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【大学の話】ロシアのエネルギー政策

国際関係でジレンマといえば、皆さんは何を思い浮かべますか。多くの人が、Security Dilemmaを思い浮かべたのではないでしょうか。安全保障のジレンマというやつです。今回はロシアのエネルギー政策分析と通して、別のジレンマについて考えてみましょう。

私は政治経済学を苦手とする人種なので(シンガポールで開発経済をやった時、それだけでちょっと危なかったので)、せっかく触れたものは書き起こしておこう。

かつてソビエト連邦に属していた国々は、未だにロシアと強い関係を持っている。コーカサスの国々(アゼルバイジャン、ジョージア…)や、中央アジアの国々(〜スタンの国々)が良き例だ。一つは、旧ソビエト時代の政治家が政治指導者として行動している場合。二つ目は、パイプラインを通じたエネルギーの共有。ユーラシアの真ん中に位置し、アゼルバイジャンやカザフスタンを含む国々は、大きな産油・ガスの原産地である。ロシアはそれらの国に対してパイプラインの使用権や貿易を通して、未だに強い関わりと持っている。Genté, R. (2022)など。

ユーラシア大陸の反対側には、中国という国がある。強い経済力を以て、中央アジアへの影響を強めていると言われている。軍隊の駐留のような明らかに国家的なものを超えて、民間の警備会社等を通じた警備力の配置などが言われている。Hess, M. (2023)、Sukhankin, S. (2023)など。 アカデミックな文献ではないが、エマージングな分野であることから、参考にする程度は許容されるかと思う。

では、中国の台頭は、ロシアの影響力の低下を意味してきたのだろうか。エネルギー政治を取り巻く環境には、2つの大きな変化があったという。

Skalamera, M. (2022)。一つ目は、中国の台頭。上記に述べたので割愛。二つ目は、石油燃料からグリーン・エネルギーへの転換だ。加えて、ターニングポイントとして、ロシアによるウクライナの侵略がある。前者2つは国際社会全体の変化だが、後者1つはロシアの国家行動である。これにより、EUはロシアに対するエネルギー依存を下げることを決めた。

中国の台頭は中央アジア産油国の貿易先となることを示す。今までロシアに輸出するしかなかったのが、中国経由で売り出せるようになったわけだ。こう見ると、中国は意外と強い力を持っているように見える。

ここで、興味深いジレンマが生じる(とSkalamera 2022は論じる)。EUに対する関係性が下がれば、ガスを買う国である中央アジアの国々と関係を上げねばならないが、これらの国は中国との貿易国である。それはロシアが(ほぼ国家のアイデンティティのように唱えてきた)ユーラシア大陸を一体とした戦略を遂行できなくなることを意味する。

ロシアと旧ソビエト諸国を繋ぐ関係は、いわゆる政治エリートを通じたものがあるために切れないだろう、というのが今の所の分析のようだが、確かにガスの分野で中国が台頭しているのはありそうだなと思う。一昔前はBRIが主だったのが、今度はグリーン・エネルギー分野での投資を進めており、これからの台頭が見込まれる。

一方で、未だにガスや石油は「使わない」ことはできない。そのため、彼らはガスや石油を主に中国に売り、再生可能エネルギーを開発する外資を持ち込もうとする。ここに「エネルギー・パワー」が彼のいう’responsible leadership and renewable resource’に変化し、メディアが変わったことを述べている。

そう思うと、世界システムは多極システムでも機能するのかもしれない。かつてはアメリカがバランスアウトする役割と持っていたのが、今はロシアーEUー中国が三つ巴のようになっていて、ゼロサム的に動いている(リアリスト的な考えだが)。このジレンマの考え方は面白いな、と思ったのだった。

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