『ドライブ・マイ・カー』は『コーダ あいのうた』より劣るのか?
米アカデミー賞の結果が発表になりました。
残念ながら『ドライブ・マイ・カー』は作品賞受賞を逃し、『コーダ あいのうた』が受賞。
『ドライブ・マイ・カー』は国際長編映画賞を受賞。『おくりびと』以来の13年ぶりとのこと。
この結果を、「13年ぶりの快挙」とか報道しているメディアもありましたが、私としては、「やっと、映画芸術科学アカデミーはこういう作品をちゃんと評価できるようになったのか・・・」という思いでしたね。
偉そうな物言いですが。
それはさておき、作品賞の話です。
僕自身、ほぼ毎回作品賞の予想は外れています。
自分の好みと一致していないというのもあるんですが、客観的に「作品の質」という点で評価しても、疑問が残ることが多いです。
今回に関しては、『コーダ…』が受賞するだろうな・・・と予想していましたが、珍しく当たりました。
『コーダ…』が一番優れた作品だから――というわけではありません。
映画評論家の町山智浩さんが、この作品が受賞するだろうと予想されていましたが、理由として「米アカデミー賞は、多数決で決まるから、尖った作品よりも、誰にも嫌われない作品が受賞しやすいから」と仰っていました。
たしかに、そういう視点で見ると、『コーダ…』は文句のつけようがない良い話だし、映画作品としても良くできているので、「まあ、この作品が取るのが妥当だろうな」と考えていました。
ただ、逆に言うと、本作は「無難な映画」とも言えると思います。
自分以外は全員ろう者という家族を持つ「健常者」の少女が、逆境に負けずに夢を叶える――という王道のストーリーですが、ろう者を「障害を持ったかわいそうな人」とも「虐げられた善人」とも描かず、日々を明るく楽しく生きている(ちょっと変わった)人たちとして描いています。
助演男優賞を受賞した、父親役のトロイ・コッツァーは実際聴覚障がい者ですが、演技は素晴らしく、受賞にはふさわしいと思います。
それはさておき、『コーダ…』は、既存の類似映画とはちょっと違った描かれ方はされているものの、フランス映画『エール!』のリメイクですし、やはり王道路線からは外れていません。
一方の『ドライブ・マイ・カー』ですが、作品の質としては『コーダ…』より上だと思いますし、これまでなかった表現を創造しえているという点でも、高く評価されるべきだと思います。
全作を見たわけではないですが、これまで観た作品賞ノミネート作品の中でも、『ドライブ・マイ・カー』は一番優れた作品だと思っています。
(僕が日本人だから贔屓しているということは全くなく、中立的に見てそう思っている)
たしかに、『DUNE/デューン 砂の惑星』や『ウエスト・サイド・ストーリー』の細かく作り込まれた映像と比べると見劣りするところはありますが、作品世界の深さは圧倒的だと思います。
ただ、『ドライブ・マイ・カー』はハイコンテクスト過ぎて、米アカデミー賞にはちょっと向かないかな・・・というのがあって、「作品賞は多分逃すだろう」と予想していました。
受賞できなかった理由は、他にもいくつか思い当たりますけど、米アカデミー賞向けでない作品がここまで行ったこと自体凄いと思うし、米アカデミー賞もだいぶ変わってきた(良い方向に)ということを実感させられました。
まあ、僕としては米アカデミー賞は取らなくても、優れた作品は優れた作品なので、そこはちゃんと評価してあげれば十分だと思っています。
にしても、ウィル・スミスの平手打ちが一番話題になる今年の米アカデミー賞って・・・(以下省略)
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