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パステル画を始めて気づいたこと

はじめに

梅の木十条店で開催中のパステル画展「だいたい十条」。11月19日からスタートして、いよいよ終盤に近づいてきました。最終日は12月9日。すでにたくさんの方に足を運んでいただき、感謝・感激・雨・A・RA・SHIです。

付き合いの長い方はご存知かと思いますが、僕はこれまで絵とはほとんど無縁でした。それだけに、今回パステル画を描き始めて、いろんな発見がありました。せっかくなので、それをちょっと書いておこうと思います。

パステル画を描き始めたきっかけ

パステル画を描き始めた直接のきっかけは、2020年9月に開催された坂口恭平さんのパステル画教室(ネット配信)に参加したことでした。

でも実はその前から、「絵を描きたい欲求」は高まっていたようなのです。7月17日には、なんとなく部屋にある観葉植物を描きたくなって、鉛筆で下手なデッサンをしていたのでした。それがこちら。

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友達にこの画像を送ったら、「コメントに困るやつですね……」という困惑の返信がありました(笑)。

これまで、「絵を描きたい」と思うことはあっても、実際に描くことはまずありませんでした。なんとなく時間をもてあましていたこともあったと思いますが、それにしてもこの僕が絵を描くなんて……と不思議に思っていたのですが、ひとつだけ心当たりがありました。それは、僕の部屋に飾っている岩崎有ニさんのポストカードです。これ、絵じゃなくて写真なんですよ。

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岩崎さんは僕の尊敬する現代美術家で、『かがり火』の対談でお話をいろいろ聞かせていただきました。もしかしたら、部屋に飾っている彼の作品のポストカードが、僕に何かしらの影響を与えているのではないか? そう考えると、スッと腑に落ちるところがありました。

やっぱり本物のアーティストの作品は、人の感性や潜在意識に影響を与えるのだと思います。岩崎さんの作品を用いたグッズなどは、こちらの「イワサキ・アシカ堂」から購入できますので、もし興味のある方はのぞいてみてください。じわじわと「何か描きたいな」という気分になってくる……かもしれません(笑)。

坂口恭平さんのパステル画教室で学んだこと

「躊躇しないこと」
「反省しないこと」

坂口さんがパステル画教室でおっしゃっていたルールです。

これが気持ちをとても軽くしてくれて、あまり気負わず描き続けることができた気がします。そしてこの2つのルールは、絵を描くときだけではなく、人生そのものにも活かせると感じました。

やりたいことをやろうとするとき、時間が経つほどに「失敗したらどうしよう」などという恐怖心に襲われます。だからその前に、躊躇せずやってしまう。心のままに。

そしてその結果に囚われるのではなく、とにもかくにも「継続すること」。後ろを振り返って反省するよりも、次の作品に取りかかる。わざわざ反省しなくても、その継続の積み重ねは、おのずと次の作品に活かされるというわけです。これは坂口さんが直接そうおっしゃっていたわけではなく、僕が勝手にそう解釈しただけですので、クレームはこちらへお寄せください(笑)。

他にも坂口さんはこんなことをおっしゃっていました。

「楽しくなかったら違うことをする」
「面白ければ全てよし」
「自分と打ち合わせしない。その時の自分を信じる」

これもまた、愉快な生き方に通じる言葉だなあと思いました。

気づいたら左手で描いていた

ここからは、自分でパステル画を描いていて気づいたことです。

まず自分でびっくりしたのは、いつの間にか「左手で描いていた」ということ。

僕はもともと左利きで、ボールを投げるのも蹴るのも左なのですが、よくあるパターンで「書く」ことと「食べる」ことだけは右手に矯正されたのです。だから学校の美術の時間でも、やっぱり右手で筆を持って絵を描いていました。それは、鉛筆とお箸を右手で持っていたのと同じ感覚です。

しかしパステル画は、「描く」というより「塗る」という感じだからか、なんとなく左手にパステルを持って描いていました。そのことに途中で気づいて、右手に持ち直してみると、なんとなく気持ちが悪い。やっぱり左手で描くほうがしっくりくるし、気持ちがいい。まあもともと左利きなので、当然といえば当然なのですが。

だから多分、僕にとって、パステル画は「運動」に近いのだと思います。つまり「蹴る」とか「投げる」とかと同じカテゴリーです。それに対して、「書く」ことは運動ではなく「記号の記述」です。記号はとにかく伝わればいいのであって、その「質」は問われません。だから右手で書くことにもそれほど抵抗がないのではないでしょうか。

それに対して、感覚を運動で表現しようとする時には、やっぱり僕の場合、左手じゃないとしっくりこないのだと思います。さらに、「左手は右脳とのつながりが深い」というような話も聞きますが、そのへんはよくわかりません(笑)。

いずれにせよ僕は、「いつの間にか左手で描いている」という事実を通して、自分にとってパステル画は「運動」であり、それは知性の働きというよりは、感性や身体性の働きなんだ、ということに気づきました。

「物」ではなく「光」を描いている

絵を描いていると、自分がふだん、いかに物や景色をちゃんと見ていないかがよくわかります。

木でできた橋でも、場所によっては青みがかって見える部分もあるし、坂口さんが「空だからといってそのまま青で塗らないように」とおっしゃっていたように、空の色もよく見ると千差万別。単色の皿を描くにしても、その光の当たり方によって、多様な色合いを表現しなければなりません。

そうすると、「あ、僕たちは物を見ているんじゃなくて、光を見ているんだ」ということに気づきます。極端に言ってしまえば、「物そのものの色は存在しない」。色というのは、「光と、物体と、それを見る主体との関係」として現れてくるものであって、それそのものの色というものは「存在しない」。だから「りんご=赤」とか「空=青」というのは、僕らの頭の中にしかないイメージであり、概念でしかない。そんな色は「存在しない」。

坂口さんも「光の方向を確認すること」の大切さを強調していましたが、まさに見ることとは光を見ることにほかなりません。だから「ししとうだから緑だな」と頭で理解してその色を塗ると、その絵はリアリティーを失います。そこに現れている色を概念で捉えると、それはとたんに具体性を失うのです。

これは実は「時間」についても同じことが言えます。僕らが生きる時間というのは、この世界と自分という主体との関係そのものであり、「同じ時間」というのは存在しません。それは「同じ色」が実は存在しないのと同じことです。そもそも「同じ」という発想自体が、人間しか持ち合わせていない概念の産物であり、フィクションなのです。これは養老孟司さんがことあるごとに主張していることでもあります。

にもかかわらず、僕らは数字などの記号を使うことによって、「時間」を他のものと等価交換できるようになりました。この「時間の記号化」によって、「個人が時間を所有する」という近代的な発想が成立します。それは一面において「自由」の享受ですが、他方では、人間そのものの記号化を可能にし、交換可能な存在にしてしまいました。このことが、現代における人間疎外の一番根源的な要因だと僕は思っています。

……と、あまり時間論に深入りすると面倒なので、このへんで本筋に戻ります(笑)。

そう、「絵を描くということは、光を描くということなのだなあ」と、パステル画を描いていて思ったのでした。それは対象そのものを写し取ることではなく、世界と自分との関係を描くことにほかならないのでした。

結果は最後までわからない

絵を描いている途中で、「なんか、全然うまく描けていないような気がする……」と思うことがあります。でも、とりあえず完成させようと思って描き続けていると、途中で急に完成度が高まる瞬間があったりします。そうすると、「ああ、あそこでやめなくてよかった……」と心から思います。

それは途中から上手く描けるようになったというより、「最初の下地が後で生きてくる」ということのような気がしています。これもけっこう人生に通じることなのではないでしょうか。

生きていると、「とてもじゃないけど、この先いいことがあるとは思えない……」という瞬間があったりします。けれども後になると、「いや、あの最悪の出来事のおかげで、今の自分があるなあ」と思えたりすることもあります。

何でも最後までやってみないとわからない。最悪の出来事が最高の布石になることもある。絵にも、人生にも、そういうところがあるような気がします。

「粉問題」は解決ならず……

そんなこんなで、パステル画はとても楽しいのですが、困ったこともあります。それは、描いていると粉が大量に出てくることです。しかもその粉を息で飛ばしながら描くので、粉が部屋に飛び散ることになります。

専用のアトリエがあればいいのですが、自分の部屋でやっていると大変です。僕は一応新聞紙を敷いて作業していましたが、それでも完全にカバーできるわけではありません。あとで床を拭くと、やっぱり粉がたくさん落ちていました。それを吸ってしまうと体にもあまりよくないでしょうし、服が汚れてしまうという問題もあります。自分ひとりならまだしも、もし友達が遊びにきた時にはちょっと困ってしまいます。

というわけで、自室でずっと続ける上では、パステルはなかなか難しい画材だなあ……という気がしています。もしアトリエを用意できれば別ですが、もし自室でまた描くとしたら、今度は粉が飛ばないオイルパステルを使ってみようかな、と思っています。いずれにせよ、しばらくは本業である執筆業に戻ろうと思います(笑)。

おわりに

けっこう長くなってしまいましたが、パステル画を描いてみて気づいたことを書いてみました。他にもいろいろあった気がしますが、とりあえずこんなところで。パステル画展が終わったら、その感想も改めてここで書いてみたいと思います。長々とお付き合いいただきありがとうございました!

パステル画展は12月9日までやっていますので、よければ遊びに来てください〜!

4けん助のししとう


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