旅での学びって?ー人との会話が最も深く、旅を教えてくれる。

旅の楽しみとは、ズバリ何でしょうか。

そこでしか見られない絶景、そこにしかない歴史的建造物、そこでしか食べられない特産品……。
「そこにしかない何か」が、いつだって旅人の心をわくわくさせてくれます。

同じく人間だって、「そこでしか出会えないもの」のひとつ。
旅先で新たな友人を作ることだって、楽しみのひとつと言えるのです。

人の集まる場所には必ず出会いが。


私たちが普段日常生活で接している人といえば、仕事仲間、ご近所さん、行きつけのお店の常連さんなど。何かしらコミュニティを共有している人達です。
そんな人達はたとえ初対面でも、どんな人なのか想像できます。

私と同じ部署なのだから、ある程度社交的なはず。
あのマンションに住んでいるということは、転勤族か。
このお店に通うのだから、ビールが好きに違いない……。

私たちは知らず知らずのうちに、そんな予想をしながら人と接しています。

旅先で出会う人はそうはいきません。
その人は私とは違う仕事で、違うところで暮らし、もしかしたら違う言葉を話す人かも。
予想のつかない人たち。

そんないつも接している人ではないからこそ、私も、私の周りの人も知らないことを知っているのです。

いつも接している人とは全然違う人……そう例えば、こんな国の人。

キューバの首都ハバナ

キューバという国

2017年にキューバを訪れました。

キューバはカリブ海に浮かぶ、温暖な島国。
長い植民地時代を経て独立した社会主義国です。

この国では社会保障が充実していて、基本的な食糧や日用品は配給されます。
病院や教育も無料なので、国民のほとんどが高等教育を受けています。
キューバの公用語はスペイン語ですが、このしっかりした教育のおかげで英語が流暢な人もたくさんいるので、旅もしやすい。

医者が多いことで有名で、国民あたりの医者の数は世界一ともいわれています。
新型コロナウイルスが初めて大流行した2020年には、キューバの医師団がイタリアなどの感染爆発地域に派遣されるほどでした。

そんなキューバには貧富の差がほとんどなく、暖かい気候もあり、明るく陽気な国民性。
道端ですれ違うキューバ人は目を見てにっこり微笑んで「Hola!(こんにちは!)」と手を振ってくれます。
その姿は太陽の降り注ぐ南国に似合って、とてもチャーミング!

キューバの旅の拠点といえば、Casa

どんな旅行にも欠かせない、旅の拠点、宿。
リゾートホテルからバックパッカー向けの安宿まで、旅先によって選択できることがほとんどですが、キューバはちょっと違います。

キューバの旅の拠点の基本、それはCasa。

田舎町ヴィニャレスでお世話になった、料理上手のママと運転がスーパー適当なパパ

スペイン語で家を表すCasaは、その名の通り旅人の「家」。つまりホームステイです。
家族が暮らす家の一室や、離れに泊まるのが主流です。
朝食つきが基本。その家のお母さんやお父さんが、好みに合わせて朝ごはんを準備してくれます。

キューバはカフェやバー文化が発達しているものの食文化は貧しく、お料理を楽しめる場所は多くありません。
でも、家庭料理は本当においしい!
ママが朝から作ってくれるスープや、新鮮な色とりどりのフルーツは身体にやさしく、旅で疲れた身体に沁みます。

そしてCasaのホストは旅のコンサルタントでもあります。

朝ごはんを食べると「今日はどこに行くの?」とママ。

「あの辺はスピード出してる車が多いから気を付けてね」
「海岸のほうまで行くならおいしいコーヒー屋があるから寄ってみて」
「帽子持ってる?昼間は暑いよ!」
なんて会話が自然と生まれ、旅先なのに家族に守られているような、不思議な安心感に包まれます。

海は美しく、街並みはきれいで、人は優しい。
なんて暖かい国なんだ……最高だ……

ホルヘとの出会い

ある暑い日中、海岸近くのコーヒー屋さんで休憩していると、キューバ人が現れ、話しかけてくれました。
社交的なキューバ人が観光客に挨拶するのは日常茶飯事です。

彼はホルヘ。ここ首都ハバナでCasaを経営しているそう。
彼は例にもれず、目が合えばにっこりしてくれる陽気で明るいキューバ人でした。
彼と一緒にいると、キューバの印象を語らずにはいられません。

「初めてキューバに来たんだけど、Casaというキューバの暮らしを体験できるシステムは素敵だし、キューバ人はみんな明るくて優しいし、素晴らしい国ね!」

ホルヘの答えはこうでした。
「そんなにキューバが好きなら、僕と結婚して僕をキューバから出してくれよ」

社会主義に守られた「不自由」

ホルヘの話では、キューバ人は自由に海外に出ることができません。
海外に出られるのは「医者かスポーツ選手で、一般人は絶対無理」と言います。

キューバでは、全ての仕事が国から紹介されるので、職業が自由に選択できるとは言えません。
国に与えられた仕事をこなし、どんな仕事でどんなパフォーマンスでも、受け取る給料はみんなだいたい同じ。
そしてみんなと同じ食べ物や日用品を配給として受け取り、みんなと同じ生活をするのです。

気になっていたことをホルヘに聞いてみました。

別の日に、街中の商店で石鹸を見かけたときのこと。
どんな石鹸かな、南国の香りかな?と思って見ていたのですが、売り場にある石鹸は無地の1種類。
他のお店にあるのも同じ石鹸でした。
どうして?

「みんな同じ給料で、同じ生活だから、1種類しかないものが多いんだよ。
いろんなものを作って、売上を上げる必要もないでしょう?
僕たちの生活には、バラエティがないんだよ。

僕は外国に行ってみたい。
もっといろんなものを見てみたいよ。」

僕は医者でもスポーツ選手でもないから、外国人と結婚するしかないんだよね!
と、ホルヘは笑っていました。
結婚して、というのは冗談でも、キューバから出してほしい、という気持ちは本心のようでした。

ホルヘは知っているのです。
私が外国人で、仕事を選択できて、新しいものを作る自由があることを。
自分はきっとずっと同じ国にいて、同じ生活をすることを。

古いものが多く残るのは、修理したり新しいものを建てる技術がないからとも


この国を選ぶ人たち

私はこの後ホルヘのCasaに宿を移し、2日ほど一緒に過ごしました。
近くで行われていたパーティに誘われたのでついていくと、キューバ人にしては背の高い女の子が2人いたので、声をかけてみました。

彼女たちはアフリカから来た留学生でした。
「大学で医学を勉強してるの。私の国よりずっと技術が良いから。」

キューバにはすでに1年いるというので、ものが配給される暮らし、ホルヘの言葉を借りれば「バラエティのない暮らし」はどうなのか、聞いてみました。

「ずっとこのままだったら退屈かもしれない。
でも、貧しい人がいない。
食べ物に困っている人もいない。
医療を受けられない人もいない。
それって素晴らしいことよね?
あなたもそう思うでしょう?」

私の目を見てそう言い切りました。
ハッとさせられました。

外で遊ぶ青少年たち。物乞いはいない。

ホルヘの言う「バラエティがないのが不自由」も、
彼女の言う「貧しい人がいないのが素晴らしいこと」も、
私が「暖かくてみんな陽気でサイコー」と思っていた、同じ国のことなのです。

私がキューバを訪れる2年前に、キューバとアメリカは断絶していた国交を再開しました。
私が訪れた頃には外資系のホテルが建設され始めていて、Casaよりホテルが主流になる時代が近いことが感じられました。
みんなが違う印象を持っていた国ですが、その印象も時代とともに変わっていくことでしょう。

ホルヘは今頃、少し自由を手に入れているかもしれません。
アフリカ人留学生も、退屈を感じなくなっているかもしれません。

そうなる前に、不自由さを言葉を持って教えてもらえたこと。
それを自分の耳で聞けたこと。
今となってはとても貴重な経験です。

人との会話の中にある成長

ただおいしい朝ごはんを食べて、きれいな海を眺めて、ガイドブックを片手に歩いているだけでも楽しかったけれど。
それだけでは、この国を知ることは絶対にできなかったでしょう。
そしてこんなに見聞を広げ、内省することはできなかったでしょう。

旅をして、それを堪能するということ。
それには新たに出会った人との会話も不可欠だと思います。

新たな価値観は、人の言葉や背中が与えてくれるのです。

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