▪️視覚によって脳は出さまれている

「 錯視」は、私たちの脳が簡単に騙されていることを知る、手っ取り早い方法の1つです。「正常な判断力があればだまされない」というのは思い込みで、人間の脳はとてもだまされやすい性質を持っていることが、よくわかると思います。錯視は目で生み出される現象のように思いますが、脳の情報処理と関連していることは間違いありません。少なくとも、人間の知覚がいかに曖昧であるかがわかります。
よく「この目で見たものしか信じない」という人がいますか。自分の目で見えているものが正しいと思い込むのは、とても危険なことなのです。 実は、人は自分が見たいものしか見ていません。

つまり、我々が普段認識している世界は、錯覚というフィルターを通して構成されているのです。
目に見えるものですら簡単に騙されるのですから、思考においてはなおさらです。あなたは気づかないうちに様々な錯覚にとらわれています。一方で、イメージの力によって 自分の脳に良い錯覚を与えることもできるのです。これから紹介する錯視
画やトリックアート(だまし絵)は、人間の脳がいかにだまされやすいかを証明するものです。有名な作品をいくつか見ていきましょう。

<ミュラー・リヤー錯視>
ドイツの心理学者、フランツ・カール・ミュラー・リアが1889年に発表した有名な 錯視画です。水平に書かれた3つの図は、上段が短く見えますが、すべて同じ長さです

全て同じ長さです

<カニッツァの三角>
イタリアの心理学者、ガエタノ・カニツァによる1955年に発表された錯視図形です。描かれているのは、一部が欠けた円と、くさび型になった線だけです。 しかし、画面の中央には三角形があるように見えます。本当は存在しない、この三角形の輪郭は「主観的輪郭」とよばれています。また、実際は周囲と同じ輝度(きど)のはずにもかかわらず、中心の三角はより明るく見える「パックマン刺激」という効果も実感することができます。

カニッツァの三角

<フィック錯視>
ドイツの心理学者、ヴェルヘルム・ヴェントによって1851年に報告された錯視図形で「垂直水平角錯視」とも呼ばれています。
図形Aと図形Bのそれぞれの図形は、長さも太さも全く同じであるにもかかわらず、図形Bの方が長く見え 図形Aの方が太く見えます。
脳が、水平な横線より、垂直な縦線の方を長いと認識するために起こると言われています。

「垂直水平角錯視」

<エビングハウス錯覚>
ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスによって報告された錯視図形です。真ん中のふたつの円の大きさは全く同じであるにもかかわらず、比べてみると、大きな円に囲まれた真ん中の円の方が小さく、小さな円に囲まれた真ん中の円の方が大きく見えます。対比による錯視のひとつです。

真ん中の円はどちらも同じ大きさ

<ルビンの壺(ルビンの杯)>
1915年頃にデンマークの心理学、エドガー・ガルビンが発表した錯視図形。白と黒を持ちいた図形です。白い部分に着目するか、黒い部分に着目するかによって、壺(杯)が見える人もいれば、向かい合うふたりの横顔が見える人もいます 。人は着目するポイントを変えるだけで、全く違うものが見えることを明らかにしています。さらに面白いのは、一度向かい合う人だとインプットしてしまうと、もうそのようにしか見えなくなる点です。そこで「この人と人の間に壺がある」と言われると、今度は壺にしか見えなくなる。これが脳の特徴です 。

<妻と義母>
この有名なだまし絵は、1888年にドイツで発表された絵葉書がオリジナルとされています。日本では、「夫人と老婆」「若い女性と老婆」などと訳されることが多い、有名な絵です。
1枚の絵が、画面奥に顔を向けている若い婦人の横顔にも見えるし、 横顔見せている老婆にも見えると言うもの。ダブルイメージと呼ばれる表現技法を使っています。人によっては、どちらか片方しか見えない場合もあるでしょう。しかし、視点を変えてみると、全く別の顔が浮かび上がるのがわかるはずです。

夫人と老婆

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?