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専属目薬注師

専属目薬注師がいた。今はもういない。

目薬を注すのがへたっぴだった。何度注してみても頬骨に落ちてしまう。ようやく狙いを定められたと思ったら目を瞑ってしまった。

目薬が勿体ないと見かねた友人が手伝うよと声をかけてくれた。友人はまぶたをぐいと広げた。乱暴だなと思った。そして目薬を軽く押して一滴が落ちてきた。なんだかこわいなと思ったころにはもう液体が眼全体に広がっていく感じがして、スースーした。たった一発で。ドンピシャだ。すごい。と感動したことを今でも覚えている。すると今度は両方の目頭をつまんできた。突然のことに困惑した様子を察したのか、こうするともっと浸透するんだよと教えてくれた。はじめて知った。丁寧に目薬を注してくれたことに優しさを感じたけど、つままれている目頭のことを考えるとやっぱり乱暴だなと思った。

友人とは会う機会が多かったので会うたびに目薬を注してもらっていた。(もちろん一人の時にも挑戦はしたけど、やっぱりうまくいかない。)世話焼きなところがあるようで毎度快く引き受けてくれたし、そのうち向こうから目薬注そうか?と言ってくるほどになった。まぶたをぐいと広げられて、目頭をつままれるまでが一連の流れだ。目頭をつまむのは自分でもできるのにな…と思い始めてきていたけど、そのシュールな状態がおもしろくてやってもらうことにした。

けんかをしたわけではないけど、いつからか友人とは疎遠になってしまった。相変わらず自分では目薬は注せないままだったので、とうとう目が乾いてもどうしようもできなくなってしまった。とはいえ、そろそろ独り立ちしなくちゃなと思ったから目薬を注す特訓を始めた。無駄にした目薬は数知れず。

ついに編み出した技が目頭に直接当てて注すやり方だった。編み出したときはなんて革新的なやり方なんだろうと思ったけど、ある日友人から教えてもらったことを思い出した。目薬を近づけすぎたりすると雑菌がついて繁殖しちゃうから肌に触れないほうが良いと言われたこと。結局この技も友人とのやり取りが頭に残っていただけだ。

それでもこのやり方でしか目薬を注せないのだから、また友人と仲良くなれたらいいのにな…なんて思ってしまう。


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