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【日記】鯖を焼いた

大学帰り、夕方のスーパーで恒例行事・割引品の黄色いバーコード探しをしていたら、普段は素通りするサーモン加工品とエビ加工品の棚の真ん中に、見慣れたような見慣れないような魚のパックがあった。A mackerel。なんだよと思いパッケージを裏返してみたら見慣れた皮の模様。鯖だ。私の海産物ボキャブラリーが一つ増えた。

鯖の塩漬け。3切れで£4.4。3切れと言っても小さめの鯖の三枚おろしセットみたいな感じで、1人で食べるのにちょうどいいサイズが3切れ。

ちょうど昨日お米炊いたしな。今朝味噌汁鍋いっぱいに作ったしな。まあ、せっかくだし。£4.4で3食食べられたら、まあ安い方だろう。そう思って、カゴに入れた。

魚ってどうやって焼くのがいいんだろう。バイト先で野菜の美味しい炒め方は習ったが、焼き魚の美味しい焼き方は習わなかった。フライパンに油を引いて身を広げる。ばちばちいうので、コンロの掃除が面倒だな、と思って蓋をする。しばらくしたら裏返して、もうちょっと焼いて、最後に皮目をパリッとさせる(どこかでそうした方がいいみたいなのを読んだ)。
片手で鍋を火にかけて、白米をレンジに突っ込んで、野菜を器に盛る。普段はキッチンで適当に食べるが、今日はワンルームを3mくらい移動して机にランチョンマットを引いた。そんなことをしている間に鯖が焼ける。油がすごく出た。部屋が焼き魚臭くなった。窓を開ける。

今日の献立。晩御飯、焼き魚、白米(昨日炊いた)、豆腐の味噌汁(今朝爆速で作った)、申し訳程度のレタス(チョレギドレッシングを添えて)。先週からなんか割引になっていたカット野菜とエッグヌードルを適当に炒め合わせた美味しくも不味くもないものを夕食に食べていたので、だいぶ良くなった。

食べている時には美味しいのに、終わった後にはなんだか、お腹をいっぱいにするだけでこんなに色々するの、大変だなあ、と思う。


食事が面倒くさい。お腹が空いている時は料理する気にならないし、お腹が空いていない時に娯楽のように料理をしては、なんだか冷蔵庫がいっぱいで嫌だなあ、と思う。そう思う一方で、今まで体調を壊してきた時には大抵その前に終わった食生活があるというパターンを繰り返してきたので、バランスがよく活動のためのカロリーが賄える食事を取る。というか、取らざるを得ない。

だけど、食べること自体は好きなのだ。好きなのだけれど、食べすぎると太るし、あとお金もかかるし、考えることが多くてげんなりする。食べる喜びは刹那的な上に、その刹那ですらも他の感情に邪魔されている。


人の学部の図書館に入り浸っている。メインキャンパスから離れたところにあるその建物は、こじんまりしていて、トイレが地下にしかないのが唯一の欠点だけど、広くて綺麗なトイレだし、まあ。自分の学部の図書館も温かくて心地よくてそこそこ空いているから好きなのだけれど、この図書館には日の差し込む食堂がある。うちの学部には昔地下にパブがあったらしいが、今は封鎖されている。とにかく私のお気に入りの図書館には食堂があって、オックスブリッジの面影を残すような、木の机とベンチ型に繋がった椅子が置かれたこじんまりした食堂で、お昼時になるとランチを売る。

普段、外食をしない。高校生まで実家の庇護下にいて、大学生になって突然外国に来たから、生活がよくわかっていないような気がする。外食するのは人といるとき、みたいな固定観念があって、1人で何かを食べに行くことはない。

先学期は大学にお昼ご飯を持っていこうと思ってお弁当チャレンジをしていたのだけれど、やっぱり別にお弁当って冷たくて美味しくないし、手間だけかかるしお腹いっぱいにならないので辞めた。お昼は食べないか、割引されたサンドイッチを買っておく。

が、学食があるなら学食で食べてもいいのかもしれないな、と、私は大学にきて3年目にして初めて思ったのだ。食堂があることに気がついたわけだし。

いちにちめ。チキンカレー。あの…このチキンカレー?っていうのを買いたくて…とレーンの向こう側のおばさんに言ったら、そこのトレーを持って!はい一丁あがり!みたいな感じでチキンカレーが出てきた。東南アジア風のお米に、温野菜を添えて、その上にカレールーをかけて、チキンカツを乗せる。£5.8。私の時給30分弱で、30分の休息を買った。薄っぺらい食堂のトレーとカトラリーが、シンガポールの学食を彷彿とさせてなんだか懐かしかった。口座に自分が稼いだお金がそこそこ潤沢に入っていて、気軽にホイホイお金を出して便利さを変える1ヶ月を送ったのはすごく素敵だった。

1週間経って、2回目。チキンのシチューというのと、インゲン豆のガーリック炒めの2種類がある。この…チキンのシチュー?っていうのを買いたくて…と同じおばさんに言ったら、「ほら、野菜たっぷりよ!」と、黒い眉毛をしっかり書いた彼女が笑った。ふかしジャガイモ、私はさつまいもの一種なんじゃないかと思ったがとにかく芋、インゲン豆、ニンジンとチキンのシチュー。£5.8。

「外食して美味しい!」という感じじゃなくて、どちらかといえば「そこにあるのが当たり前」みたいな感じの美味しさで、もうちょっと言えば実家での夕食に普段とは違うものが出てきてナニコレ…?と思いつつ食べてみたら美味しかった時の、そういう感じの美味しさ。

£5.8で一食食べられるというのはロンドンにおいては破格なのだけれど(友達と晩御飯を食べる時は結局£20くらいしている)、£5.8で安寧を買うのはいいのかなあ、と思った。


生きる意味ってなんだろうね、と問うた時に、「美味しいものを食べることだと決めたよ」と言った友人がいた。私は彼に同意しかねるが、いや別にそれは個人ごとに異なるのが当然なのだからそこにはなんの含意もないのだが、同時に生きるのって難しいなあ、と思う。


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