事故

姉の同級生にコウちゃんという男の子がいて、その子も私のゲーム友達でした。私の周りでゲームキューブとスマブラDXを持っていたのがコウちゃんだけだったので、私にとっては特別な存在でした。

ある日、私は自転車の補助輪をようやく外してもらったことに浮かれて、自転車で遊ぶことにしました。かと言って遠出が許された訳では無いので、近場でできる遊びを考えました。その結果、横断歩道の無い車道を行ったり来たりするという遊びをすることにしました。
コウちゃんを誘い、何故か姉もついてきて、3人でその遊びをしました。
危ない遊びだと思うかもしれませんが、その道路は道幅が狭く、車通りもあまり多くはありません。真っ直ぐな道で視界も開けています。
しかも、姉とコウちゃんは小学2年生。道路を渡るくらいどうという事はありません。2人についていけば特に問題は無い遊びです。
実際、コウちゃんと姉はきちんと左右を見て安全確認をしていて、車が来ないことを確認してから渡っていました。

しかし、私には左右を確認するという発想がなく、2人がどうやってタイミングをはかっているのかわかりませんでした。
そしてしばらく車が来なかったタイミングがあり、私は
「今だ!」
と言って左右を確認せず道路に飛び出しました。
その直後、視界が真っ暗になりました。お察しの通り、普通に車が来て撥ねられたのです。
姉曰く、掠っただけとかではなくて、ガッツリ撥ね上げられてたらしいです。また、母親曰く、「ギャー」という叫び声が職場まで聞こえたらしいですが、流石にそれは嘘だろうと思います。

気がつくと道路に転がっていて、(ああ、轢かれたんだな)と分かりました。車道に倒れていたし、近くに誰も寄ってきていなかったので、長い間気を失っていた訳ではなかったと思います。
取り敢えず轢かれたことは理解できたので、母に知らせなければと思いました。職場の電話番号は覚えていましたが、勿論ケータイなんて持っていません。
なので、家に帰ることにしました。
帰ろうとして歩き出すと、事故を目撃したおばちゃんが心配して声をかけてきました。
「大丈夫なの?」
「はい。何か足が痛いですけど、あの、大丈夫です」
体を確認してみましたが、特に骨折とか怪我とかは無いようでした。
私はカゴがベコベコになってタイヤのスポークが少し曲がった自転車を漕いで家に帰りました。
その道中で、足の傷んでる箇所がハッキリしてきたのでそこを確認してみると、左足のくるぶしの辺りに直径5ミリくらいの円形の傷があり、出血していました。
家に着いた後、母の職場に電話して母に取り次いでもらい、事故った事を伝えました。それから大きめの絆創膏を探して怪我をしたところに貼り付け、母が帰ってくるのを待ちました。

1人で家に帰ってきてしまったので、コウちゃんと姉と、私を轢いてしまった人がどうなったか分かりません。
路肩に車を停めて電話をしている人を見た記憶がありますが、多分それは私を轢いちゃった人が警察か救急に連絡をしていたのだと思います。
ただ、私はサッサと帰ってしまったし、コウちゃんも姉も何をしていたか分からないので、ひょっとしたらその人や警察は私のことを探していたのかもしれません。そうだとすれば、加害者が被害者を探すというかなりシュールな展開になっていたと思います。

母はすぐ帰ってきて、「とりあえず家で寝てなさい」と言われたのでその通りにし、その後病院に連れて行かれて検査されましたが、やっぱり特に異常は無いようでした。寝ていても病院に行っても非常に退屈で、ゲームをやるタイミングを探していました。
結局、その日は流石にバタバタしていてゲームが出来ませんでした。恐らく、ゲームを買い与えられて以降、初めてゲームを起動しなかった日です。
事故に遭ったことよりもそっちの方が不満で、後日コウちゃんの家で遊んだ時は
「だってあの日一回もゲームできなかったんだよ?」
という自分勝手な頼み文句で、スマブラDXを思う存分やらせてもらいました。「ターゲットを壊せ」のモードを子供リンクでプレイしていましたが、壁キックのやり方が分からなくて初期位置から全く動けなかったです。思う存分やったのに、結局煮え切らないまま帰りました。

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他人がどう生きてきたのか覗いてみませんか? 短いエピソードがたくさんある構成になってるので、ちょっと空いた時間の暇つぶしにちょうど良いと思います。小学校卒業までを書いて、文字数は約4万文字です。文字数当たりの価格は一般的な文庫本より少しだけ安く設定しました。

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