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【日記】12月30日

形の良い薄水色に染められた爪が、中身の形に合わせてすごくやりづらそうに包装紙をたたんでいくのをじっと眺めていた。


家を出て階段をぐるぐると降りて行く最中に(8階に住んでいるのだからリフトを使っても許されるような気がするけれど)、外の建物の屋根の上にできた水たまりに丸い模様が浮かんでは消えるのを目の端に止める。きょうはあめがふっている。折り畳み傘を引っ張り出して、マンションのエントランスで開く。乾かしても消えない生臭さがファブリーズでは消えなくなって、香水をふっているのでホワイトリリーの香りが頭上に開く。そこそこお金を出して買った香水が傘の消臭に使われているとは、なんとも馬鹿らしい話だなと思う。身の丈に合わないことをするのは辞めましょう。

今日を逃したらもう行けないことに気がついて、バイトの後にナチュラル系のコスメ屋の路面店に足を伸ばす。バイト先の人が辞めるそうで、ちょっと何か、みたいな。買うものは歩いている間に決めていて、店に入った瞬間にレジに向かう。滞在時間5分強。外は雨が降っている。渋滞の間を縫って横断歩道でもないところを渡る足元で、ヘッドライトに照らされて雨が降る。

冬休みが始まってから、店が開いている日はかなりの確率で働いているらしい。勉強していない時は働いて、もしくは働いていない時は勉強して、浅い眠りと夢を見ている。自分の自由にできるお金を持つことでメンタルを支えて、勉強していることで「将来のために何かしらしている」という実感に縋っている。稼いだお金は片っ端から諸経費に消えているわけだが、そうやって疲れていく自分に酔っているだけなのだと思う。携帯には1学期お疲れ様とクリスマスおめでとうの連絡が醸造されている。もうそろそろアルコール分が含まれる頃合いだ。

バイト先の人に年末飲みに行ったりしますか?みたいなことを聞かれて、いや〜行かないですね〜と言ってから、それが果たして飲みに行きましょうよ!の意味だったのか、飲みに行くのですか、あなたは?の意味だったのか捉えかねたな、と思う。思うものの、どちらにせよ飲みに行かないのでいいか、と自己完結する。クリスマス何しました?と聞かれて勉強してましたね〜と答え、年末年始何するんですか?と聞かれて勉強しますね〜と答える。学生なんで、と付け加えればそれで話が済む。何かしているという実感に縋っていますね〜とは言えない。

一つ何かができるようになれば一つできないことが見つかり、それを乗り越
えることが何かができるようになることである。そうやって無限に続いていく道のりに、どうやったら意味を見出せるのだろうか?と思う。

ついでに薬局に寄る。騙し騙し使っていた化粧下地とファンデーションがもう無い。何も考えずに同じものを手に取り会計に向かう。理由、安いから。呼び止められる。それとそれコンビネーションで買うなら、このリップティントが無料だよ、持っていきな。私が数秒で握りしめたのを見ていたのか。高いコスメは良いような気がするが、使っている人の自尊心が追いつかない。過去の知り合いに数ヶ月ぶりに会うたびに「垢抜けた?」と言われて、その度に私は芋から抜け出すことはないのだろうな、と思う。いつの日か安らかに鏡を覗ける日が来るのだろうか。来ないだろうな。21歳独身女性、運動の習慣なし、スキンケアもヘアケアも最低限。

美味しいオムライスを食べたいな、と思う。ケチャップライスに卵がかかっていて、デミグラスソースの中に浮かんでいるタイプのやつ。2023年は、「今」と「未来」の関係性とその意味について自分の言葉で理解できるようになりたいな、と思う。よくColonise Future、という表現を使うけれど、私はColonise Present, for Futureなのではないかと思っては、イヤな気持ちになるから。

雨の音に変わって、部屋のどこかから水が滴る音がする。多分、窓についた結露が耐えきれなくなって窓辺に滴っている。一年がまた終わる。

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