。膜抵抗に応じて電圧の最終的な上がり幅が決まりますが、安定した状態で電流を止めると、電圧はジワリと下降します。これが細胞膜が持つ電気的特性の基本となります。神経や筋肉といった興奮性細胞だけでなく、すべての細胞が持っている特性です。

等価回路での電位変化

 ですので、神経軸索の断端に電流刺激を行ったとすると、このようなゆがんだ電位変化が引き起こされます。そして、この電位変化は、隣の膜に、そしてまた隣の膜に「ケーブル特性」に従って電位変化を伝えていきます(下の図参照)。これを「電気緊張性電位」といいます。この電気緊張性電位が「活動電位の閾値を超える」と活動電位が発生するわけです。

電気緊張性電位

 ようやく「活動電位のメカニズム」を説明する下地ができました。次回は、いよいよ「電位依存性イオンチャネル」の話に入りたいと思います。

00:00 前回の復習
00:25 今回のダイジェスト
00:53 本編スタート(細胞膜の構造)

01:42 等価回路とは
02:38 電気緊張性電位
03:18 コンデンサーと電気生理学の話

補足・訂正

 後半は、電気生理学の話になりますが、ホントに現在は電気工学的知識が無くても実験できるようになりました。20年前は結構自作していて、学会でも他の先生と回路図を書きながら話したりしていました。

動画クイズの答え

 YouTube動画エンディングのクイズは、自分で出しときながら難しくて、答えに困りました。電気緊張性電位が大きければ遠くまで伝わるし、小さければ近くで消えてしまいます。「伝わる」や「消える」という言葉も、よく考えたら「どの電圧の大きさまでを伝わる・消えるとするか」で変わってきます。軸索の直径や軸索膜と細胞質の抵抗によっても影響を受けます。軸索膜と細胞質の抵抗が多くの細胞で共通と考えると、軸索が太いほど電気が流れやすくなるので、より遠くに電気緊張性電位は伝わります。

 まあいろいろなパラメーターを公式に入れてグラフを書いてみると、電気緊張性電位は、適正な神経刺激強度で数ミリぐらいかな、という感じでした。曖昧な答えですみません。いずれにせよ、長いと1mにも達する末梢神経を電気緊張性電位だけで情報伝導させることは不可能であり、活動電位の発生が不可欠となります。

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