ガロアのアイリッシュ特集と、ジャパニーズウイスキーの法制化…
アイルランドから帰って、ちょうど2週間。あまりの暑さと時差ボケで体がシンドイことになっているが、さすがに2週間留守していると仕事が天文学的に増えていて、その処理に10日ほどかかってしまった。ようやく、段取りもついたところで、この土日は検定の問題作りと、次号ガロア(9月12日発売号)の巻頭のアイリッシュの原稿を書き始めることに。
今回アイルランドで取材した蒸留所は計16ヵ所。それを3回に分けガロアで紹介したいと思っているが、北アイルランドのベルファストからスタートしたこともあり、第1回はベルファスト、タイタニック、ヒンチ、コープランド、ショートクロス(レイデモン)、そしてブッシュミルズ、コーズウェイの7ヵ所。それぞれの蒸留所を順番に紹介する前に、まずはアイリッシュウイスキーの全体像、マーケットにおけるそのポジション、近年の輸出増の要因、そして新しく導入されるレギュレーションについて、6ページくらいで書こうと思っている。
特にレギュレーションについてはIWA(アイリッシュウイスキーアソシエーション、アイリッシュウイスキー協会)の技術者部会がその要望を取りまとめ、現在それを統括する関係機関に要望書という形で提案している。グレートノーザン蒸留所で、アイリッシュ復興の主役者となったジョン・ティーリングさんに6年ぶりにお会いし、その話も聞いてきた。IWAの技術者部会の長で、今回そのプロポーザルをまとめたのが、パワーズコート蒸留所のマスタブレンダーで所長のノエル・スウィニー氏。元クーリー蒸留所の所長で、ジョンさんの盟友、右腕だった人物だ。私もクーリーとパワーズコートで、何回か会っている。歳はたしか私と同じ70歳だったはずだ。
従来、私たちはコニサーの教本などで、アイリッシュのポットスチルウイスキーについて、穀物の混合比率は大麦と大麦麦芽がそれぞれ全体の30%以上、ライ麦、小麦、オーツ麦、その他の穀物は全体の5%未満と書いてきたが、数年前の改定版から、その記述をやめてきた。キルオーウェンやブラックウォーターなどの取材をしている時に、IWAの変更の可能性について、話を聞いていたからだ。
今回、ジョンさんを取材して分かったことは、IWAの提案書はそれを30%まで引き上げているという。つまり大麦、大麦麦芽がそれぞれ30%以上で、その他の穀物は合計して30%未満というのが骨子なのだという。アイリッシュウイスキーはスコッチと違って非常に複雑だ。第一にスコッチがスコットランドという1つの国(地方)で造られているのに対し、アイリッシュはアイルランド共和国と、UKの一員である北アイルランドの2つの国にまたがっていること。どちらの国で造られても、アイルランド島で造られていれば、それはアイリッシュウイスキーとなる。
しかし、いざIWAがテクニカルファイルで新たな提案をしようとなると、2つの国の官庁にそれを提出し、そこで承認を得ないと成立しない。つまり、先の提案が決定されるためには、アイルランド共和国の農水省と、イギリスの同様の関係省庁の承認を得ないというわけだ。ジョンさんによると、2024年から2025年までに、そのプロポーザルは承認され、正式にアイリッシュのポットスチルウイスキーは、ライ麦、小麦、オーツ麦などが30%まで使えるというわけだ。
アイリッシュのテクニカルファイルの原文を読み解くと同時に、並行して現在取り組んでいる、ジャパニーズウイスキーの製造基準の法制化についても、いろいろと考えている。そもそも日本にはスコッチのSWA、アイリッシュのIWAのような組織がないが、私たちがつくった(一社)日本ウイスキー文化振興協会(JWPC)が、その役目を少しでも担えたらと思っている。8月1日は正式にホームページも開設し、運営資金としてクラウドファンディングも始める。なぜならば、私たちは生産者の団体ではなく、あくまでもジャパニーズウイスキーを応援する、愛好家の団体だからだ。
と同時に、そうであるならば、日本洋酒酒造組合のレギュレーションをもう一度見直してもいいのではないかとも思っている。もちろん私たちが決めることではないが、もう一度、一石を投じ、ジャパニーズウイスキーの未来を考えてもよいのではないか。そのための団体でありたいと思っているからで、詳細については、年内にも意見書という形で、取りまとめたい。それよりも何よりも、法制化を急ぐ必要があるのだが、私一人ではどうしようもない。多くの人の力を借りたいと思っている今日この頃である。
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