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西郷輝彦『テルちゃんと踊ろう』(クラウン LW-5133)
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西郷輝彦さんのアルバム『テルちゃんと踊ろう』です。そうか。テルちゃんと呼ぶのか……。このレコードを知って以来、西郷さんのことはテルちゃんと呼ぶことにしています。美樹克彦さんともにクラウンレコードの青春歌謡を盛り上げたテルちゃん。実は自分で作詞作曲をしたり、時代に合わせてサウンドやスタイルを変化させていくアーティスティックな面も兼ね備えた方です。ライヴアルバムも含めていろいろと買い集めては聴いておりますが、この『テルちゃんと踊ろう』は特に楽しく大好きな1枚です。
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ジャケットを見る限りではなんにもわからないのですが、これ、ベストアルバムに見せかけた全曲再録音盤です。
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レーベルをご覧いただきたいのですが、どうでしょう。曲のタイトルの後に、カッコしてリズムの名前が書いてあります。「星のフラメンコ」はオリジナルのくどいところが抜けてスムーズに、「西銀座五番街」は「だんご三兄弟」のようなわかりやすいタンゴに。エレキ歌謡化した「海の子守唄」は「レッツゴー、テル!」の掛け声がカッコいい。「恋人ならば」はフルートの音色が怪しげなボサノバに、といった具合に、いま聴くならオリジナルよりこっちよね、と言いたくなるナイスなアレンジばかりです。
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そしてB面はサーフィン・サウンドになった「恋のGT」が最高。やたらと景気が良いわりにあまり若さを感じない男女のゴーゴーコーラスが絶品です。そして「この虹の消える時にも」から「星娘」までは一気にジャズ化。気持ちよくスウィングしてアルバムは終わります。改めて振り返って思うのは、浜口庫之助さんと米山正夫さんの楽曲のなんとダンサブルなこと。ともすればキャリアの開始が少し古いので保守的なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、非常にモダンです。このレコードを聴くと特にそれがよくわかります。
手持ちの盤には帯がないので、Discogsのリンクを貼っておきましたが、帯には「踊れる様に新しく録音しました!」とあります。これまでのヒット曲を、ビートの聴いたアレンジに仕立て直して再録音したわけです。これ、今で言うところの「ダンスリミックスアルバム」ですよね。先進性がありすぎて、テルちゃんに一生ついていきたくなってしまいました。若大将こと加山雄三さんももそうですけど、今では普通に誰でもしていることを、まだ概念が存在する前に実現しているという事実にシビれてしまうのですよ。
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編曲は小杉仁三さんです。クラウン専属のアレンジャー、作曲家で、クラウンのレコードはもちろん、歌謡曲のインストアルバムでも本当によく名前をお見かけする方です。テルちゃんの写真についているキャプションもなかなかに味わい深いので書き起こしておきましょう。
8ミリに凝っているテルちゃん、忙しい仕事の合間をみつけては、さかんに傑作(?)を撮りまくっています。「君のカッコいい踊りも撮らせてね…」
何事も力いっぱい、体当りのテルちゃん、歌もエレキも、しびれるムード
エレキにドラム、そして踊って歌う、テルもゃんのたまらない魅カ、バックのタンサーもゴキゲンで、GO!GO!
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そして昭和のダンスと言えばこの人。「社交ダンスの父」こと中川三郎さんからのコメントが載っております。これも書き起こしておきましょう。
西郷君がダンス音楽というジャンルの中で、新しいLPを打出してくれたことに、大きな喜こびの言葉で、あえて推せんをさせて戴きます。
ダンス音楽という言葉は、戦前にはジャズ、あるいはポピュラー音楽とともに共生して、その区別さえ判別し得なかった時代があります。
戦後は、ラテン、シャンソン、ポピュラー、ダンス・ミュージックなど多種多様性をもつようになり、各々が、違ったジャンルをもって独立した音楽と考えられるようになりました。
しかし、近頃になって、音楽のリハビリゼイション(再興)が叫ばれるようになって、ダンス・リズムが新しい傾向の唄に強く作用し始めるようになりつゝあります。
ごく最近でも、カリプソ娘からドドンパ娘といった具合で、サーフィン・リズムを底辺とした、ヒット・ソングが脚光を浴びております。
こういった新しいリズムを敏感にキャッチした新しい唄に、彼が新境地を開いてくれたならと、ひそかなる期待を寄せています。
このたびのLPは、スタンダードな種目を選んで、彼独自の魅力あるヒット・メロディーが流れてくるのですから、大変楽しいダンス用アルバムといえましょう。
ずっと部分的にしかCDになっていなかったこのアルバムですが、テルちゃんの没後1年のタイミングでリリースされたこのボックスセットでついにCD化が実現しました。
サブスクで聴けたらもっとうれしいのですが、それは今後の楽しみにとっていくとしましょう。他にもテルちゃんのアルバムには面白いものが多いので、またいろいろと紹介していきたいと思います。
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