斑鳩兄弟のピクニック

恐ろしい夢を見た。
兄さんに羽が生えて、何処かへ羽ばたいてしまう夢を。
昔から三角は自由人だった。
だからなのか、本当に有りそうなことで起きたときの汗が尋常じゃない程で。

「シャワー浴びよう....」

隣でスヤスヤと気持ち良さそうな寝息をたてる相手を見て、思わず笑みが溢れた。
起こさないように注意をしながらベッドから降りる。
“んぅ....”と声が背後から聞こえればしまった、という気持ちと共に“どうしたの....?”なんてふわふわとした声が聞こえた。

「おはよう兄さん」

「おはよ~まどか」

サンカクくんという名前の通り、三角形をした黄色いクッションに目と口のついたキャラクターを枕にしながら軽く微笑む。

「もう学校?」

少し寂しそうに訊ねてくる三角を見て、円は自分の用事を後回しにし、ベッドに腰掛けた。

「今日は休日だから学校は休み」

そう言えば、パッと笑顔になる。

「わ~い!
ねぇまどか!一緒にお出掛けしよう!」

きらきらとした瞳で見つめられれば断ることなど出来ない。
昔は断り続けていたのだから、今くらい兄さんと遊んでも良いよな....?

「良いよ、どこ行くの?」

「ん~とねぇ~」

楽しそうに考える三角。
足をパタパタと動かせば、布団に足が当たる度、ポフポフと音がなる。

「じゃあ、ピクニック行こう!」

「ピクニック?」

三角探し、と答えるものだと思っていたので拍子抜け、というか驚いた円。
三角の言葉を聞き返せば、うん!と元気よく頷いたので、とりあえず聞き間違いでは無いらしい。

「おにぎりと~サンドウィッチ持って、お散歩!
まどかは嫌だ....?」

「別に、兄さんのしたいことでいいよ」

そう微笑めば、三角の回りには花が咲いたように笑顔になった。

「いこー!」

「待って、シャワー浴びていい?
それと着替えなきゃ」

寝間着のまま外へ連れていこうとする三角に待ったをかける。
シャワーを浴びて良いか、と問い掛ければ、「じゃあいっしょに入る~!」なんてくっついてくるので、それだけは阻止。 下手したら理性が飛びかねない。
....とまぁ冗談はさておき、円が準備をしている間に、三角はおにぎりとサンドウィッチを作り終え身支度も終わらしたらしく、リビングのソファでちょこん、と座っていた。

「おまたせ」

「じゅんびおわった~?
はやいねぇ~、えらいえらい」

頭を撫で、子供扱いをする三角に、円は照れ半分、嬉しさ半分、と言った様子だった。

「それじゃあ しゅっぱ~つ!」

最近買ったという三角がふんだんに使われた服をきて、上機嫌にあるきだす。
この時期に長袖、というのは見ているだけで暑いのだが、まぁ、兄さんが嬉しそうだし良いか、と思う。

「一人で先に行かないで」

ガチャリと音をたて扉を施錠すれば、先に走っていってしまった三角を追い掛けるため地面を蹴った。