逃げちゃダメだと思い破滅した日 高校野球
「逃げちゃダメだ」「逃げちゃダメだ」は、エヴァンゲリオンの主人公、
碇シンジ君が自分の中にある怖いと思う気持ちを抑えるために、
自分に言い聞かせたセリフであり。その結果と言ってはなんだが、
シンジ君の気持ちが強すぎで、セカンドインパクト、サードインパクトと言われる人類が崩壊に進む”インパクト”が結果としてが続いてしまうのだ。
僕も、自分に「逃げちゃダメだ」「逃げちゃダメだ」と言って
ファーストインパクト、セカンドインパクト、サードインパクトを起こしたことがある。最終的はフォースインパクトまで起きた。
高校2年の春である。僕は同期の一人と共に春の大会に出場するAチームに参加していた。先輩と同期の上手い奴らに混ざって毎日練習するのは、本当に厳しい。特にものすごいプレッシャーがかかるのは、監督のみならず、練習の足を引っ張れば先輩から「お叱り」を受けることになる。
条件反射というものが人間にもある。ある匂いを嗅ぐとある昔の習慣などを思い出したりして、習慣的に食べていたものを食べたくなることだ。
僕とその同期にも条件反射があった。
部活前の最後の授業になると緊張で足が震える。
怖いな。
でもAチームに残りたい。
でも怖いよ。
いや、でもBチームはいやだろ。
でも怖いよ。
という感情の流れが、授業でやっている数学B、数列の内容にに完全に当てはまっていた。ただ、基本恐怖が勝るので、例えば30個目のXはなんですかのような問いには「でも怖いよ」を入れればテストには正解できる。
なんというか、
なぜ「自分が上手くなってもっと怖い思いをしないといけない」のか。
今思うと「自分のコンフォートゾーン」から出てこういった環境でこそ成長するんだ。そういうことにしておこう。
そんなある日、僕はウォーミングアップでトスバッティングをしていた。
トスバッティングというのは、3人1組になり、一人がバッター、一人がピッチャー、一人が守備となり、バッターが守備の方に打つためのバットのコントロールを確かめたり、守備も実際の打球を受けるため練習になる。
僕が守備の時に、打球を捕ろうとすると、打球がイレギュラーし(不規則に跳ねること)僕の顔面に当たった。鼻に当たったので結構な鼻血が出た。
ファーストインパクトである。だが、これは始まりに過ぎない。
女子マネージャーが氷を持って来てくれて、なんとか血が止まったので、
そのあとの全体のノック(一番大切な時間)には間に合った。
この打球が顔面に当たるというのは、もちろん体にもダメージがいくが、
精神的なダメージが大きい。特に姿勢を下げてゴロを捕らないといけない僕のポジションは、顔が元々地面に近いため、臨場感が半端ない。
(地面とのシンクロ率が80%ぐらいになっている。いやほぼ地面)
そのため、「また跳ねるんじゃないか?」と少しでも思うと腰が浮き、
良い捕球ができない、でも、顔を下げるのは怖いという狭間に立たされる。
全体のノック開始
一球目
僕「おねっしゃす!」(お願いします!)
イレギュラーバウンドにビビリ、打球を後ろにそらす。
監督「後ろに逸らす奴はいらないから!」
僕 「はい!」いや、確かにそうだ。逸らしちゃダメだ。逃げちゃダメだ!
二球目
僕「おねっしゃす!」
ビビりながらも捕球体勢に入り地面とシンクロする。
セカンドインパクトが起きた。
案の定、イレギュラーし、打球が跳ね上がり顔に当たる。
打球は前に落ちたが、エラーはエラーだ。
ヤバイぞと思ったら先輩は笑っていた。よかった。
先輩が笑っていれば良いのだ。
ただ体は完全にビビっている。まさか1日で二回も顔面に跳ね上がるとは。
不思議なものでボールが体に当たってから自分たちがいかに硬いボールでスポーツをしているのかに気づく。馬鹿だ。石より硬いじゃないか。
碇シンジ君の碇(イカリ)という苗字は野球ボールが石より硬いからこの漢字に決まったらしい。
もうセカンドインパクトで完全に体はビビっている。
三球目
僕「おねっしゃす!」
なんとか捕球。
だてに10年以上野球やっていない。なんとか出来るのだ!
四球目
僕「おねっしゃす!」
イレギュラーバウンドにビビリ、打球を後ろにそらす。
監督「ビビっているからだろ!」
僕 「はい!」いや、確かにそうだ。逃げちゃダメだ。
五球目
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
僕「おねっしゃす!」
跳ね上がり、顎に当たった。
なんとサードインパクト発生。
僕は高校野球では全く有名にならなかったが、
この日世界で一番イレギュラーが顔面に当たった男であった。
だが、そんなことでは高校野球ドットコムには載れないのだ。
ちなみに違う日だが、僕はイレギュラーバウンドが、左目に直撃したことがあった。めちゃくちゃ腫れ上がった。
試合に出る予定だったが、試合は無理、コーチと話し、直帰。
後輩のお父さんが親切に駅まで送ってくれた。
眼科に行き大丈夫そうだということで、
とりあえず冷やしながら家でボーッとしていると
知らない番号から電話がかかってきた。
「お、〇〇(僕の苗字)か」
うん?誰か分からなかったが、
低い声で監督のモノマネをした同期だと思い、
「そーだよ?」と言ったら
「そーだよじゃねーだろ!笑」
と半笑いでツッコミを入れたのが監督だったのだ。
後ろでコーチが笑っているのも聞こえる。
「あ!すみません!」
フォースインパクトである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?