【🇸🇪スウェーデン日記】#19: 発表会を終えて

コースの終わりに、作品の発表会があった。私たちが作ったものについてみんなで見あって、先生が回っていって一対一で質問していったり、みんなでディスカッションをしていったりするあれだ。午後はサマースクールの他の人もやってきて、さらに色々見る機会になっている。

私は自分の作ったものと、金曜日に街中を走り回って(そして日曜日に足りないページを補填した)コピーを3冊持って展示会場に来た。みんな思い思いのものを作って、持ってきて、先生が始める前に、色々なところで会話が始まった。何にアイデアを得てるの。工夫したところは何？エトセトラ、エトセトラ。

ちなみにみんな最初の1時間で興奮しきって、残りの1時間は比較的静かだった。びっくり疲れしちゃったんだもん。

私がすごく好きだった作品についていくつか。一つは、社会科学専攻オランダ人が作った、移民に対するメディアフレーミングをモチーフにした作品だ。私がすごいなと思ったのは、構想段階から私は彼女の話を聞いていて、彼女は話しながら「こうした方がいいかも」とか「ここはどうしよう」みたいな問題を色々ノートに書き出していたのだけれど、実現した際にはそれらを全て乗り越えていたところだ。紙の上で構想として上がっていたものが文字通り現実になっていて、その力はすごいと思った。クリエイティブなことは実際に現実に持ってくるのが難しいのだ。

もう一つは、危機管理関係専攻ドイツ人が書いた、シリアからハンガリーに移住した彼女の友人の物語である。普通紙に印刷しただけでそこそこの厚みになったそれを最初から最後まで読んだけれど、「ルポルタージュ」を超えて、どのように筆者の声が入ってくるかを見たのが興味深かった。文学だってアートである。

それぞれの学生との一問一答を終えて、社会科学専攻オランダ人と家具修理専攻エストニア人とかとメディアと移民について話しながら駄弁っていた私を、先生がそっと端に呼んだ。マナカ、君の作品は本当に良かった。君が自分の経験について、脆弱なところも含めて明らかにしたところ、それを表現するためにメソドロジーについて色々な資料を読んで構想を膨らませたところ、そしてそれを踏まえてすごい時間と労力をかけて形にしたところの全てに敬意を示したい。I don’t deserve to have a student like you. When I saw your work on Friday, I’ve lost words even without the title page - it’s a meticulous work**.** 私は今日初めてmeticulousという言葉を知った。Meticulous.

先生は後ほどわざわざ戻ってきて、「君が参考にしたAutoethnographyの教科書の先生に送ってみないか、こんな方法もあるんだって見せてみてもいいんじゃないか」というので、恐縮しながら答えを留保したのだった。

ついでに言えばコースの大半の人がわざわざ私のところに来て「いいね、すごいね」と声をかけてくれて、私は多分4年分くらいの称賛を一手に浴びることとなった。

正直私は「いいね！」くらいの反応は得られると思っていたけれど(いいね！が得られなそうなものは私は提出しないから)、そんなに言葉を尽くした表現で称賛されるとは思っていなくて、それがすごく嬉しかった。そうです、私メソドロジーについて色々読んで、色々試してみたんです。メソドロジーと教育学の知識どっちも両輪で理解して、反映させたんです。チャイルディッシュな喜び方だけれど、自分が頑張ったものを評価されるのは嬉しいなあと思う。

他のコースの人と話をしている中で、色々面白いこともあった。私は安全保障に関する理論がここ最近すごく好きなのだが、コペンハーゲン大学から来ている子にそんな話をしていたら、安全保障概念の王みたいな教授の名前を「知ってる？」と上げた。何かと思ったら、彼の授業をとってるという。そうか、コペンハーゲン学派っていうんだから、コペンハーゲン大学にいるよな。シカゴ学派がシカゴ大学だったのと同じじゃないか。そんなビッグ・ネームと同じ時代に生きているのがなんだか信じられなくて、私はしばらく興奮していた。Wait I’ve lost words…

あとは元々メディア・スタディーズを修士でやっていたけれど、2回目の修士で文化人類学(今Anthropologyという単語しか出てこなくてググった、おしまいだ)に転向したポーランド人の話とかを聞いた。私の興味はCollective memory(集合記憶)にあるのだけれど、これは歴史学・社会学・文化人類学・政治学と色々な分野に広がっていて、文化人類学の美術館・博物館研究において集合記憶がビックトピックであることを知っていたので、もしよければ授業で扱った文化人類学のリーディング・リストを見せてくれないかと言ったら、後から送るよと快諾してくれた。ありがて〜〜〜〜〜集合記憶はホロコーストがあった国では研究が進んでいるんですね。

ちなみに安全保障と集合記憶どっちに興味があるんだよと思ったかもしれないけれど、私はontological securityというものに興味がありまして、それは安全保障と集合記憶の関係を紐解く方法の一つなので、同じ物事を違う側面から語っているだけです。

みんな同じ授業をとっていたのに、みんな全然違うものを作ってきた。モビール(モービル？赤ちゃんの頭の上で回ってるやつ)だったり、針金細工だったり、ルポルタージュだったり、漫画だったり、絵だったり、完全な工作だったりした。同時にその多くが、「なんか趣味でやってて〜」とか、「小さい頃やってたことがあって…」みたいなものから着想を得ていて、そういう人間の豊かさみたいな面を重んじるということは、すごく大事なことだと思う。それは就職活動をしていてもそうだし、大学では概ね無視されることだけれど、やっぱりそうであってほしいと思う。というか、私がそうでありたいと思う。

外国に住むということに思いを馳せてみると、それはいつもやっていることだけれど、特に今回の工作をやっていて思ったのは、外国に住むということは、自分という存在が本質化されるということだと思う。言葉の使い方が間違ってるかも。私の中に何があるかだけを握りしめて生きていかないといけなくて、それを強いられる毎日だと思う。私の3年間はそうであったなあと思うとともに、アートというのはそれを捉える方法になるのだなあと学びを得たのだった。

終わってから、カフェでチーズケーキを頼んでぼーっとしながら食べた。ふわふわとした気持ちで、だけど何かに認められたような気がするのは、なかなか自分を認めてやれない私にとって、なんだかやっぱり不思議な気持ちなのだった。だけど、 it’s a meticulous workという言葉を、今年一番嬉しかった言葉ー「他の教授から優秀な学生と聞いていますよ」ーの隣に飾っておこうと思う。