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自治体とエネルギー政策(日本学術会議シンポジウム感想)

 日本学術会議の公開シンポジウム「自治体とエネルギー政策」をオンラインで視聴したので感想を書こうと思います。例によって、シンポジウム全体をまとめるものではなく、自分が気になったこと、学びになったことを備忘として書くものです。

 まず、このシンポジウムは日本学術会議と日本地方自治学会、明治大学の共催でした。初めて知りましたが、日本学術会議は、無料で一般公開しているシンポジウムを毎週のように開催しているんですね。自分の知見を高める意味で、興味がある分野についてはどんどん参加していくのが良いと思います。国費で運営されていることですし。

 さて、今回のテーマは「自治体とエネルギー政策」。第一感としては、自治体レベルでエネルギーにどこまで関われるのだろうかということでした。この疑問については、シンポジウムを聞いてみてどう感じたかを最後に書いてみようと思います。

1.公営電気事業について

 公営の電気事業、特に県営電気事業に注目されたテーマを静岡大学の太田隆之先生が発表されました。
 地方公営企業法に規定されている公営企業。水道事業のイメージが強かったのですが、電気事業を行っている公営企業があることを初めて知りました。電気事業、発電といえば民間企業という印象がありました。とはいえ、年間の発電電力に占める公営企業の発電量は1パーセントにも満たないとのことです。
 電気事業を行っている公営企業は、環境保全やエネルギーの分野における地域貢献を行うほか、売電で得た収入の一部を一般会計へ繰り出すことで財源の一助としているそうです。地域課題に取り組む企業の電気料金を割引したり、子育て世帯への電気料金を軽減するなど、県の政策施策を推進する役割も担っているようです。

 以下、このテーマの感想です。社会的インフラの担い手についてどうあるべきなのか考えました。なぜ水道は公営企業が中心に行われていて、電気やガスは民間企業が主な担い手なのでしょう。インフラが整備された時期の問題なのか、あるいはインフラの整備手法の問題なのか。この辺りを掘り下げてみると面白いかもしれません。
 また、最近では水道の民営化がしばしば話題となります。水道の民営化については全く知見がないのでコメントはできません。ただ、水道の民営化が問題であれば、民間企業が電気やガスを供給していることはどうなのかとか、逆に電気やガスを公営企業で主に担うことがありえるのかとか。こうしたことを突き詰めていくと、そもそも社会的インフラは、誰がどのように担うべきなのかという問題にもたどり着きます。
 このテーマについては、東京大学の金井利之先生が公営企業の難しさについて言及していたことも印象的でした。公営企業は儲かるのなら民営化せよと言われるし、儲からないのならリストラせよと言われる。確かに。

2.太陽光発電の法的問題について

 太陽光発電設備をめぐる法的紛争について、同志社大学の黒坂則子先生からの発表がありました。
 太陽光発電は、本来は環境にやさしいとされる発電方法のはずなのですが、一方で周辺地域の環境や景観に悪影響をもたらすことがあり、近年はさまざまな法的な紛争が起きているそうです。
 ・太陽光発電設備設置予定地の周辺住民から開発行為の差止めの求めがあったが、景観に対する権利又は利益の法的保護性を否定された。
 ・太陽光発電設備の設置にあたり地元地区の不同意を理由に、土地開発行為等の適正化に関する条例に基づく同意をしなかった処分が裁量権の逸脱又は濫用と判断された。
 ・国定公園内の太陽光発電設備の新築の許可申請にあたり、景観を理由とした不同意の処分が裁量権の逸脱又は濫用と判断された。
 この問題に関しては自治体が独自に太陽光発電を規制する条例を制定したりもしています。これについては、地方自治研究機構がまとめています。

 国は、国策として太陽光を推進しています。それに基づいて事業者は太陽光発電設備を設置しようとします。一方、地域住民や地方自治体がそれに一定の規制をかけようとしています。つまり、国・事業者対地方自治体・地域住民という構造ができているのであれば、昔から続く国と地方自治体のせめぎ合いという構図から基本的には変っていないのかもしれません。

 以下、このテーマの感想です。あまり考えたくないことですが、熱海の土砂災害があって国として一律に盛り土を規制する盛り土規制法案が成立したように、太陽光発電を原因とする大きな事故が起きないと、国としては太陽光発電の立地を規制する一律の法整備は行わないのかもしれません。
 自治体としては、条例や要綱レベルであっても、地域の環境や景観に悪影響を及ぼす太陽光発電については、一定の規制を行う姿勢を見せ続けていくしかないのではないかと思います。

3.浮体式洋上風力発電について

 長崎の五島市で浮体式洋上風力発電の取り組みを行っており、五島市の野口市太郎市長から報告がありました。
 五島市の自然環境を生かして、浮体式洋上風力発電-洋上に浮かぶ風力発電-を導入し、関連産業をはじめとする雇用の確保、風力発電の固定資産税による税収の確保、環境保全の取り組みを進めているとのこと。
 そもそも、この事業を始めたきっかけは、人口減少対策なのだそうです。税収の増収が図れるし、それを主要産業である漁業への支援に充てることもできる。風力発電を洋上に設置することには漁業関係者から懸念する声もあったとのことですが、地元の各漁業組合への説明を重ねて、地元からの同意書を得ることで実現したとのことでした。

 このテーマの感想ですが、風力発電の海の中の柱に海藻やサンゴが付着し、魚が集まってきて漁礁のような環境を作ることができるのは面白いと感じました。また、いわゆる「環境にいい取り組み」については、ただ単に環境にいいだけではなく、それが雇用の推進や地域に入る収入を増やすなどの効果があってはじめて推進できるのではと考えます。

4.エネルギーについて自治体ができること

 このシンポジウムのディスカッションの意見でもありましたが、自治体が持つリソースは施策に関する情報を持ち、その情報を周知できること、また地域住民との関係で合意形成ができることなのだろうと思います。これは、エネルギー政策に限らず、さまざまな分野において同じことがいえるでしょう。
 エネルギーについて自治体ができることは限られています。そもそもエネルギーを作るためのリソースを自治体はそれほど有してはいません。とはいえ、エネルギーについて個別の施策と関係づけを行うことや、新たなエネルギーの導入にあたって地元住民と調整を行うことなど、限定的ながらもできることがあるという印象を持ちました。

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