見出し画像

【日記】現実味

帰省という言葉を自分が使う日が来るとはあまり思っていなかったのだが、というのはうちの家族は父方や母方の両親のところに帰省することはなかったので帰省の文化がなかったらしいのだが、とにかく今の私は年に1回東京に帰省するわけであり、今年もその時期がやってきた。帰省って年に1回だろうな〜となんとなく思っていたら、周りの学生たちは意外と頻繁に帰っていたのは知らなかったことにしておこうと思う。帰省って一回するとイギリス生活に戻るのが大変なので。

とある会社の最終面接前セッションみたいなものに行った。海外大生向けにはオンラインでやっているものを、日本の学生と一緒にやるようなものである。一日6回転くらいあるイベントだからある程度の人数なのかと思ったら、1回目で200人くらいいたように思う。そこそこな数の人間を見たボストン・キャリアフォーラムなんてやっぱり大したことなかったんだな、と日本の就職に思いを馳せて恐ろしくなるのだった。「どこからきたの?」と聞かれて「イギリス…デスネェ…人がいっぱいいてびっくりしました…(原文ママ)」となんとなく声が小さくなったのもわかってもらえるだろう。新卒採用ってこんないっぱい人いるんだ。少子高齢化の国なのに、こんなに人いっぱいいるんだ。

でかい試験も受けに行った。大きな会場の後ろの方に座ってカツサンドをもぐもぐ食べながら(私は真っ白な食パンに挟まれたトンカツサンドが好きなのだ、ご馳走みたいだから)、俺はこの国で没個性として生きていくのかなあ、だけどやっぱり、没個性の中で自分のことをよくわかっているくらいの方が楽なのかなあ、とやっぱり特別ではなかった自分と、特別ではなくても全然生きていける社会に思いを馳せたのだった。

かわいいTシャツを何枚か買った。可愛かったから。イギリスにいる時は服を買わないので、冬服が一向に増えない。まあ大学に週5で同じ服で行っても多分誰も気づかないからいいかなあと思うなど。

本屋さんにいっぱい行った。近場のBook Off。神保町の三省堂(改修中で小さくなっていた)。吉祥寺の何か。春日の丸善。神保町の三省堂。新書コーナーを歩いてみるたびに色々と面白そうな本があって、学術書からエッセイまで色々買った。せっかくテキストを持って返ってきたスーツケースを空っぽにしたのに、読みたい本でまたいっぱいになってしまった。またスウェーデンでいっぱい読めるといいなと思う。

歯医者と美容院にも行った。えらい。産婦人科とメンタル・クリニックも行っとこうかと思ったけれど、予約が取れなかったので断念した。あと1年生き延びればまあしばらくは大丈夫でしょう。

あとはなんか推しが歌っているのを動画で見たり(すごく良かった)、本を読んだり、夜更かししたりしたりしていつも通りに過ごしていた。今更になって実家にいる時夜更かしする率が高いなと思ったけど、親との仲がどれだけ良くても(実際私は結構母親と仲が良いと思っているのだが、他の家に生まれたことがないので内情は知らない)、一人で無駄な時間を過ごしたくて夜更かしするんだなあ、と思う。夜更かしばかりしていた高校生の時は気が付かなかったね。

家の周りの不動産情報を見てみる。6万くらいでワンルームを借りられるらしい。6万かあ。家賃は給料の3分の1としても、初任給でどうにかなる程度の金額に思える。それに洗濯機やら冷蔵庫やらを買い足さねばならないわけだが、2年間ホテルの冷蔵庫サイズで乗り切ってきた女としてはまあ安く済ませられるだろうなと思う。思うし、私は転勤が多い仕事につきそうだから、いつ捨てても惜しく無いようなものを買うのだろうなと思う。

そうやって思うと、なんとなく現実が現実味を持って迫ってくるような気がした。イギリスに住んでいる時は大学と家とバイト先を馬鹿のように行き来して生きているが、英語が主言語だからなのか未だに慣れていないのかわからないのだけれど、やっぱりあんまり、人生に現実味がないのである。「恒久平和のために」で有名なカントが、朝晩きっかり決まった時間に散歩をしたので街の人々は歩くカントを見て時計を合わせたという逸話を知っているだろうか。皆さんが思い浮かべるカントがどんな姿をしているか知らないが、「なんか非日常を生きてる人」みたいな感じではなかろうか。国際関係論と国際法理念の始祖に重ね合わせる気はさらさらなくとも、イギリスに生きている時の私はそういう感じである。勉強のことを思い浮かべながら太ったリスとかを片目に生活して、豊かで定年後の理想の哲学者みたいな生活を送っていて、それを気に入りながらも非日常だなあといまだに思っている。それが、19年をともにしこれからもおそらく共にするのであろう国では、ひしひしと痛いほどの現実味を持って迫ってくるのだった。

大学院に進むことと就職についてもずっと考えていた。考えていたけど答えは出なくて、その一因は不確定要素が多いことにもあって、もうちょっと気長に考えてやるかとまたあと伸ばしにしたのだった。そんなあと伸ばしにして大丈夫?だめで〜〜す。

そんなこんなで最初の一週間を試験勉強に費やし、残りの一週間で遊んで、また最果ての地イギリスに戻ったのだった。イギリスにとってのFar Eastは日本にとってのFar Westだからな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?