学ぶときは脳のクセを利用しよう
大学院の学習理論の講座も、行き着くところまで行き着いたなあと。
まさか自分が脳の部位や機能を勉強することになろうとは。
「勉強の正しいやり方」と書くと、途端に胡散臭くなるので、正しいかどうかはちょっと置いておいて、今回は脳の特性を学びに反映させるとどういう方法が効果的だと考えられるのか、というテーマで書いていきたいと思います。
本日は、”The Adolescent Brain - Learning Strategies and Teaching Tips.” という資料を参照しながら書いていきたいと思います。
今後、情報の出典はいちいち明示しませんので悪しからず。
学びのアウトプットがどなたかの学びの参考になれば幸いです。
以下、語られる学習戦略は脳の特性の大原則に則って提唱されています。
では参りましょう!
脳の特性を活かした学習戦略
①ワーキングメモリの特性を活用する
まず、大量の情報を処理していかなければいけないときは、その大量の情報がどのように「意味のあるまとまり」としてカテゴライズできるのかを考えましょう。
例えば、下のアルファベットの並びを暗記してみてください。
なかなか大変ですよね。私は無理。脳みそツルツルだから。
ところが、「意味のあるまとまり」になるようにちょっと工夫すると途端に覚えやすさが変わります。
一気に覚えやすくなっていませんか?
上の羅列と比べてみても、使われているアルファベットやその並びは一切変わっていません。
このように「意味のあるまとまり」になるように、認知のされ方に工夫を加えただけで、一気に覚えやすくなることがあります。
これは、下のアルファベットのまとまりが私たちにとって馴染みのあるまとまり、つまり「意味のあるまとまり」として認識されたからです。
すると、一気に覚えやすさに変化が出ます。脳が「意味のある情報を好む」というのは、今までに経験したり、見聞きしたりしたことに対しては負荷の少ない状態で情報処理ができるという特性のことを指しています。
通常「覚える」という言葉を使うときは、「短期記憶」と「長期記憶」という2つの覚え方を指します。
文字通り、短期記憶は「短い期間だけの記憶」であり、「長期記憶」は「長い期間に渡る記憶」のことです。
日常生活の中では「短期記憶」が活躍する場面が多いです。例えば、
「家を出る前に戸締りを確認しよう」
「明日の学校の宿題を家に帰ったら忘れずにやろう」
「ウェブのレストランの電話番号を紙に書き写そう」
など、ちょっとした記憶(ずっとは覚えていなくてもよい記憶)をするときに使うのが短期記憶です。
それに対して、学習においては「長期記憶」も重要になってきます。
「三平方の定理ってなんだっけ」
「この単語の意味はなんだっけ」
「あの国の名前はなんだっけ」
というように、テストや今後の学びに生きるようなるべく長い期間覚えていられるように記憶するのが「長期記憶」です。
順番としては、「短期記憶を経て、長期記憶へ移行する」という順番です。
ところが、短期記憶を経たものは全て長期記憶へ移行するかというと、そうは問屋が卸さないわけですね。
脳の貯蔵庫は綺麗好きです。必要のないものは次々に捨てていく「思春期のときの部屋に勝手に入ってきて掃除機かけたり物を整理整頓していくおかん」みたいな存在が「短期記憶部屋」にいるんです。
これは私たちの意志とは無関係に起こることなので「明日のテストのためにどうしても単語10個覚えておきたい!」と強く願っても、その意志通りになるとは限りません。あくまで記憶の決裁権は「おかん」にあります。
ところが、そんな「おかん」に「これは大事なもの(意味があるもの)ね…」と認められたものは、長期記憶部屋にそっと仕舞い込んでもらえます。
こうして、「意味のあるもの」と認められたものは「長期記憶」として比較的長い間、覚えておくことができるようになります。
これらの特性を利用し、「自分にとって覚える必要があるもの」を「脳内おかんに意味のあるもの」として認めてもらうためには、覚えたい内容と自分のこれまでの日常や経験と結びつける方法が最も効果が高いといわれています。
現代の学習理論ではほぼこれが最強と言っていいほどです。「新しい知識は今までの知識、経験、学びの中に組み込まれる」ことで、自分との結びつきが強いもの、つまり自分にとっては意味があるものとして脳内おかんに認識してもらえるということです。
ところが、学ぶ内容の中には、どうしても自分の身近なものと結びつきにくいものもあります。
そんなときは以下の方法が有効だとされています。
こうして、覚えたい情報に様々な要素を組み込むことで「意味のある情報」へと認知を変えていくのが大切です。
②感情を巻き込む
脳の発達段階上、特にこれは思春期の学習者にとって有効だとされています。ただ、大人にとってもやはり「感情」というのは大切だとされています。
逆に、学びに有害な感情もあります。それは「怖れ」です。
学習者が過度なプレッシャーや脅威にさらされている場合、学びは起こりにくいとされています。
例えば、学校の授業で「指名されて答えなければいけず、緊張を強いられる」場面や「全員の前で音読するよう言われ、間違えるわけにはいかないと感じる」場面は、ある学習者にとっては「学びが起こらない場面」と言えます。
そこで教師には緊張を緩和するユーモアが求められます。
これは、誰かを貶めて笑いを起こす「嘲笑」とは一線を画したものです。
また、学習者が緊張をなるべく感じないよう、以下の方法が考えられます。
もちろん、「新たな発見」が伴えば最高ですよね。
こういった声が上がる授業は、素敵な授業だと言えます。感情が学びを後押しするからです。
③コミュニケーションをとる
人間の脳は長年、社会やコミュニティの一員として「生き残る術」を学んできました。脳は、他者とのコミュニケーションにより生まれたものに価値を感じるようにできているそうです。
なので、学びにおいて、「やりとりの中で発生した知識」は比較的覚えやすいとされています。
「勉強は黙って一人でやるものです!」という考え方はもう古いんですね。
たくさん話して、意見交換して、議論して、学びは深まっていきます。
そこで、以下の方法が効果的だと考えられます。
具体的には、学んだことを誰かにアウトプットし、そのことについて質問してもらったり、反論してもらったりするのは有効です。
昨今ではSNSなどの「学びのコミュニティ」などが多く存在するので、そういったところに身を置き、学んだことを頻繁にやりとりするのも素敵だと思います。
④反復をする
接触頻度が高ければ、脳はそれだけで「意味のある情報」と認識しやすくなります。
前回の記事でもあげましたが、これは「単純接触効果」ともいい、「何度も目にしたり耳にしたりする情報は意識していなくても覚える」という記憶のメカニズムのことを指します。
先述した通り、「覚えていられるか忘れてしまうか」の判断は、私たちの意志とは関係なく起こりますので、例えば新しいクラスになってからの友達や先生の名前や顔は「絶対に覚えようと意識していない状態」でも自然と覚えてしまったはずです。
最近では、「小テスト効果」などと呼ばれている手法が効果的だと言われています。
それは、自分が学んだことに対して「小テスト」のように「問い」を立ててそれに答えていく方法のことです。
記憶は「覚える」→「忘れる」→「思い出す」というサイクルの中で強化されていきます。
大切なのは、このサイクルを何度も回すことです。
また、「思い出す」ときのきっかけとなるのが「他の記憶との結びつき」です。
例えば、「昨日の夕飯で何を食べた?」と質問されたときに、「昨日の夜は何をしていたっけ?」と夕飯の周辺の行動から夕飯を思い出す人がいるはずです。
これは、「夕飯のメニュー」を思い出すために「夕飯前後の行動」を手がかりに思い出そうとする例です。
一つの記憶に対して、思い出すフックとなる記憶が多ければ多いほど、思い出せる可能性は高くなります。
そこで、以下の方法が効果的だと言われています。
学んだことをそれまでの知識や経験と結びつけることにより、「思い出せる」足がかりを作るために、学んだことと似ていることを探したり、何かに喩えたりする方法です。
⑤視覚情報を活用する
最後になりますが、記憶のコツとしてDual Coding Theory というものがあります。
これは、記憶の定着のために「言語情報と視覚情報」を組み合わせることです。
と覚えるより、
と図と言語情報を合わせた方が覚えやすいし理解しやすい、という理論です。
この特性を活かして、以下の方法が有効だと考えられます。
特に最後の活動は、視覚情報だけでなく、音、匂い、触感などの感覚記憶も合わさることになるので効果的です。
まとめ
ここで紹介した多くの「学びのコツ」は様々な文献やブログなどでも取り上げられていると思いますが、その多くがこうした脳の特性に支えられて効果が高いと考えられているものです。
ただ、「大多数の人にとって効果的」というだけであって、それらが本当に効果的かどうかは、実際に自分で試してみて分析するしかありません。
世間一般的に「有効だよね」と言われているものを盲信することなく、「本当の良し悪しは自分で試してみて決める」という姿勢が大切かと思います。
もしあなたがこうした「学び」について興味があれば、ぜひ私と一緒に勉強しましょう!
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それでは、皆様にとって学びの溢れた1日になりますように!
グッバイ!
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