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【高校物理】原子物理分野 総復習

原子物理分野については,いわゆる ″難問” はつくりづらいのですが,
実験装置に少し変更を加えたり,複数の現象を組み合わせることで,
取り組みづらくすることはできます


「講義編」で基礎をおさえた人のために,
過去40年分の入試問題の中から,
私が独自に選んだ問題で構成された「総復習編」をつくりました。
全部で問題は12問です。
是非,活用してください。

【原子物理総復習 その1】
 慶應義塾大学医学部(1997年) 過去問解説

1900年頃から1940年頃に見つかった新現象を,
当時の科学者が考えた新しい解釈や仮説で説明するという
「(現代)物理学の歴史」を学んでいく側面があるため,
原子物理の問題は,難問をつくるのが難しいのです

ということで,
原子物理分野の入試問題は典型問題の類題が並んでいるのです。
この慶應医学部の「光電効果」の問題も類題の一つなのですが,
「フィルタ」を用いることで,“難しく”見せています

旺文社「全国大学入試問題正解」には,
「題意を理解するのに時間がかかり, (大問4問の中では)一番点差が開きそうだ」と評されていました。
そこまで言うのなら,《やや難》とつけてほしかった…。

注:
 ツイートの添付ファイルの題名が【熱力学総復習】となっていますが,
もちろん【原子物理総復習】です…。訂正します。


【原子物理総復習 その2】
 京都大学(2000年) 過去問解説

光電効果の問題を解くときに必ず現れる「仕事関数」という物理量。
英語表記で work function なので,「仕事関数」なのですが,
金属の種類ごとに決まった値(定数)をとるのに,
なぜ「関数」とよばれるのか,不思議です。
さらに私たちの頭を悩ますのが,その意味です。

教科書(数研出版「改訂版 物理」)には,
「金属内の自由電子は正の電荷から引力を受けているので,
電子を金属の外に取り出すには,仕事が必要である。
この仕事の最小値 W は金属ごとに決まっており,仕事関数といわれる」
とあります。

このような説明では「仕事関数」の説明になってないように感じます。
この説明を読んで,
「いやいや他の電子からは斥力を受けていないか?
むしろ電子どうしの距離の方が近いので斥力が大きくなるのでは?」
という疑問をもってしまった受験生はどうすればいいのでしょうか。
私の答えは,
2000年の京都大学の問題を解いてみよう
,です(笑)


【原子物理総復習 その3】
 早稲田大学教育学部(1999年) 過去問解説

原子核のまわりを回る電子の円運動の周期と回転半径との関係,
これが「ケプラーの第3法則」の
公転周期と半長軸との関係と同じであると
この早稲田大学教育学部の問題は述べています。
どういうことなのでしょうか。

しかしこの問題には原子核が登場しません。
この問題には,原子核の代わりに「一様な磁場」があります。
電子はその磁場の中を円運動するのですが,
その回転半径や回転の速さは好きな値をとれず,
自然数 𝒏 で決まるとびとびの値になる(量子化)と言っています。
では,回転周期は?


【原子物理総復習 その4】
 慶應義塾大学理工学部(2000年) 過去問解説

「原子による光子の吸収・放出」はよく見かけますが,
この問題は2つの座標系で1つの現象を観察します。
誘導がていねいなので,それにしたがって立式すると…。
どの文字を使って答えるのか,詳しい指示がないので,
複数の答え方が考えられます。


【原子物理総復習 その5】
 京都大学(1988年) 過去問解説

原子が吸収する光の振動数は,その原子の種類に固有の値となります。
(光子のエネルギーが原子内電子のエネルギー準位の差)
そして,光(光子)を吸収したときのみ,原子は運動量を変化させます

ある速さで動いている原子が観測する光の振動数は,
「ドップラー効果」によりずれます。
そのずれも考慮して,光を吸収させるには波源での振動数を調節する必要があるのです。
果たして,動いている原子を光で止めることはできるのでしょうか。


【原子物理総復習 その6】
 大阪大学(1987年) 過去問解説

出題された当時は《新傾向》であっても,その後,さまざまな問題集や参考書に取り上げられた結果,よくみかける問題になっていきます。
この問題もその一つ。

「原子の冷却」がテーマの入試問題とくれば出題大学は…
京都大学か大阪大学を疑っていいと個人的には思っています(笑)


【原子物理総復習 その7】
 都立大学(1989年) 過去問解説

初めてこの問題を解いたとき,
すべての問題が関係している」と感じました。
ムダな問題がないのです。(ヒントはちょっと多めですが…)
(1)でエネルギー準位をなぜ描かせたのか,
問題を解いていくうちにそれが分かるような構成になっています。
(気づかない人もいると思いますが…)
都立大学では,かつて実験室で実際にこの実験を行ったんだろうなぁ,
と想像しながら問題を解きました。


【原子物理総復習 その8】
 千葉大学(1992年) 過去問解説

フランク・ヘルツの実験」は教科書では本文中にはなく,
<参考>欄に入っていることが多いです。
けれど,ボーアの原子模型を考える上で,この実験は重要です。

水銀は金属としては沸点が低く,比較的簡単に蒸気にできます。
ですので,この実験では水銀が用いられています。

蛍光灯の中でも同じような現象が起きています。
熱電子により励起された水銀原子から出た紫外線が
(ガラス管内に塗布した)蛍光物質にあたると
蛍光物質が励起され可視光が発せられるのです。


【原子物理総復習 その9】
 早稲田大学教育学部(1987年) 過去問解説

質量とエネルギーの等価性を表す関係式 𝑬=𝒎𝒄² は,
教科書ではいきなり登場します。
質量欠損,アインシュタイン,相対性理論…ときて,この関係式です。
なぜいきなりアインシュタインはこんなことを言い始めたのか?
この関係式はどこから導かれたのか?
なぜ真空中の光の速さ 𝒄 が絡んでくるのか?
こういった疑問を差しはさむことは許されないことであるかのように,
色つきの線で囲まれて出現するのです…。

私は,
「そもそもこの関係式はなぜ成り立つのか」
というタイプの入試問題が好きです。
ただし,この早稲田大学教育学部の問題は,
感動するポイントがいくつかあるのに,
わざわざそれを外して出題しているという残念な問題です。
(<マナブ補足>を読んでもらえればそれが分かります)


【原子物理総復習 その10】
 京都大学(1983年) 過去問解説

「原子物理が一番面白い」そう言ってくれる生徒が毎年います。
それは,他の分野ではあまり味わえない
「このあとどうなるんだろう?」
という物語(歴史)があるからだろう,と私は考えています。
科学者の失敗,考え違いの数々…
その後,現象をうまく説明できる仮説が登場し,
他の実験でもその仮説の正しさを裏づける証拠が現れます。
その繰り返しが面白いのでしょう。
他の分野では味わえない
「発想の柔軟さ」そして「人間臭さ」が垣間見えます。

この中性子発見から約10年後には,太平洋戦争が始まります
科学の大発見が戦争に結びついていく。
科学者は自分の意思に関係なく,戦争に関わっていくのです。

注:
 ツイートの添付ファイルの題名が【熱力学総復習】となっていますが,
もちろん【原子物理総復習】です…。訂正します。


【原子物理総復習 その11】
 名古屋大学(1988年) 過去問解説

大問1問で,計算力,絵を描く能力,流れをとらえる力…
さまざまな力を測りたいと出題者は考えます。
この名古屋大学の問題は,大問3問の1問目にあたります。
制限時間は2科目で120分なので,この問題には20分間あてられます。
しかし,
20分間で最後まで解ききれる受験生はなかなかいないと思います。
少なくとも30分間は解く時間を与えてほしい。

1988年の名古屋大学のこの問題に続く問題を紹介しておきます。
(すでにこの「マナ物理note」で取り上げた問題もあります)
大問2 熱力学 (断熱変化→ピストンの単振動)《やや難》
鉛直に置かれた円筒形シリンダと円板でできた質量𝑴のピストンで囲まれた空間に,単原子理想気体を𝒏モル注入する。ピストンがつり合いの位置にある状態から鉛直下方に静かに少し押し下げて手放したところ,ピストンは運動を始めた。シリンダとピストンが断熱材でできているとすると,このピストンの運動を特徴づける物理量を2つ挙げて,その大きさを求めよ。
大問3 電磁気 (電気振動→交流回路)《やや難》
鉛直上向きの磁束密度𝑩の一様な磁場がある。水平面内に互いに平行な2本の十分長い導体レールがあり,それらに直角に導体棒が置かれている。この2本のレールの間には,電気容量𝑪₀のコンデンサと自己インダクタンス𝑳のコイルが直列につながれている。導体棒をレールの長さの方向に一定速度𝒗で滑らせたとき,コンデンサに蓄えられた最大電荷はいくらか。
さらに抵抗値𝑹の抵抗をコイルとコンデンサに直列につなぎ,導体棒を単振動させた。⇒ 回路に流れる電流の振幅を最大にするコンデンサの容量およびそのときの電流の振幅を求めよ。

どの問題も「力学がベースにある」ことが分かります。
私が見た中では,名古屋大学はこの年の大問3問が一番難しい…。


【原子物理総復習 その12】
 福井大学(2020年) 過去問解説

物理学の発見が医学に応用される例はたくさんあるのですが,
高校物理の範囲で説明するのが難しいものが多いのです。
陽電子放射断層撮影(PET)もその一つですが,
ヒントを与えることで,何とか入試問題として成り立たせています。

特に医学部をもつ大学を受験する人は,
質量分析器,加速器(ベータトロン),PET,放射性同位体や半減期など,
医学と関係する技術や単元にどんどん興味をもってほしいと思います。


以上です。
「講義編」と合わせれば,原子物理の対策はこれで大丈夫!
繰り返し演習を重ねてください。
マナブ

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