下北沢は2人から
俺は普段は酒を飲まないのだがその反動なのか本当にたまーーーに激しい話したい欲と飲みたい欲に襲われることがある。そんな俺はある日の夕方、予定の30分ほど前に辿り着いて下北沢でフラフラとしている。そう言えばどこの店で飲むかまだ店を決めていなかったな。今夜は肉が食いたい。特にハチノスが食べたい。そう思い俺は携帯でハチノスが食べれる下北沢の焼肉屋を調べた。・・・よし、ここにしよう。
ブブブ
携帯がなる。ちょうど先輩から連絡が来た。
「肉でいい?」
「はい!そうしましょう!」
「了解!」
「あの、○○って店行ったことありますか?ここのハチノス食べたいんですけど!」
「え、そこの店ちょうど今予約したところだわ」
こんな奇跡が起こってしまったので、俺達凄いですね!と心の中で送信しておいた。
残りの約20分。短くて意外と長いよなあと思い待っている間一人で先に飲んでいようかと居酒屋を探す。だが下北沢のどの店を見てもわいわい楽しそうな空気感が店の外まで漂ってくる。ドライアイスの煙のように地を這ってこちらに向かってくる。ドライアイスから顔を上げるとさらには「お一人様お断り」の看板がぶら下げられている。ように見えた。まだまだ俺は一人でズカズカと居酒屋やラーメン屋に入れるおっちゃんにはなれないようだ。俺のクソガキめ。それならばと喫茶店にでも入ろうとしたがここにも例の看板がぶら下げられていたからすぐに諦めた。八王子では喫茶店にズカズカ入れるしきっとこれは下北沢というイケイケな街のせいだと折り合いを付けた。
俺が変な幻覚を見てジタバタしているうちに時間はやってきて焼肉屋で先輩と合流した。
「久しぶりですね」
「飲んで大丈夫?ツアー忙しいんじゃないの?」
「ライブ少ない時は全然大丈夫すよー!」
「今月何本?」
「10本くらいです」
「多いな〜笑」
歌詞のこともメロディのこともひとしきり褒め合っていつの間にか俺達二人もあのドライアイスを店の外に撒き散らしているがこっち側に立った途端そんなことはどうでも良くなった。すぐに掌を返すこれまたクソガキめ。そう言えばここまで引っ張って来たが別に隠す理由もないので明かすが俺の敬愛するシンガーソングライター石崎ひゅーいと酒を酌み交わしハチノスを焼いている。
初めて俺が出会った(一方的に)のは深夜ドラマで”みんなエスパーだよ”の主題歌だった。夜間飛行という曲がそのドラマで使われていて、俺はすぐにアルバムを探して聴きまくり、吉祥寺warpの店長にひゅーいさんが昔やっていたバンドの音源まで貰って聴き漁った。そんなこんなで、やはりバンドを続けていると良いことがあるようでyonigeがツアーでひゅーいさんと俺達を繋げてくれて水戸ライトハウスの店長の稲葉さんが俺達とひゅーいさんのツーマンを組んでくれたりもした。ありがたい。経緯はここら辺にしよう。
俺とひゅーいさんで充分楽しいのだが俺が思っている足りないピースが一つある。それは北海道札幌のTHE BOYS&GIRLSというバンドのワタナベシンゴだ。ひゅーいさんと話している時は絶対にワタナベシンゴの話になってしまうのが摩訶不思議。
「シンゴと飲む時も学の話するよ」
唐突にひゅーいさんがそう言った。素直に嬉しくもあり、やはりそうかと心の中でニヤッとした。同じ匂いを感じると言ったら至極薄っぺらい聞こえになってしまうのだがなんというか、気持ちが分かる。あと安心してカッコつけたり強がったり出来る人なのだ。単になんでも話せる仲とはいかず一癖ある。3人はジャンケンでずっとあいこを続けていくのだと思う。誰がグーでチョキでパーでとかじゃ無く3人ともグーもチョキもパーも持ち合わせているのにずっとあいこだ。そんなことを思いながらいつの間にか二軒目を終えた俺とひゅーいさんはまだ0時にもなっていないのにふたりベロベロで解散した。
君達や君達の音楽があれば俺は何処の店でもズカズカと入れる勇気がもらえる。(でもやっぱり一人じゃ無理)いつか3人が会す時は下北沢の街に丁度の集合時間で行こうと思う。そしてワタナベシンゴにもあそこのハチノスを食べてもらいたい。