見出し画像

『The Shipper EP11』感想 男達の感情に挟まれるPanの運命は如何に


観ました。大変なことになっています。
リアルタイム勢ではなく観ている人たちが面白いと大絶賛していたのをずっと横目で観ていた勢なのですが、最終話を目前にしてついに手を出したところ一日かからず完走してしまいました。
観始めた瞬間は、コミカルで明るいタッチや画面の可愛らしい色彩、可愛らしい女の子たちが主人公の気軽に観れる楽しいドラマなんだなという印象でした。SNSに流れてくるスクリーンショットも楽しげな場面が多く、EP1のとっつきやすさや観始めるハードルが低いテイストのお話だと思います。

ですが回を重ねていくうちに「Panの血のつながっていない片親」や「兄弟なのを学校では隠さないといけないというKhet」、「Kimの謎めいた行動の跡」等…楽しいだけのストーリーで終わらせるには重いエピソードが見え隠れし、もしかしてこのドラマはポップさでコーティングしているだけでかなりディープな人間関係を扱っているな…?入れ替わり方もよく考えると階段から落ちてぶつかったなんていうかわいらしいものではなくバイク事故。それも犬が死んでしまうレベルの。
何より主要人物の1人であるKimの視点はEP10になっても一度も出てきていなかったことが凄く気になっていました。彼のことは全て回想、またはPanや第三者から見た断片的なKimの像だけ。これはなんだかおかしいぞと考えているところにやって来たEP11。
この回の為に今まで種が蒔かれて来たんだな…。

KimとKhetそれぞれの苦悩

長男として育てられたKimは厳しく躾けられ、過剰な期待を持たれた。
また、Khetは次男として兄の様な期待を掛けられずに育てられた。
弟の模範として期待に応えなくてはいけないという息苦しさを感じるKimの苦悩。
兄に世話をされ、両親に叱られないというKhetの状況。
Khetは「よく物を壊す子供」だったとEP11で語られました。それも、只の物ではなく兄の物を。そして両親は壊したKhetではなく兄を叱る。叱られないからまた壊す。そしてついには兄が自ら手に入れた大切なラジコンを壊し、父親は「お前が全て独り占めするのが悪い」と怒鳴る。
この出来事によって2人は決定的な仲違いをし、今日にまで至ってしまいましたよね。
私はKhetの行った一連の行動は親の気を引きたいという「試し行動」の一種に当たるのではないかと思いました。愛情不足を感じている子供が取る行動です。本人はそれが悪い行動、良くない事だと分かっているのに、相手の気持ちを試したくてやってしまう。
現にKhetもラジコンの説明書をずっと持っていたんです。悪いことをしてしまったと分かっているから。ずっとラジコンと共に2人の関係を修復したかったから。口を聞かないような状態が続いていたのに病院に駆けつけ、アレルギーを気にし、ダーツが得意なことを知っている。どんな態度を取られてもずっと兄の事を家族として思っていた。
Khetは優しくて人間が出来ている男の子ですが、時折高校生にしては幼すぎる突拍子もない行動を取る事があるように思います。好意を持っているPanが熱心に書いている小説を妨害して2人の間には恋愛なんて生まれないと言い聞かせてみたり、Wayと出掛けようとするPan(外見はKim)に対して家の物を破壊して(子供の頃とやることが変わっていないのが可愛いやら切ないやら)情に訴えかけてデートを妨害してみたり。好意のアピールが拙いんですよね。ずっとそうやって自分の存在をアピールして相手を試す方法を行い、誰もそれを怒らず育ってきてしまったからなのだろうなと推察しました。両親の描写を見る限り二人とも子供のことを愛してはいるのでグレはせず優しい性格になって良かったとはいえ、ちょっと屈折していますよね。教育方針がまずい。兄に期待がかけられているからといってその弟に責任があるなんてことは絶対に無い。親だからといって愛があれば子供に何をしていいわけではない。
そもそもKhetがPanを好きになったのもそのあたりが由来してそうな気がします。叱られてこなかった子供が出会った、自分に怒鳴ったり真剣に向き合ってくれた相手。海外生活の両親、冷え切った関係の兄との共同生活の中でPanが食べさせてくれた料理は大きな意味を持っていたんじゃないでしょうか。温かい美味しい手料理を食べたのなんていつぶりだったのかな、そりゃ好きになっちゃうよね…。そんな風に好きになったPanの悩みを解決してあげたいと授業をさぼってまで美容師になろうとしちゃう。でもそんなこと本人には言わない。いじらしすぎる。好きな相手の写真をこっそり待ち受けにしちゃう男の子みんな抱きしめたい。(例 Sarawatさん)

WayとKimの関係性

この二人は正反対でありながらも、似た者同士でもあったんですよね。
自分を全てさらけ出せるような相手がおらず、負けず嫌いで、強気で、周囲から本人が望んでいない過剰な期待を持たれている。(Wayは喧嘩のカリスマとして、Kimは優等生として)そして二人とも友達がいない。

お互いが唯一無二の存在になっていったことが回想で徐々に明らかになっていきます。EP1の時点で「Wayを退学させるなら俺も退学する」という行動を取っているKimの中で只の友達以上にWayが大きい存在であることは想像できますが、その後先生と関係を持ち試験問題を盗むというエピソードがWayのためであったと。EP1で試験問題を盗ませようとしていたOffからいじめられっ子を助けるという正義漢を披露したKimが、同じような不正をしてまで成績を保っている。
これはSodaちゃんじゃなくても『愛』としか呼べないだろうな…

KimのWayへの矢印はかなり最初から、席の♀マークを♂に書き換えた時点で向いていたのではないでしょうか。その時のWayの「お前はルールを破るような奴じゃないよな」というセリフが効きますね。(実際にかなりのルール破りをしでかすことになるので…)
SodaとPanは「ルール」を守って「♀」が割り当てられた席に座ります。そしてそのルールを無視したKimは見えない世間から押し付けられる「男女」で振り分けられる恋愛という形を自ら破りにいっている風にも読めるなと思いました。深読みかもしれませんが。

Wayは告白の際にKimのことを「単純で、口が堅くて、勉強ばっかしていて、褒められたい。秘密にしていることが沢山ある」そして「そんなのは関係なく愛らしいヤツ」だと評していました。
Kimの努力を実際に見てきていて、そしてそれはKim自身ではない誰か…最初は家族の為、今はKimの為であると退学騒動の件で気付いた。Phingphingが「私以上にWayに尽くしている人間がいるか」と言っていましたがいたんですよこれが。親と学校を相手取り、自分の為に戦ってくれる相手が。
ですがWayがKimへの気持ちを完全に自覚したのがPanによって冷たい態度を取られたとき、そしてPanによる自撮りツーショットの待ち受けがきっかけなので、Panの入れ替わりが無ければきっとその気持ちに気付くこともなくKimは死後もPhingphingと付き合い続けていたんだと思うんですよね。
彼は自分の気持ちにも人の気持ちにも鈍いところがあるようですし。(でもKhetとKimの本質を見抜いていたりと変に鋭いところもあり、いい意味で野性的な彼の魅力ですよね)
だとしたらKimにとっては何が正解なのかわからなくなります。恋心を自覚したうえでその相手が居なくなることと、恋心の存在を知る事のないままその恋が終わることなのであれは、確実に辛いのは前者ですし、KimはWayが悲しむことを望んでいない筈。何ならWayのことが好きだったのかも確実ではないし、付き合いたいと望んでいたかも分からないですよね。Kim…何を考えていたか教えてくれ…死人に口なしなの…。
Way「彼がどこに行こうが…俺も同じ場所に行くだけだ。実を言うと彼がいない人生なんて考えられないんだ。」
誰がこの子にもうKimのいる所にはもう行けないって言えるんですか…?
Panに与えられた使命重すぎる。

入れ替わりの本当の意味はやっぱり『愛』?

まだ2話残しているので完全なる答え合わせはまだですが、この入れ替わりはSodaとPanが探した多くの入れ替わりものの小説に多くあったように、やはり「愛」がテーマだったんだと思います。
ただ死んでしまっていればWayが自分の気持ちに気付くことも、KhetがKimと穏やかに過ごしたいと口にすることもなかった。中身がPanだったとしても、家族と集合写真を撮ることも出来なかった。死というものはいつも突然で、容赦なく誰かを奪い去っていきます。死の天使は乱暴で理不尽で気まぐれだけど、死ってそういうものですよね。その中でPanが彼の中に入りKimが行ってきたことの清算が出来た事は非常に幸運な機会だったのかもしれません。
それはPanにとっても同様で、いつも傍にいてくれた親友の「愛」、気付かないうちに支えてくれていた男友達の「愛」、血は繋がっていないけれど自分を心から大切に思ってくれる父からの「愛」に気付くことが出来た。
でもそんな風に想われる優しいPanだからこそ、Kimを想う人たちの気持ちを無視できない。それがPanが大好きなWayが含まれるからこそ尚更…それで「Kimとして生きる」という選択肢を選んでしまいます。
これはとても残酷な選択で…Kimが表面上生きているように見えてもそれはKimじゃないし、Panも文字通り死んだことになってしまう。Panは心を殺し親友を忘れたふりをし、好きな人は自分じゃない相手を好きな事を知りながらそれを演じなくてはならない。
流石にその終わりにはならないだろうと思っていますが…ゲームに例えると一番のBad EndがこれならPanだけが生き残るのがNormal ENDで奇跡的にKimが生き返ったらTrue Endかな。流れ的に厳しいかもと思いつつ、WayとKimは幸せにならないと駄目じゃん、、、、、!!!!!!!!!!二人は同じ大学に行くんだよ…お互いがお互いの理解者で、一緒にいないと退屈で、こんな相手とはもう二度と出会えない。どうにか二人を幸せにしておくれ。二期もやっておくれ。ご都合主義と言われてもいい。

という感じです。


とにかくFristくんの演技が凄すぎる。Kimの演技、Kimに入ったPanの演技、Kimに入ったPanがKimを演技する演技、めちゃくちゃ難しいことをしているのに自然にこなしていてFirstくんのポテンシャルにとても驚きました。面白おにいさんの印象でした。面白演技うまキュートお兄さんに改めます。
今回はボーイズの感想を中心に書いていますが、一番ぐっと来たのはSodaとPanの友情でした。「私の代わりに生きてくれる?幸せな人生を送って。私の事忘れないでね。」はあまりにも綺麗すぎて目の前が見えなくなりましたし(涙で)ヘッダーにも採用していますが、BLコンテンツでは蔑ろにされがちな女子が紛れもない生きた登場人物としての友情を描いてくれたのはとても嬉しかったです。ていうかSodaちゃん可愛すぎる。彼女が泣かない終わり方がいいな。

最終回が待ち遠しくもあり、怖くもあります。
GMMくん、信じてる…!!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?