ミュージカル「魍魎の匣」を観てきました

京極夏彦×板垣氏演出×小西遼生主演

という私トク以外の何物でも無いミュージカルが上演されてしまいまして、有楽町のハコに通っておりました。

情報解禁された時に白目剥いて叫んだよねw

予想以上に没頭できる作品になってて嬉しかったわ~!

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魍魎の匣のあらすじは有名すぎるほど有名なので割愛。ネタバレも気にせず感想を書いていこうと思いますわん。

オープニング、ミステリアスなヴァイオリンの音色で幕が開き、キャスト全員が揃ってコーラス。

ここでなんとなく「韓国ミュージカルっぽい」と感じたんですけど、全編通して観てもその印象は変わりませんでした。

壮大な話をかいつまんで進め、ラストの謎解きと昂ぶりはじっくり観せる感じね。

曲は耳馴染みの良いポップス調のものが多かった。もうね、すごい耳に残る(笑)

昭和27年という時代も反映されてるのでしょう、どこか懐かしさのある曲が多かったです。

雑誌記者・鳥口が歌う「バラバラ殺人ソング」はあまりに明るく楽しくて、最初は面食らったけどw

でも、陰惨な事件を、好奇心を刺激する「ネタ」として扱う下世話さが感じられて良かった。

鳥口を女の子(大川永さん・めっちゃ良かった!だいすき)が演じてることで、女学生が噂話してるような雰囲気も足され、作品全体に明るさをもたらしていたように思います。

劇団公演ならではなのか、コーラスの一体感はもう見事。すっごく気持ちよく聞けました!

そこもホント、韓ミュっぽい。

謎解きを歌にのせるとこが似てるのか、さとしさんと一路さんのシャーロック・ホームズが観たくなったな~。


曲調に戸惑いを感じた(最初だけだけど)のはバラバラソングだけで、他は内容とリンクした曲調が多かったですね。

基本的に歌謡曲っぽいんだけど印象に残る曲が本当に多くて・・・キーポイントのひとつである祝詞

♪モシイタムトコロアラバ~コノアシノウツボナル~
シンピノオンバコヲシテ~
ソテナテイリサニ タチスイイメコロシテマス
シフルユルユラ ユラシフルフル

これなんてもう、2回め観劇の頃には歌えたよね(笑)

北村諒さん演じる榎木津のテーマも、最初聴いた時に「ピンキーとキラーズ(古すぎるがついてこい)かよ!」と思いつつすぐ覚えたw

あと、原作では京極堂の妹君、敦子(宮田佳奈さん)が取材で拾い集めてくる、手袋をして桐箱を持った正装の男の噂。それを童謡のような歌にしてるんだけど、あれも良かった~

短い中に不気味さとヒントが隠されていて秀逸。コーラスもキレイでした!

私の愛する小西遼生さん演じる、京極堂こと中禅寺秋彦が歌う曲もバラエティに富んで、遼生さんの美声が堪能できて嬉しかったわん。

特に終盤は、台詞も歌も多くそのすべてが展開を理解するのに必要なので、観てるこっちも気が張っちゃう。

終演後はもれなく甘いものが欲しくなり、切れると頭痛がするくらいだったわw

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それにしてもあの膨大な情報量の原作を、よく3時間ほどのミュージカルに仕上げたものですよ・・・。

感心するのは、説明する場面や人が原作とは違うところがあるんですけど、破綻してないんですよね。本当に巧くはめ込んであって、分かりやすくなってました。

脚本・演出の板垣さんはじめ、スタッフの皆さまも本当にお疲れさまでした。楽しませていただきました!


ことの始まりは頼子の衝動的な行為。

近づきがたい存在として皆から遠巻きにされていた加菜子と親しくなり、みすぼらしく惨めな現実から逃避できる場を得た頼子には、加菜子はフツーの女子であってはならなかった。

ってところがミュージカルでは端折られてたけど、冒頭のちょっとのシーンで加菜子の神秘性も表現されてました。

まぁ頼子は事件を起こさなくても、いずれ加菜子と自分との違いを痛烈に突きつけられる日が来たよね。

もしそうなら、ある意味ではもっと悲惨なことになったかもしれない。

14歳っていちばん、心に毒が回りやすい時期でもある。京極堂いうところの「通り物」にあたってしまった結果だけど、代償は大きすぎました。


頼子を演じたのは熊谷彩春さん。私、今期のレミゼは全部彼女のコゼットだったんで、なんか勝手に親しみを感じたわ(笑)

表現の難しい役だけど表情や声色の変化が見事でした。美しいソプラノもステキでしたーん。

加菜子役の徳岡明さんは、小柄で最初に出てきた時「ん」と思った。が、しかし声を聴いて納得。カリスマ性のある美しい加菜子がしっくりきましたよ!

台詞は多くなく、印象的なのは匣娘になってから唯一発せられる「ほ~お~ぉぅ」の旋律。

いやーあれゾクゾクするよね~(震)

あと、加菜子がどう処置されていたのか、が明らかにされるシーンでの動きがとても良かった。マリオネットぽくて好き。徳岡さんの小柄さが活きて、ああ本当にハコに入ってしまいそう、と思ったわ。

逆に久保役の加藤将さんは大きすぎて、「いやあのハコに入らんだろ」って思ったけどw

加藤さんが歌う「久保竣公作・匣の中の娘」の曲は、おだやかで美しく、荘厳な中に寂しさが漂う曲でこれまた耳に残りました。


その匣娘ですけどね、頭部と胸だけでハコに入った少女を、舞台でどう表現するんだろと思ってました。とても演劇的な表現でしたね。

久保が列車の中で出会う加菜子は、強い光と背後に立つ徳岡さんで表現されててステキだったわん。

青木刑事がハコに詰められた頼子を発見するシーンはめっちゃ怖かった・・・でも頼子のは原作を知らないとちょっと分かりにくかったかも?

とはいえ、苦悶の表情のまま、みっしりとハコに詰められている女の子なんて写実的には見たくないですけどね・・・

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(ときに、プログラムの容れ物のイラストは京極夏彦先生の画なんですね・・・グラフィックデザイナーだったというのは聞いたことがありましたが、絵もお描きになるとは。多才すぎる)


池岡亮介さん演じる青木刑事は現代的な若者って感じ。巧かったですね池岡さんも!声がすごくイイ。好きな声。

前半の登場シーンがコミカル(ナゾ♪ナゾ♪)で印象に残るけど、総量で考えるとシリアスな芝居の方が多かったよね。

動きにもキレがあっていかにも若手刑事っぽかった。

そういえば青木刑事が発見することになる、久保の部屋に寄せ木細工のようにみっっしりと積み上がった桐箱は、マッピングで見せて欲しかったわ。

マッピングはちょっと、こちらの期待が大きかったなという印象でした。シャーロック・ホームズで観たような、動きの大きいダイナミックなのを期待しちゃってたんで。

動かない白いセットに、コンクリートの質感を表す影や台詞中の漢字を投影するだけだったのはちょっと物足りなかった。

久保の原稿も、誘拐予告状みたいに見せてくれたら怖さが増したのに~と(無責任に)思ってる。

予算や製作期間の問題もあるでしょうけれどね。

あとね、「深秘の御筥」が「神秘の御筥」になってるとこがあって・・・そこはこだわって欲しかったw


久保にしても頼子にしても、条件が整ってしまったがために境界を越えた。心に闇を抱えていても、「その瞬間」が訪れない限り犯罪は起きないもの。

自分たちだっていつ何時、境界を越えて向こう側へ行ってしまうか分からない。

境界は身近なところに思いがけない顔をして存在し、好奇心や執着や、嫉妬といったものとともに、私たちが足を踏み入れるのを待っている。

本当に怖いのはそこだよね。


怖いといえば喫茶店で久保と出会った後の、榎木津のセリフは怖い。

「君の友人はかなり変わってるね・・・マタギ料理でもするの?それともアステカの神官か?」

ハイつまり「何か生きものを解体している」ところが見えているわけだよね~それが少女だとは見えなくても。

怖い~こわいね~(身震


木場修太郎の吉田雄さんは無骨な日本男児が板についてましたね。

ビジュアルだけ観た時は「迫力不足?」と思いましたが(榎木津と関口も)、実際観るとズシンと重みを感じる存在感でした。

榎木津礼二郎の北村諒さんはお名前だけは知ってましたが、これまで観たことなかったのよね。人気があるのが納得。華があるしうまい。

なんていうか自由な声。動きもトリッキーですごく好きでした~!

関口巽の神澤直也さんも、姿だけ観るとひとりだけうんと若い感じがするんですけどね、声が良くてちゃんと同年代に感じられました。

原作よりずいぶん心身共に健康なイメージ。あ、やはり若いからなのか?w

鳥口同様、性別が変更になった増岡役の神野紗瑛子さんも良かった~知的で嫌味、滑舌の良さが絶品w

原作では増岡も陽子を好きなのよね。それで、自分を信頼してくれればもっと便宜を図ったのに・・・って吐露するところがあるんだけど、私はそこがちょっと好きじゃなくて。

ミュージカル版増岡は、女性同士だからこそ言える「どうしてもっとうまく出来なかったの」がすごく納得できたの。

すべてが終わって、陽子の弁護を引き受けた、ってところも、下心なく同情からだよねって思えるし。


美波絹子こと柚木陽子を演じられた万里紗さんは特に後半の迫力がすごくて圧巻。歌も台詞も起伏が激しく叫ぶところも多いんですがハッキリと聞き取れた。

数奇な運命をたどる薄幸の美女、そして総身に情念がうずまいてる陽子。ずっとビキビキに張り詰めてるんで観てるこっちも力んじゃう。

でも万里紗さん、カーテンコールでは楽しそうにニッコニコしてらしたんですよね。元気いっぱいだし、なんだかホッとしました。

あ、私ね、木場が誘拐予告状を見つけちゃうとこの、陽子の表情がすごく好きなんですよ~。

フリーズしとるしw


駒田さんは、つい先日「五番目のサリー」で穏やか・軽やかな人物を観たばかりだったので、冷徹と狂気を感じる美馬坂は新鮮でした。

ラストの京極堂と美馬坂の対決はもう、息をのむような緊張感で・・・全然まばたきしないし怖かったよw

そういえば美馬坂が「愛してる」っていうとこね、私にはあれは親心のように思えるんです。陽子がそう望むなら、そう答えてやりたい、みたいな。

もちろん愛はあるけど、陽子が望む「愛」とは違うんじゃないのかな~と。原作を読んだ時も思ったんですけどね。ミュージカル版はもっと強く、そんなふうに感じたな。

演じてるのが駒田さんだからかも。根幹は愛に溢れた、包容力ある人なのだろうと感じられる美馬坂でした。


そしてそして私の愛する小西遼生さんの中禅寺秋彦・・・本当にお姿も話し声も歌声も所作も美しくて・・・うん知ってた。知ってたけどわかってなかった。

全然わかってなかったわ、あなたの素晴らしさを!!

つって空に向かって叫びたい。

あんな日本人離れした外見なのに、和装も古風な話し方もバッチリ似合うのはどういうことなんだろね・・・燕尾服着せても白のスリーピース着せても和服着せても似合う・・・何かおかしい・・・

膨大な説明セリフが続くのに、聞いてて全ッ然飽きてこない。読経でも聞いているような心地よさ。内容は物騒だけど。

罪の愚かさと、罪を犯してしまう人の弱さは分けて考える京極堂の人物像も、原作のイメージ通り表現されていたと感じます。

心の奥底には慈愛が溢れているのよね中禅寺。遼生さんの中禅寺で、他の作品も観たいよぅ。

知的かつ色気ある京極堂でステキでした~。


どの曲がどんな風にステキだったとか、どの台詞がツボに刺さって抜けないかとか、どのシーンの所作で打ち抜かれて息も絶え絶えになったかとか、そういうのを延々と語りたいわ(ほんと延々しゃべりそう

再演でも別作品でも、またイッツフォーリーズさんの公演で京極堂シリーズが上演されたら嬉しいです。

その時はもう少し長い期間か、少し大きな会場で上演されるといいなぁ!

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