見出し画像

《イヤリング、落.》

 ふいにやってきた落花生(らっかせい)の季節。あのほくほくクリーミーな味わいは、晩秋のほんのいっときの贅沢なのです。実はこの時の「遊び」もまた愉しくて。


 祖母は幼い頃から、わたしに身近なもので遊ぶことを教えてくれていました。A4の裏紙を正方形に切って鶴を折ること、草の茎を絡ませひっぱりあう草相撲、笹の葉を水に浮かべる笹舟と。

 その中には「落花生」を使うものもありました。こちらはとても簡単。ひょうたん型の殻を先だけ割って、耳につけ「イヤリング」にするのです。祖母は幼い頃、妹たちとこれをしていて「食べ物で遊ばないの!」と曽祖母にしょっちゅう叱られたそうです。

 
 ふわ〜んと台所からリビングにまで広がる甘い香り。40分ほどかけて茹でる生の落花生は、途中から幸せの香りがしてくるのです。「あっつい。」と言いながら茹で上がった殻をぱきっと割り、中から乾燥したものがピーナッツとして売られている「実」を取り出します。


 ほおばり噛みしめると、そのお芋のような食感とナッツならではのまろやかかさが口中に広がって。とまらないね、と祖母と食べていると、殻を割るわたしの手元にすっと彼女の手が伸びてきます。「貸してごらん。こうするの。」

 今は右手しか動かない祖母の変わりに「こうするんでしょ。」とわたしが両耳にピーナッツのイヤリングをつけ、彼女に見せます。「みてみて〜。」と首をふってもこれが案外落ちないのです。さらに、祖母の右耳にもつけてあげます。これが真っ白のショートヘアによく似合って。口紅を塗って、イヤリングをして出かけていた頃の祖母を思い出してしまったほどでした。


 「ダメって言ったのに。」と、どこからか曽祖母の声が聞こえてきそうな秋の午後。ひいおばあちゃん、この時だけはゆるしてね。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?