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第18回ショパンコンクール予選:沢田蒼梧さん(日本時間10/4(月)4:00)

ショパンコンクール予選の演奏順は、アルファベット順なのは変わりませんが、どのアルファベットから始めるかを抽選で決めます。今回はMからとなりました。

日本人のトップバッターは沢田蒼梧さん (Sohgo Sawada)です。

☆ バラード ニ短調 Op. 23

「ソナタ=アレグロ形式」つまりソナタの第1楽章の形式にほぼ則っている。7小節半の序奏ののち、Moderatoの部分(第8小節以降)が3拍子の舞曲風リズムと倚音付きの分散和音による第1主題、Meno mosso部(第68小節以降)が幅広い音域に渡って朗々と謳われる明るい第2主題、a tempo(第94小節)によって展開部に入り、再現部(第166小節)は第2主題から回帰が始まる。Meno mosso による第1主題(第194小節)はごく簡潔に、コーダへのブリッジ程度に現われる。コーダ(第208小節以降)はPresto con fuocoが指定され、短い動機が切迫するように繰り返されたのち、ピアノの鍵盤の幅いっぱいを使った壮大なパッセージワークで幕を閉じる。こうしてみると、ショパンはこの作品において、物語の枠組みを――文学上のジャンルよりもむしろ――伝統的な音楽の形式に借りたということができる。

☆ノクターン 変ホ長調 Op. 27 no 2

この曲は、ショパンが唯一ロンド風(A, B, A’, B’, A’’, B’’, Coda)の形式で書いたノクターンで、AとBの2つの主題が交互に3度繰り返されるという構造をもつ。Aの甘美な旋律と全体の優美な曲想ゆえに、作品9-2(2番)や作品15-2(5番)と並んで、演奏される機会の多い曲である。第2番も第1番同様に、左手には曲全体を通して、フィールドが好んで用いた、大きな跳躍を含む分散和音の伴奏型が用いられている。A(A’, A’’)は常に変イ長調で現れる。A’(第26小節~)とA’’(第46小節~)はAとほぼ変わらないが、その都度、右手の単旋律に装飾的変化が加えられている。例えば、A’ではピアノという楽器でこそ可能な速いパッセージ(m. 32)や、A’’では非和声音をふんだんに盛り込んだ即興的なパッセージ(第51~52小節)が挙げられる。このように、回数を重ねるごとに装飾の使用程度は高くなり、それに比例して高音のきらめきが際立つ。これらの装飾音は、ダンパー・ペダルを踏みっぱなしにしても高音部は濁ることなく、むしろ透明で輝きのある音響が得られた当時の楽器の特性を十分に考慮して作曲されている。Bでは、Aの単旋律の主題に対し、3度や6度といった重音からなるもう1つの主題が現れる。第10小節に始まるBでは、転調による気分の高揚に合わせて音量が増すと、その音程はオクターヴにまで拡大される(第18小節)。最終的には、fzや左手バス声部のアクセントが手伝って、B’の第 42~45小節でクライマックスを迎える。続くA’’へはAの再現として主題に静かに戻るのではなく、ffのままA主題が回帰し、直前の曲想はしばらく保たれる。主題Aのこの再現法は、作品32-2(10番)にも見られる。そして、このノクターンで特に注目したいのは、異名同音の使用である。例えば、第24小節では右手のcisをdesと読み替えることで、変イ長調のA’への移行をスムーズにしている。また第34小節では、前の小節の右手のdesをcisと読み替え、変イ長調からイ長調への瞬時の遠隔転調を可能にしている。こうした移ろいゆく調性は、鍵盤上で即興的に手を動かす過程で見出されたものであろう。

☆エチュード・イン・Gシャープマイナー Op.25 no 6

右手の三度の重音によるトリルおよび半音階が課題。ショパンは、自らのピアノ作品で、革新的な運指法を生み出しており、この作品にも、以下のようなそれらの特色が見られる。
1.三度の重音による半音階で、同じ指を滑らせて演奏する奏法
2.指の飛び越しや交叉
これらの奏法を取り入れていることにより、ショパンはこの作品でレガートを美しく演奏する可能性を広げていると考えられる。2の指の飛び越しや交叉といった技術には、手首の高さの微妙な調整や、手首や肘の柔軟性が求められるだろう。右手が華麗な装飾的音型を奏でる一方で、左手が、円を描くような伴奏音型に続いて、下行する三和音でため息の音型を奏でることにより、不安感が高められる。

☆エチュード・イン・Cシャープマイナー Op. 10 no 4

1832年8月作曲。第3番が中間部を除き穏やかで美しい旋律に支配されている一方で、第4番は激しく情熱的である。冒頭のアウフタクトは属和音から始まり、1小節目1拍目で主和音に解決してから紡ぎだされている。正確な打鍵による16分音符のパッセージワークの練習。短い動機が音度や調を変え、転回される、「紡ぎだしFortspinnung」という手法で作曲されている。これは、バッハが活躍したバロックの時代に頻繁に用いられた手法である。例えば、冒頭の1~2小節で登場する右手の16分音符による細かい音型とそれに続く跳躍音型(3小節目)は、5~7小節目で左手によって音度を変えて繰り返される。

Mazurek G-dur op. 50 nr 1  /  Mazurka in G major, Op. 50 No. 1 (01:46:30)
Mazurek cismoll op. 50 nr 3  /  Mazurka in C sharp minor, Op. 50 No. 3 (01:48:58)
Etiuda Ges-dur op. 10 nr 5  /  Etude in G flat major, Op. 10 No. 5 (01:54:32)
Etiuda h-moll op. 25 nr 10  /  Etude in B minor, Op. 25 No. 10 (01:56:15)
Nokturn Desdur op. 27 nr 2  /  Nocturne in D flat major, Op. 27 No. 2 (02:01:20)
Ballada g-moll op. 23  /  Ballade in G minor, Op. 23 (02:07:15)

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