【血統小噺】レガレイラ・アーバンシックはなぜ走るのか

今年のクラシック路線でも有数の有力馬とされるレガレイラ、アーバンシック。
種付け料急上昇中のスワーヴリチャード産駒だ。この2頭の特筆すべきところは、同父...どころか(母は違えど)100%同血ということだ。
彼(彼女)らが共に今年のクラシック路線に名を連ねたことは偶然だろうか...?

筆者はこれを必然と考える。この2頭の配合の背景に「サンデー×リファールの繰り返しによる名馬の再生産」の意図を見出したからである。

─サンデーサイレンス×リファールという勝利の方程式

気性難、体質悪化...インブリードの弊害は名馬コロネーションの繁殖成績まで遡らなくとも、サラブレッドの生産現場では毎年のように実感できる。
では何故人々はインブリードを繰り返すのか?
それはひとえに「名馬の再生産」に他ならない。
"幻の馬"トキノミノルが当時の日本競馬において異質とも言えるスピードを持っていたのは、同馬の血量の18.75%を占める稀代の快速馬The tetrarchのスピードの資質を再生産したからである。

トキノミノル5代血統表

そしてインブリードと並んでもうひとつ、血統を語る上で欠かせない理論が「ニックス」である。
所謂「ステマ配合」なんかも、父ステイゴールド×母父メジロマックイーンという配合が活躍馬が多い...という経験則から提唱された「ニックス」の組み合わせのひとつだ。
そしてサンデーサイレンス×リファール系の配合もまた「ニックス」の一つである。なんせこの配合の代表馬はディープインパクト、他にもバブルガムフェロー等の活躍馬が出ている。
この相性の良さは、サンデーサイレンスの内包するスピード、リファールがサーアイヴァーより受け継いだスタミナ...この2つが絶妙に噛み合った結果だと推察される。

さて、このサンデーサイレンス×リファールの組み合わせであるが、最早2頭共に"血統表の奥に眠る馬"になりつつある。そうした中で、この勝利の方程式を再現する為に取った手法こそが、この2頭のインブリードである。

─"母父キングヘイロー"の秘密と伏線

ところで、皆さんは「母父キングヘイロー」をご存知だろうか。
イクイノックス、ディープボンドといった名馬を相次いで輩出し、この令和の世にキングヘイローの偉大さを改めて知らしめたのはここ数年の出来事。
この2頭に共通することはディープインパクト(と全兄のブラックタイド)系×キングヘイローということ。改めてこの二頭の血統表を見比べてみよう。

ディープインパクト5代血統表
キングヘイロー5代血統表

両者は並びこそ違えど、ヘイロー・リファールの血を共に強く受け継いでいることが分かる。
この点を踏まえて、母父キングヘイローの代表馬であるイクイノックスの血統表を見てみよう。

ヘイローの4×4、リファールの4×5×5、この二頭の大種牡馬のクロスで血を12.50%ずつ有しており、この2頭の組み合わせを強調したい配合の意図が見えるだろう。

-ハーツクライが引き出す魅力

さて、ここまでヘイロー系×リファールのクロスとして、ディープインパクトやキングヘイロー、イクイノックスを挙げてきたが、日本を代表する種牡馬の中にもう一頭この影響を持つ馬を挙げたい。それがハーツクライである。

ハーツクライ5代血統表

え?ハーツクライの母父はトニービンだろって?
よく血統表を見てみると、祖母Buper Danceの父はリファール。この馬こそがハーツクライにリファールの能力を伝える鍵であると考えられる。Buper Danceの全兄はLyphard's Special、現役時代はGⅢ勝ちがある程度だったが種牡馬としては一定の成功を残し、ジェンティルドンナ、ロジャーバローズの母母父に名を残している。
ジェンティル・ロジャーバローズに共通するのは共にディープインパクト産駒、つまりこの2頭はアルザオ・Lyphard's Specialを経由してリファールの4×4のクロスを持っていることになる。

ハーツクライに目を戻してみても、ドウデュース、リスグラシューといった代表産駒はいずれもリファールのクロス持ち。孫世代のダノンザキッドもこのクロスを持っている。

━配合理論に選ばれた「ハーツクライ後継」スワーヴリチャード

さて、サンデーサイレンスの血も孫世代になり、イクイノックスのようにHaloクロスではなく、サンデーサイレンスのクロスでこの組み合わせを強調することが可能になってきた。
社台SSでリファールを持つサンデーサイレンス系種牡馬を考えると、ディープインパクト子世代の種牡馬かハーツクライの子世代の種牡馬が挙がる。

アルザオの血を持つロカ・エッジースタイルらはウインドインハーヘアがキツくなる(コントレイルやキズナではハーヘア3×3が成立する クロスがキツい上にハーヘアクロス自体"重い"性質が強いので避けたい)と考えると、配合相手は必然的にハーツクライ子世代の種牡馬達になるだろう。

その証拠にロカの配合相手にはジャスタウェイ、スワーヴリチャード、シュヴァルグランと社台SSに在籍しており、リファールクロスを持たないハーツクライ系種牡馬が多い。

ジャスタウェイは2021年から日高に移動、シュヴァルグランはHaloの3×4×5がキツい...と考えると、配合当時1番"安牌"な選択がスワーヴリチャードだったのではないだろうか。
現在ではサリオス・ドウデュース等も十分選択肢に挙がるが、全く同じ配合の馬を2頭もダービーに送り出したスワーヴリチャードの評価が揺らぐことは当面ないだろう。

━おわりに

日本の馬産地にはウインドインハーヘアをボトムラインに持つ繁殖牝馬が多く存在する。これまで彼女達には、ディープインパクトやバゴといった牝系を同じくする種牡馬を配合することにより、名牝ハイクレアやウインドインハーヘアのクロスを作り出す配合が多く行われてきた。
しかしながら、近年これらのクロスに関してはスピード面などから評価が見直されつつある。
そうした中でノーザンFが出した答えこそが「ハーツクライ系種牡馬によって、ウインドインハーヘアではなくリファールとサンデーサイレンスを強調する」ではないだろうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?