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【今日の論文】'How Japan matters in the evolving East Asian security order' (Goh 2011)

この論文の話をしています:Goh, E. (2011). 'How Japan matters in the evolving East Asian security order', International Affairs, 87 (4), pp. 887-90.


北東アジアの安全保障というのは(東アジアというのは狭義では日中韓・香港台湾あたりだが、広義では南東アジア、ASEAN諸国を含むことになるので)、安全保障研究において興味深いトピックである(らしい)。「である」とか言っているが、私のリーディングには限界があるので違ったら許してほしい。

軍事力を増強する中国、冷戦が冷戦のまま残った朝鮮半島、防衛費が増える日本、台湾有事の危険性、米国の圧倒的存在感。もっと同盟してもおかしくない国々が、未だに紛争を抱えている地域。そんな中で、日本は地域の安全保障にどのような役割を持っているのか?という論文だ。

Gohは東アジアの安全保障において、バーゲニングの概念を使いながら、日本が国際公共財(public goods)の提供を通して貢献していると論じている。そこには3つの要素があって、
①アメリカの地域の中での優位性を保証する
②中国を国際社会に表出させる
③地域協力体制を構築する
というものである。

①については、日本は軍事費とか基地建設とかを肩代わりすることで(支払うことで)、日本国の防衛だけではなく、東アジア全体の安全保障を担保しているというものである。沖縄をはじめとする日本国内の基地を支えることを「公共財のために支払う」という概念で説明されたことはなかったので、なるほど一つの考え方かもしれないと思った。新しい視点を獲得した。だからと言って無条件に正当化されるわけではないと思うのはもちろんだけれど。

②については、国際規範を守らないときに改善を求めることと、開発支援等を使った飴と鞭みたいな関わり方である。これはそうかな?とも思ったが、socialise Chinaという形で「中国に何かを教える」という説明の立て方をしていて、これはいわゆる西側諸国が第三世界での国際開発等において使ってきた、「正常化させる・より進んだ国が正しいものを教える」というような視点をそのままアジアに当てはめたようで、根本的な見方のところが納得できないなと思った。これは個人の信条の問題だと思う。私はCritical theoryなどに引っ張られた教育を(UCLで)受けたので、批判的に見たくなってしまう部分があると思う。

③については、ふ〜んという感じだと思う。地域メカニズムを通して日中がお互いの力を誇示しようとしていて、それだとちゃんと機能しないよね、ということが述べられていて、なるほどと思うと同時に、リベラリズム的な仮定と(経済協力等の関係は安全保障に表出する)とリアリズム的な仮定(国家は国際社会のアナーキーの中で戦い続ける)が併存する論文だと思った。

2011年に発行されたということで、論文の末尾は東日本大震災が日本政治に与える影響を検討する示唆で終わっている。ちゃんと調べたことないけど、定期的に起こる災害がなければ、日本はより大きい国に成長する可能性があったのだろうか?(疑問)


ちなみにGoh氏はみんな大好きコペンハーゲン学派のBarry Buzanと一緒に歴史問題と現代性(modernity)を分析するチャプターを書いていて、これは東西の分断とか歴史問題の定義自体を考えるのに面白かった。
Barry, B., and Goh, E. (2020). 'Confronting the China–Japan History Problem in Northeast Asia', in Rethinking Sino-Japanese Alienation: History Problems and Historical Opportunities, pp.55-72.
この感想文もまた書こうね。

あとPolitics of East Asiaの先生はもうちょっと新しい論文をリーディングリストに入れてもいいんじゃないかと思う。知らんけど。まあ新しい論文はこっちで勝手に読むから、むしろ古いのをあげておいてくれたほうがいいのかもしれない。それが教育か。




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