ハラスメントトレーニングvol7:なぜハラスメントは罰せられるのか
ハラスメントトレーニングを行っていると、しばしば次のような意見が寄せられます。
「ダメな奴にダメと言って何が悪いんですか?」
「無能を雇った人事が悪いんでしょ」
というものです。このような発言は一見合理的に思えるかもしれませんが、実際には職場の健全な環境を損ない、生産性を低下させ、さらには法的なリスクを引き起こすことがあります。以下では、このような考え方がいかに問題であり、どのように改善すべきかについて詳述します。
1. 罵倒は効果がない:コミュニケーションのコストと成果
まず、部下を罵倒することがいかに無益であるかを、時間とコストの観点から考えてみましょう。例えば、あなたが30分間部下を叱責したとします。その時間中に、部下が得られたものは何でしょうか?ほとんどの場合、得られるものは「何もない」か、あるいは「恐怖心」や「自己肯定感の低下」などのネガティブな影響だけです。では、その30分間、あなたはどのような成果を得ましたか?結論から言えば、「何も得られていない」と言わざるを得ません。
無駄な時間とリソースの浪費
30分という時間はビジネスの現場において、非常に貴重です。その時間を使って生産的なフィードバックを行う、あるいは業務改善策を講じるなど、他の方法で有効活用することができたはずです。しかし、罵倒に費やされた時間は無駄になり、結果的にコミュニケーションの非効率さを露呈することになります。さらに、罵倒によって部下が精神的に萎縮し、生産性が低下することも考えられます。これでは、あなたの30分間は無駄になるどころか、マイナスの影響をもたらすことになります。このような無駄な時間を生むマネージャーを雇うほど会社には余裕がありません。
部下に与える影響
罵倒による短期的な感情の発散は、長期的に見れば部下の成長を妨げる行為です。特に職務における失敗や問題点を正しく認識させ、次にどう行動すべきかを教えることがマネージャーの役割であり、罵倒によってその役割を果たすことはできません。さらに、部下がミスを恐れて新しいアイデアを出さなくなる、コミュニケーションを避けるようになるなどの悪循環が生まれます。したがって、叱責を罵倒に頼るのではなく、建設的なフィードバックを行うことが求められます。
2. 採用コストと退職のリスク
次に、採用コストと退職リスクについて考えてみましょう。一人の社員を雇う際には、企業は多くのリソースを投じます。面接プロセスには、担当者の時間や人件費がかかり、エージェントに支払う手数料や求人広告費も発生します。さらに、入社後の研修やオンボーディングのプロセスには、時間とコストがかかります。つまり、一人の社員が職場に適応し、戦力となるまでには多大な投資が行われているのです。
ハラスメントによる退職の影響
もし、あなたの不適切なコミュニケーションが原因で社員が退職してしまった場合、その損失は単なる「採用コスト」だけにとどまりません。退職者が出た場合、その人が抱えていた業務が他の社員に分散され、結果として他の社員も負担が増え、職場全体の生産性が低下する可能性があります。また、新たな社員を採用し、同様のプロセスを繰り返すために再度コストをかける必要が生じます。
特に、優秀な人材があなたのハラスメントによって退職してしまう場合、その損失は金銭に換算できないほど大きなものです。彼らがもたらす可能性のあった貢献や成長、職場の士気向上は、他の社員にもポジティブな影響を与えるものであり、その喪失は企業全体にとって重大な影響を与えます。
コミュニケーションスキルの改善が必要
ここで強調すべきは、あなたが効果的なコミュニケーションスキルを持っていないと、結果的に会社全体に大きな損失を与える可能性があるという点です。適切なフィードバックや指導方法を学ぶことは、単に個々の問題を解決するだけでなく、長期的に見て企業全体の利益に寄与します。
3. 法律上のリスク:ハラスメントは法的に確立されている
ハラスメントは、既に法理論として確立されているものであり、これを犯すことで重大な法的リスクが発生します。もし、あなたが不適切な指導を繰り返し、その結果として部下が精神疾患を患った場合、企業は法的責任を負うことになります。このような事態が生じた際に、企業が支払う賠償金は数百万円から、場合によっては数千万円にも上る可能性があります。
ハラスメントによる法的責任
企業は、従業員の安全と健康を守る義務があります。そのため、職場でのハラスメント行為は、従業員の精神的健康を害し、企業の法的責任を問われる事態に繋がります。特に、上司からの指導が「不当な叱責」や「精神的な圧力」として認識され、部下が精神的なダメージを受けることが証明された場合、企業は訴訟のリスクにさらされることになります。
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