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【日記】今ここで院進したい気がする #3

どこかで焚き火のはぜるような音がすると思ったら、それは横に置いたエナジードリンクの缶の中で微炭酸が弾ける音だった。それほどに静かな夜だ。まあ、朝の3時半なので。シリーズ#3まで来ちゃった。


「院に行った時、いつ出願しました?」と、隣で賄いを食べていた年上の後輩に聞く。スマホを忙しそうにいじっていた彼女は、丁寧に画面を伏せて正面の棚において、私に向き直った。ごめん、そこまで煩わせるつもりじゃなかったんだ。「オックスブリッジに出すなら推薦書いっぱいいるから早めがいいです」意訳。「3枚いるもんね」。お礼に日本でインターンを探すのに便利なサイトを教える。トリリンガルで可愛くて背の高い彼女。

「院に行きたい気がすんだよね」、と友人に漏らしてみた。鉄板の上で玉ねぎが焼けているか丹念に確認していた彼女は、「だってあんた、内定出てるじゃん」と言った。意訳。「やーそうなんだけどね、だけど今行きたいじゃん、愚問だけどどう思う?- it’s a silly question but what do you think?. 一回就職したら、大学という場所とか体系に戻ってくるのは大変だと思う。だけど、就職して戻ってきた時に推薦状が強くなったりすることもあると思う。まともなことをおっしゃる。「なんかさ、上を目指し続けるのに疲れちゃった気がしない?」「すごいわかる」わかるのか。サックスとデロイトとBCGの話が主眼に上がるのに? だけどさー、その分野で有名な教授とかのスーパービジョンでマスターやるならさ、別に大学は上を狙わなくてもいいんじゃないの、とこれまたお手本みたいな返事が返ってきた。お手本なやつめ。

「なんか、院に行きたい気がするっすね」、と先輩に漏らした。何勉強したいんだっけ?歴史認識と教科書問題とか。地域とトピックまで決まってて、むしろなんで今就活する必要があるわけ?私、いつも生き急いでるんです。馬鹿みたいに。本当は卒業して就職して500万円貯めようと思ってたんだけど、貯まるまで、10年くらいかかると思いませんか?じゃあやっぱり奨学金取った方がいいのかな、って。まなかちゃん、腹はいつか括らないといけないんだよ、と先輩が地中海の、ガーリックで味付けされた美味しいチーズを一つ、食べてよと私に渡しながら笑った。

「ちょっとお門違いなんですけど、院に行きたいような気がしてて」、と先生に漏らした。リサーチ系に興味があるなら、最初からMResにいくのもありかも。ちゃんとプロポーザル書かないと行けないけど、自分の興味のあることできるよ。MResやった教授が他にもいるから聞いてみな、と紹介された先生がConcepts of Securityの怖い教授だったので閉口した。猫が好きで頭の禿げ上がった怖くて優しい教授。優しくないアカデミア。

「院に行きたいって思ったことあります?」と、横でグラスを拭いていたバイト先の社会人の先輩に聞いてみる。「私が、行きたいと、思ったか?」そうそう。「いや、ないね。もう勉強は大学の勉強で十分だと思った」あ〜なるほど、いや、院に行きたいか考えてて、院に行かない人はなんで行かないのか知りたいなって思ったんです。「院に行った友達もたくさんいるけど、分野と大学は考えてんの?」分野と研究テーマは決まってて、この学部がいいな、って言うのが4校くらい。「今やりたいかだよね〜〜、あとからやることもできるわけだし、あなたがやりたいかどうかだよ、やっぱり」そうっすよね、ありがとうございます。突然そんなこと聞いたのに真面目に答えてくれてありがとうございます。


好きなものを好きなままで追い続けられる人と、好きなものを好きなものであると言語化し続けられる人は、だから優秀なのだと思う。大学院に、就職できる人がすごいんじゃなくて、すごいからできるんだ。私みたいな人間は、好きなものが漠然とあるような気持ちになりながら、もしくは求めたいものが漠然とあるような気持ちになりながら、それを言語化するのは面倒で、もしくは怖くて、まあいっかの結果に落ち着くんじゃないかと思う。それはそれでいいと思うのだ。だけど、そうやって追いかけ続けられる人っていうのは、追いかけ続けられるからすごいのであって、すごいから追いかけ続けられるんじゃないんだな、と思って、私はそれに憧れを捨てきれないのかもしれない。

なんか生き急いでいるな、と思う。外国の大学院に行くんじゃなくて、外国の大学に学士号を取りに行った。別に一回就職して、辞めて院行って、研究職みたいなのにつけばいいんじゃないかな、と思う。あと、2年間までなら休職して院に行けたり(ただしその間健康保険料を払わないと行けないのでコストはえぐいらしい)、パートタイムでも院にはいけるみたいな話も教えてもらった。だけど、いつ死ぬかわからないしなあ、とも思う。あーあ、卒論のプロポーザル全然書きおわんないです。目の前の課題が片付かないのに将来に付いてウジウジ悩むのが、一番非効率的らしいですね(自論)。


そんなことを書いている間にも私の右端では焚き火がはぜていて、いやこんなくだらない文章を書くためにカフェインを摂取しているのではなくて何かの合間に書いているのだけれど、早く春が来ないかなあと思うのだった。4月に村上春樹の長編が出るらしいですね。焚き火をぐっと飲み干す。

(2023/03/17追記)


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