見出し画像

「ドナルド・トランプの世界」(フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年7月号)一言感想

グローバル主義が推進する考えを知るために購読しています。(私は、国家(国民)主権を尊重で、行き過ぎたグローバル主義には反対です)


ドナルド・トランプの世界

①トランプが権力に返り咲けば - 「アメリカ・ファースト」が導く無秩序

ハル・ブランズ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 特別教授

ハル・ブレインさんは、結構有名は本を書いている方ですね。

論文は、トランプを批判する内容です。
序文抜粋『
トランプは、ヨーロッパやアジアの小国を守るために、なぜアメリカが第三次世界大戦を引き起こす危険を冒さなければならないのかと問いかけている。アメリカの利益が危機にさらされているときには、積極策をとるべきだと考えているが、その利益にアメリカが長年維持してきたリベラルな秩序が含まれるとは彼は考えていない。リベラルな秩序が崩壊すれば、アメリカも最終的には、より無秩序な世界で苦しむことになる。だが、現在からその時がやってくるまでに、他のすべての国がより大きな代価を支払うことになるだろう。

②同盟諸国との連携強化を ― 相互運用性を強化するには

トーマス・G・マンケン 戦略予算評価センター 所長

アメリカと同盟国(もちろん日本含む)の軍事強化を提案する論文。
私は、日本は世界平和のために、米国とどのように協力するか含め、主体的に考えるべきだと思います。

一部抜粋『アメリカは現在、ヨーロッパでウクライナ戦争、中東でイスラエルの戦争に関わっており、今後、東アジアで台湾や韓国をめぐって三つ目の戦争に直面する可能性もある。たとえ世界最強の国であっても、主要な戦争を単独で戦うことはできない。ワシントンは、より多くの軍事物資、兵器を生産して、基地を確保し、それらを同盟諸国と共有していく必要がある。パートナーとともに戦うためのより良い軍事戦略を策定する必要もある。そうしない限り、ますます能力を高め、連携を深める敵に圧倒される危険がある。』


変化するヨーロッパ

③右派の台頭とヨーロッパの未来 ― 仏独の政治的混乱と欧州連合

マティアス・マタイス 米外交問題評議会 シニアフェロー(ヨーロッパ担当)

伊メローニや仏ルペンなどの右派(もしくは、far right:極右)の躍進を警戒する論文です。
序文抜粋「
最近の欧州議会選挙ではリベラル派政党への支持が落ち込み、はっきりとした右傾化がみられたが、それでも、欧州連合の政策に右派が直接的な影響を与える政治連合を形成できるほどの勝利ではなかった。議会では依然として親ヨーロッパの中道勢力が多数派を占めている。むしろ、最大の衝撃はメンバー国の国内政治レベルに認められる。特に独仏で極右政党、中道右派政党が台頭したために、マクロンもショルツも国内政治に足をとられ、ヨーロッパでこれまでのようなリーダーシップを発揮できなくなるかもしれない。ヨーロッパは、今後の統合の方向性について不確実で不安定な時代を迎えるのかもしれない。」

④ヨーロッパの社会分裂 - 都市と農村の格差と政治

マリー・ハイランド 欧州生活労働条件改善財団 リサーチ・オフィサー
マッシミリアーノ・マスケリーニ 欧州生活労働条件改善財団 社会政策ユニット長
ミシェル・ラモン ハーバード大学教授

ヨーロッパの地域格差の論文です。トラックデモ等の報道で格差が問題になっていることはなんとなく知っていましたが、農村部と都市部で、インターネット回線速度・品質にも差があることに驚きました。
一部抜粋『たとえば2022年のデータによると、フランスの都市部における固定系ネットワークの平均回線速度は219.07MB/秒だった。農村部のそれは、その半分強の128.6MBだった』

私は、日本では物理回線(NTT回線)は全国共通で、プロバイドと利用者数によって速度が変わるという認識であり、ヨーロッパよりも回線インフラがしっかりしているんだと思った反面、NTT法廃止がより危険なものに感じられました。

参考


⑤地政学と国家規模 - 超国家と小国の立場と役割

シブシャンカール・メノン 元インド外務次官

2つの本を紹介しています。

Alasdair Roberts(政治学者)「Superstates: Empires of the Twenty-First Century」・・・超国家には本質的な脆弱性があること、そして統治面では途方もない困難に直面することを指摘する

Armen Vardani Sarkissian(元アルメニア大統領)「The Small States Club: How Small Smart Powers Can Save the World」・・・大国を重視するバイアスを是正することを狙っている


米国、Chaina、そしてインド(モディ)の「世界を文明化する」という主張は、かつての帝国の傲慢な使命感の現代版にすぎない と論じているのが面白い。

『大国が国内の分断に苦しんでいるとすれば、小国は弱体であることに苦しんでいる・・・(中略)国会規模にかかわらず、現在の世界の無秩序は、大国・小国に関係無く、自らの望む結果を手に入れにくい状況を作り出している。』と締めており、解決策は提示されていません。2つの本を読んで、みんなで考えよう、という事だろうか。


アメリカと中東

⑥アメリカはアラブ世界を失いつつある - アラブストリートの信頼を勝ち取るには

マイケル・ロビンス アラブ・バロメーター社 ディレクター兼共同研究員
マニー・ジャマル プリンストン大学 公共・国際問題大学院 学院長
マーク・テスラー ミシガン大学 教授(政治学)

アラブ・バロメーター社は、国際世論調査会社のようです。

2022年の記事

論文では、さまざまなデータ(調査結果)が示されており面白いです。
序文抜粋『
アラブ世界で反米感情が急激に高まっている。イスラエルがガザで軍事作戦を始めて以降、ヨルダンでは、アメリカを好意的にみなす人の割合が、2022年の51%から、最近実施された調査では28%に激減している。国内での反米感情の高まりゆえに、アラブの指導者で、ワシントンに協力しているとみなされたいと考える者はほとんどいない。アメリカのアナリストは、アラブ民衆の声は、米外交政策にはあまり関係してこないと軽くみているが、「アラブの指導者は世論に左右されない」という考えは神話にすぎない。アラブ市民のアメリカへの信頼を取り戻さない限り、アラブの指導者たちは対米協調を避け、アラブとイスラエルの国交正常化もイラン封じ込めも遠のき、中国を含むアクターがこの地域で台頭してくることになるだろう。

⑦米イスラエル関係の未来― 特別な関係の終わり?

ダリア・シャインドリン ハーレツ紙(イスラエルの新聞)コラムニスト
ハアレツ/ HAARETZ :イスラエルの新聞。Wikipediaによるとリベラル的らしい。
https://www.haaretz.com/

イスラエル民主主義研究所が実施した世論調査「データ・イスラエル」等のリソースに基づき、米イスラエル関係を分析しています。最後は、「戦略的利害を共有することで、両国が同盟国であり続けることは可能でも、これまで互いに信頼してきた「特別な関係」ではなくなるかもしれない。」という記述で絞められてり、断定的な事や著者の主張を入れない書き方をしている論文でした。

歴代米大統領とイスラエルの関係を振り返りつつ、バイデン政権と現在のイスラエルについては下記記載をしています。
バイデン政権について 抜粋「
民主党の支持者の一部、特に若者や左派は、民主党の政治家と同様にガザ戦争を強く批判してきた。バイデンが900キロ爆弾の輸送停止を発表する数週間前、経済政策研究センターが実施した世論調査でも、民主党員の大多数、そしてアメリカ人全体のほぼ過半数は「イスラエルへの武器輸送停止」を支持していた。」

現在のイスラエルについて 抜粋「
現在のイスラエルの若者は、ネタニヤフのナショナリスト右派の時代に育っている。彼らには和平プロセスの記憶はなく、一方で、戦争の経験は十分だ。ハマスとの繰り返される戦闘、ロケットによる度重なる攻撃、紛争に関連した暴力のなかで彼らは育っている。」

参考
カーター、パレスチナを語る


Current Issues

⑧東アジアのイノベーションモデルに学べ― 大企業とスタートアップの関係

ラモン・パチェコ・パルド キングス・カレッジ・ロンドン 教授(国際関係論)
ロビン・クリングラー=ビドラ キングス・ビジネススクール 准教授(アントレプレナーシップ)

日本と韓国を、「いまやイノベーションとハイテクのパワーハウスだ」と褒め、シリコンバレーはもっと頑張れと主張する論文。
日本については下記のように紹介し評価していますが、私は「光と影のTSMC」を丁度読んでおり、素直に受け止められないです。
抜粋「
日本も2018年にほぼ同様のプログラムを開始している。J-Startupは、いわゆる「系列企業」として知られる大企業が、主要銀行とのパートナーシップを通じて、潜在的ユニコーン企業などの有望なスタートアップに資金提供などの支援を提供するプラグラムだ。(中略)。2022年、岸田文雄政権は、2027年までに新たに100社のユニコーンを育成し、その間に1万社のスタートアップを生み出すという目標を発表している。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

⑨脱グローバル化という危険な神話 - グローバル経済の真の姿

ブラッド・セッツァー米外交問題評議会シニアフェロー

世界経済が、「China中心と西側中心に分かれている」という説は誤りで、米国が対中関税を強化しても、サプライチェーンが迂回するだけであり、世界経済は依然として深く統合されている。という論文。

問題点の一つとして、多国籍企業のタックスヘイブンの利用により、China経由のサプライチェーンの更なる強化(もちろん米国の税金を納めない事も問題)を挙げており、私はそれには同意します。しかし、結論として、脱グローバル化を止める(つまりグローバル化を推進)事を推奨しているのには同意できません。サプライチェーンも含めた、国内経済の発展(国民の益)から検討すべきと私は考えます。(日本なら、日本国民が豊かになる→それによって世界に貢献する という順番)

⑩プーチンと一体化したロシア社会 - 反欧米路線が促したロシアの統合

タチアナ・スタノバヤ カーネギー国際平和財団ロシアユーラシア・センター シニアフェロー

ロシアが硬直化している(プーチンの信望者になっている)という論文。
私は、ロシアが強化している事を、西側が認めたと認識しました。これは、停戦・休戦に繋がる変化だと思います。

序文抜粋『プーチンは、ウクライナ戦争へのコミットメントと反欧米の敵対路線については驚くほど均質な政治環境をロシアで作り上げることに成功している。エリートたちも、戦争を支持し、プーチン信奉者の仲間入りを果たすしかない環境にある。「欧米に対抗し、米主導の国際秩序を突き崩す必要がある」というモスクワの主張はロシア社会で広く受け入れられている。財政基盤、ウクライナでの軍事的優位、そして完全な国内統制が維持される限り、ロシア社会が揺らぐことはないだろう。欧米は、「より自信を高め、大胆で過激になったロシア」にどのように関わっていくかという厄介な課題に直面している。』


FAR一言感想リンクまとめページ

フォートトーク生成「「アメリカ・ファースト」が導く無秩序」

参考 イスラエルーハマス 関連の図書等
ネタニヤフの著書

元モサド、インテリジェンスマスター ハレヴィ氏の著書

元外交官 佐藤優氏の著書と、実際にイスラエルに訪問し、現地の声などを解説した動画

東京大地塾 2024/7/17



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?