バンドを知ったきっかけ、高校時代の親友


 今でこそ山口県ではWILD BUNCHというフェスのおかげでロックバンドが段々と地元の高校生や中学生にまで浸透しているのだが俺が地元にいた頃は全くそんなことは無かった。耳に入る全てがJPOPという大きなカテゴリーにしか無かった俺が、ちゃんとしっかりとバンドを認識したのは高校2年生の頃だったと思う。

 俺の通っていた高校は総合学科で2年生になると授業を自分で選んで時間割を作れた。俺はとにかく音楽系の授業を取った。もちろん音楽が人より得意だなと思っていたのともう一つ理由があって、テストが無いから。期末テストが3日間行われる中、毎日ほぼ午前中でテストを終えて帰っていた。まぁそんなことはどうでもよくて、音楽の授業ばっか取っていたおかげで吹奏楽部の人たちとかなり仲良くなった。その中でも一際気の合うヤツがいた。みよしという名前の女の子で、吹奏楽で綺麗な音楽をやってるくせ何故か神聖かまってちゃんが大好きだった。席が俺の前だった時には、授業中よそ見している俺を狙って一本ずつ俺のペンを盗み自分の胸ポケットに全てコンプリートしたがる変なヤツだった。そんなみよしがある日この曲かっこいいよって教えてくれた曲がある。アルカラの”半径30cmの中を知らない”だった。本当にかっこよかった。これがバンドを認識した瞬間だったと思う。バンドの存在の認識ではなくて、ライブハウスをドサ回りしたり映像を発信したり、そういうリアルタイムの活動の認識だ。

 3年になるとみよしは吹奏楽部の部長になった。あまり俺にその姿は見せなかったが、吹奏楽の弱小中学出身だし上手くも無いのに私でいいのかと最初はかなり自信なさげな様子だった。そんな忙しいみよし部長の息抜きが俺と同じ音楽の授業だったようだ。何個かの音楽の授業は自習がほとんどで、定期的に出来る様になったことを先生に見せるだけであとはかなり自由だった。この曲一緒にピアノとギターでやってみようぜとか、あの曲橋本くん弾き語りしてみてほしい、とか毎授業そんな調子だった。3年のある時テスト代わりにみんなの前で一人ずつピアノかギターを使って弾き語りをやるって日があった。何人かの弾き語りを見届けて俺の番がやって来た。曲は何をやったか覚えてないけれど別にどうということなく俺も弾き語りを終えた。そして席に戻ろうとした瞬間。「おい、みよしどうした!?」先生の大声が響いた。何故か、何故かみよしが引くぐらい号泣していた。「なんで!?」って聞かれても「分からない」と言いながら自分の状況に笑いながら大泣きしていた。真相は誰一人として分からぬままだが俺はなんだか嬉しかった。

 基本ふざけているヤツなのに急に真面目な話をしてくる時がある。「苦しいけど頑張るって感じで今まで吹奏楽やって来たけど、そうじゃなくなった。今は楽しい。」といつだったか言われたことがある(メールだったかも)。そしてその理由が俺だとは思いもしなかったが、授業中のあの時間たちがそう思わせたのだと言う。そして2011年の夏、みよし部長率いる吹奏楽部は中国大会で代表に選ばれ全国大会へ出場を決めた。当初あんなに自信なさげだったアイツはもういなかった。みよしが喜んでる姿を見て俺はすごく嬉しくなった。

 今は山口で仕事をしている。バンドを始めた頃からずっと応援してくれていて、ツアーで山口に帰った時は必ず見に来てくれるし、WILD BUNCHに初めて出た時は気合入れて吹奏楽時代からの友達と二人で最前で見届けてくれた(気付かなかったが)。そんなみよしもいよいよ結婚をして新生活がついこの前始まった。こんなご時世で結婚式に行けなかったから”みどり”という曲を動画を撮って送ってあげたら本人と旦那さんはもちろん、妹もお母さんも沢山の人が喜んでくれたそうだ。そして式の翌日には新婚祝いに送ったルンバが無事に届いたらしく、せっせと働くルンバの動画が送られて来た。アプリで連動させると携帯に状況を知らせてくれるそうで、

「橋本くんは正常に清掃を完了しました。」

「橋本くんは段差を感知して停止しています。」

旦那さんはアプリの設定でルンバに俺の名前を付けたらしい。新生活に俺自身がお邪魔しているようでおこがましいこと極まりないが、もし何かあった時はこのルンバ(橋本くん)が身を挺して二人を守ってくれるだろう。ちなみに子供が生まれた時のお祝いも既に考えてあるので渡せる日が楽しみである。

 そんな高校時代からの親友みよしであるが、10年前教えたバンドがハルカミライのツアーに出ていたりフェス会場で当たり前に会うようになった俺の話を聞くとワクワクして自分の事のように喜んでくれる。10年前俺がみよしを見て嬉しくなったのと同じように。