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東芝の洋盤ポピュラー総合試聴盤『Original Rock 'n' Roll Series Special D.J.Copy ROCK 'N' ROLL FOEVER』PRP-8003

 1970年頃に東芝レコードが「オリジナル・ロックン・ロール・シリーズ」として、アメリカ~イギリスのポップス・アーティストのベスト・アルバムをまとめてリリースしています。そしてこれはそのシリーズのラインナップに入ったアーティストの楽曲を2曲ずつ収めた非売品の宣伝用見本盤。特にこれといって珍しい曲が入っているわけではありませんが、片面12曲の24曲入りという大盤振る舞いで、それだけでちょっとしたオールディーズのコンピレーション・アルバムのようになっています。
 ラインナップは主にキャピトルリバティーといったメジャーなレーベルの作品が中心で、そこにリバティーを介して音源が配給されていたドルトンインペリアルなどのレーベルの作品が含まれています。

 とはいえ、片面に12曲ずつも入っているので音は良くないです。お得さをとるか、音質をとるか、ですね。フィリップス・レーベルの「カスタム20」というシリーズなど、20曲入りのレコードはお得盤として当時各社からリリースされていましたが、どれも音質に多少難があると思います。気になる方は聴き比べてみてください。

 ロックンロールの名曲が揃っています。中でもワンダ・ジャクソンの「のっぽのサリー」はなかなかカッコよかったです。ベタっとした歌い方で、ビートルズの日本公演の前座でドリフターズがこの曲を演奏したときの仲本工事の歌い方の歌い方に似てるんですよ。なんとなく。ロイド・プライスみたいな人も、この時にアルバムを再発売してくれたおかげで、こうして比較的簡単に国内盤のレコードを入手して聴くことができるのです。ありがとう東芝音楽工業。

 このシリーズで実際に発売された各アーティストのアルバムは日本で独自に編集されたベストアルバムの場合と、本国でリリースされたベストアルバムをストレートに再発してくれる場合と2通りがありました。フリートウッズボビー・ヴィージャンとディーンはオリジナル同じ曲目でした(一部ジャケットのデザインなどが日本向けに変わっていましたが)。もしかしてリバティー系のアーティストはオリジナルのフォーマットを守れというお達しがあったりしたのかな?…などと思いましたが別に根拠はないのでそれは一旦忘れてください。このなかではやっぱりビーチ・ボーイズが少し浮いてますね。彼らのサウンドがいかに当時にしては洗練されていたのか、こうして並べてみると改めてよくわかると思います。

ロゴがかわいい。ミッキー・マウスの短篇作品あたりのイメージでしょうか。

 この〈オリジナル・ロックン・ロール・シリーズ第一期〉のシリーズは「監修:朝妻一郎、亀淵昭信、木崎義二、桜井ユタカ、宮内鎮雄」とのことで、当時の日本のトップクラスのオールディーズマニアの最強メンバーが集まった最高の企画でした。予定されていた〈第二期〉があったのかどうか、そのあたりは判然としませんが、こうした動きが1973年の映画『アメリカン・グラフィティ』の公開をきっかけとする日本での本格的なオールディーズ・リバイバル・ブームに繋がっていったのは間違いないだろうと思います。最後に、実際にリリースされた各アルバムに差し込まれていたラインナップの紹介冊子から、中村とうようさんの寄稿文を転載して終わりたいと思います。

 数年前からアメリカやイギリスでは、ロックン・ロールリバイバルということが叫ばれてきた。この叫び声は、そろそろ日本でも起こり始めたようだ。なつかしのロックンロール…というようなことを言うと、とかくそれは、オールドファンの昔なつかしの感傷から出ているものと解釈されがちだ。 実際、そういう面も確かにあるだろう。 でもけっしてそれだけではない。
 グッと正直に、ありのままを包み隠さずに言うと、ぼくはもともとロックン・ロールのファンではなかった。 チャック・ベリーやファッツ・ドミノがヒットを飛ばしていた1950年代、ぼくはもう音楽といえばベートーヴェンか美空ひばりしか受けつけないというほど芸術づいていたから、ロックン・ロールなんてテンデ馬鹿にしていた。 ロックを聞き出したのはビートルズ以後のことなのです。 それから初期のロックもさかのぼって聞くようになったのだが、 聞いているうちにダンダンよくなってきた。 このところ、ニュー・ミュージックマガジンで「ロック研究セミナー」 と称して古いロックの連載をやっているのも、ぼく自身オールドロックン・ロールを勉強したいという意欲の表われなのです。
 そうして勉強しているうちに、ますますオールドロックン・ロールが好きになってきた。 もちろん、古いロックなら何でもすべて大好き、というとウソになる。 しかし、たとえばファッツ・ドミノ。 この人など、 前から割と好きでレコードも聞いていたが、今回彼の若いころのレコードをジックリ聞いてみて、あらためてそのすばらしさを再認識した。
 オールド・ロックン。ロールのよさを、単純素朴という点にだけ求める人もいるようだが、それは間違っている。 確かに今のロックにくらべたらシンプルだ。 しかしシンプルな中に深いスピリットと豊かな情緒があって、それが大きな魅力となっているのだ。
 幸い東芝は、 恵まれすぎるほど原盤に恵まれている。 インペリアル、ミニット、アラディンなどぼくの大好きなレーベルも含まれている。 内容の充実したロックン・ロール・シリーズを期待したいものだ。

〔中村とうよう〕

東芝音楽工業〈オリジナル・ロックン・ロール・シリーズ第一期〉ラインナップより

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