見出し画像

「運送業」に許可はいるの?

「運送業」の全体像を知る。

運送業を始めようと思ったときに、どんな資格が必要なの?どこにどう許可をとったらいいの?業界未経験者の行政書士が、未経験者だからこそ最初に感じたみなさんと同じ素朴な疑問にお答えしていきます!


運送業の分類ー「運送業」ってそもそもなに?ー

そもそもなにをもって「運送業」というのでしょうか。
運送業は、”貨物自動車運送事業法”という法律で、以下3つに分類されています。

  • 一般貨物自動車運送事業

  • 特定貨物事業者運送事業

  • 貨物軽自動車運送事業

同法の定義としては、いずれの場合も「他人の荷物を、有償で運ぶ事業」とされています。その中で、「他人とは誰か」と「どんな車で運ぶか」で3つの分類が分けられています。

運送業の分類

よって、例えば自社の商品を購入されたお客様にお届けするために自社のトラックを使ってお届けする行為は、運送業の許可をとる必要はありません。お届けするのはあくまで自社の商品であり(お渡しして初めてお客様のものになります)、上記定義にはあてはまらないからということですね。
さらに、3つ目の貨物軽自動車運送事業に関しては、”許可”ではなく”届出”の申請でいいので、一般貨物自動車運送事業よりも営業をするハードルはかなり低いといえます(もちろん要件不備があれば受け付けてもらえませんが^^)。

どこに許可をとるの?

一般に運輸や交通に関する管轄を行うのは、国土交通省の地方運輸局です。よって運送業の許可も、構えようとしている営業所を管轄する各地方運輸局にとりますが、許可申請を提出するのはさらにその分局である、運輸支局です。私の住む大阪府堺市で開業するのであれば近畿運輸局が管轄する大阪運輸支局ですね(たどり着くまで長いぜ~)。

☞各地方運輸局はこちらから。
(運輸支局は都道府県により少し指定が異なるので各運輸局HPから”一般貨物自動車運送事業許可”でお調べください。)

なにが必要?ー運送業の4要件+1ー

定義と管轄まで明らかになりました。では、実際に運送業の許可をとるためには具体的になにが必要なのでしょうか?以下に列挙してまいりますが、いかんせん提出書類は膨大です。。。ここではまず要件に絞っておおまかに理解したいと思います。
運送業の許可をとるには以下の4要件を満たす必要があるとされており、それを証明するための書類が申請に必要な書類となるわけです。
さらに+1として、申請者または法人の場合は役員が、運送業に関わる法令試験に合格すること、これがそろって初めて審査対象となります。

  1. 資金の要件

  2. 人の要件

  3. 場所の要件

  4. 車両の要件

うーん、この4つの文言を見ただけで、出鼻をくじかれそうになりませんか?笑
でも大丈夫です!実はこの4要件は個別の条件というではなく、すべて繋がっていることを少しずつ見る視点を変えて要件定義しているにすぎないのです。一つずつ意味と理由を理解していけば、行政側も無理難題を言っているわけではないこともわかりますし、本当に運送業をしようと思っておられる方であればきっとクリアできます!では一つずつ見てまいりましょう。

1.資金の要件

一番めんど、いやいや、ハードルが高そうな要件から記載しておきます。
他要件で場所や人、車両の要件が出てきますが、それらをいずれも用意し、また事業活動を維持していくには当然にお金=資金が必要です。例えば、車両を5台ローンで用意したが毎月の支払いができず結局返品することになった、となれば、事業として存続できませんよね。そうならないための十分な資金が手元にあることを証明してくださいね、という要件です。
例えば建設業の許可では800万円以上の残高証明、などの具体的な数値基準がありますが、運送業の場合は、あくまで自分が計画している事業計画を実行するだけの資金という決めごとだけですので、つじつまが合った計画であればOKです。
具体的に必要な項目を以下に大枠ですが列挙しておきます。

<資金の要件項目内訳>
車両費・(あれば)固定資産費・保険料・施設賦課税・人件費・燃料費・油脂費・修繕費・その他経費。

近畿運輸局 「公示基準」より一部抜粋

上記のような、いわゆる事業経費を項目によって6か月~1年分支払うだけの資金(以上)を自己資金として準備する必要があり、提出書類としては、残高証明(申請時と運輸局の指定の時期の計2回)の提出が必要です。

2.人の要件

運送業の許可を得るためには、営業(運輸)開始までに確保しなければならない人員の役割と必要人数、その要件が細かく指定されています。残念ながら街中を走る運送業の自動車によって不幸な事故が起こっているのも事実です。社会の安全性を確保するために車両と人、両側面でより高い安全体制づくりを強く求められる業界ということですね。具体的に必要な役割としては、
◆ドライバー
◆運行管理者
◆整備管理者

の3つの役割が必要です。(事業主は当然にいるのでここでは割愛します)
以下にそれぞれ役割と要件をまとめておきました。
さらに、ドライバーには事業用自動車の運転免許があるのはもちろんのこと、運行管理者や整備管理者はそれぞれ資格や欠格要件などもありますし、そもそも事業主や役員のうちの誰かに欠格事由に当てはまる者がいる場合は申請ができません。

人的要件一覧

3.場所の要件

運送業許可の説明をされているブログや本では、実はこの場所の要件が必ずと言っていいほど一番最初に説明されています。運送業許可ではより多くの基準が求められる要件であり、最重要要件であるといえます。
にもかかわらず、「運送業をやるぞ!」と勇んで契約を先に交わしてから専門家に相談され、その場所では運送業の許可が取れないことがわかり結果的に契約し直しになった、というご経験が専門家の先生方にも少なくないそうです。そういう意味では最初にビシッと釘をさす、注意喚起的な意味合いもあるのかもですね。
じゃあなぜここでは3番目なのか?単純に私はまだそういう経験を実際にしたことがないので、自分が疑問に思うことから記載するスタイルをとらせていただきました^^。あと、ここまで読み進めていただいたことで、ある程度運送業の許可をイメージされてから最も重要な部分に入っていただくほうが記憶に残りやすいのではないかな、と感じたというところもあります。
前置きが長くなりましたがではまいりましょう!

場所の要件で求められるのは、
①営業所 ②車庫 ③休憩(睡眠)施設
の3つの場所に関しての設置義務とその基準です。

①営業所
文字通り営業の拠点となる場所ですね。ドライバーの方の毎日の点呼や健康チェック、運行体制を作ったり、メンバーでの会議やその他事務作業をする場所です。まず、ほかの②③にも共通して必要な基準ですが、
◆使用権限があること
を証明する必要があります。
その建物が自己所有であれば登記簿謄本が必要ですし、賃貸の場合であれば「事務所として」使用できることが記載がされた賃貸借契約書が必要です(契約期間は2年以上のもの。未満の場合は自動更新の記載が必要)。
次に必要なことが、
◆各法令(農地法、都市計画法、建築基準法など)に抵触しないこと
です。それぞれ代表的な法令別に見ていくと、、、
・農地法
田んぼや畑って使用目的を変えたい場合、たとえそれが自分の土地でも、その地域の自治体(農業委員会など)の許可(市街化区域の場合は届出)がいるんですよね。
ですので、例えば営業所にと考えているその場所が、登記簿謄本上で地目(土地の種類)が、”田”や”畑”となっている場合はそのままでは営業所を構えることができません。別途、農地転用の申請が必要であることは前提として、その申請も必ずしも認められるとは限らないため、実際にはその場所は避けたほうが無難です。
・都市計画法
”市街化調整区域”、という名前をお聞きになったことがある方もおられるかもしれません。この区域には原則として建物を建てることができません(あくまで原則であり、特例や条件により可能な場合もありますがかなり特殊な要件ですので割愛いたします)。よって、もし営業所候補地が市街化調整区域内の土地であれば、そのままでは営業所を建てることができません。開発許可が別途必要であることから農地転用の例と同じく避けたほうがいいでしょう。また、これとは別にその土地にはそれぞれ自治体で決められた”用途地域”というものがありますが、この用途地域によっては営業所が建てられない地域もあります。こちらは自治体のインターネット情報で調べることができますので気になる土地があれば先に調べておくのと安心ですね。
・建築基準法
先ほどの用途地域の種類によってはそこに建ててよい建築物の高さや大きさなどの指定がされています。建築事業者に依頼をするのであれば彼らはその道のプロなので全く問題ありませんが、プレハブなどを営業所代わりにしようとする場合は建築確認申請が必要になる場合もあるため注意が必要です。
・・・
このように営業所設置には様々な法律に関係して基準を満たす必要があります。安易に場所を決める前にまずは専門家に必ず相談しましょう。
◆大きさ
大きさの規定は特にありませんが、事務机、椅子、キャビネット、など、そこでメンバーが事務作業ができるだけの十分な設備とスペースは確保する必要があります。

②車庫
続いて商売道具である事業用自動車を保管しておく車庫についてです。使用権限に関しては共通のためここでは割愛いたします。
◆営業所との距離
人的要件のところでお伝えした通り、運行管理者は日々のドライバーの運行チェック(点呼など)を行います。よって、営業所は原則車庫に隣接している必要があります。が、一方で営業所の規定は非常に厳しく、特に都心部においては隣接することが現実的に厳しいこともまた事実です。そこで、あくまで日々の運行管理者の指導監督が可能なレベルであれば、ということで営業所から一定の距離内であれば離れていても車庫として認められます。
距離は一般的には10km以内ですが、東京23区や横浜市などの大都心だと20km以内ですし、逆に大阪府でも貝塚市、泉佐野市など一部地域では5km以内など、その都道府県ごとに細かく数字が変わりますので、地方運輸局HPで調べてみましょう。(ちなみに近畿運輸局の場合は「運輸省告示」として記載されています。)
◆面積
当然ですが、すべての車両が格納できる面積が必要です。
また、車両と車両、車両と車庫の境界から50cm以上離れていなければいけません。ここがぎりぎりだったり、各積載量ごとに指定された面積に余裕がない場合は、別途配置図の提出が必要になります。
◆各法令(農地法、都市計画法など)に抵触していないこと
車庫は建築物ではありませんので、市街化調整区域でも設置は可能ですが、同じく農地の場合は転用許可が必要ですし、そもそも隣接が原則である営業所が建てることができないため、できることなら避けたほうが無難です。
◆前面道路の幅員が車両通行に十分であること
車両制限令という法律によって各道路には通ってもよい車両幅や重量が決められています。よって必ず車両が出入りすることになる車庫の入り口に面した道路(前面道路)の幅員がその車両が通るのに十分であることを証明する、”幅員証明書”なるものを各道路の管理者(都道府県や市町村)から取得して提出する必要があります(国道の場合は不要)。

③休憩(睡眠)施設
最後にドライバーのために休憩施設を設置しなければなりません。
まず大前提として休憩施設は営業所、または車庫に併設して設置しなければなりません。営業所や車庫は例外的に離れていることはありますが、休憩施設は単独で設置することはできません。
また、休憩施設は必須ですが、カッコ書きにしたように睡眠施設は必須ではありません。夜間運行(22時~5時)がある場合や、運行間の休息時間が十分に空いていない場合など、ドライバーの勤務体系によって睡眠施設を設置する必要があるかどうかが変わります。
ドライバーが睡眠をとる必要がある場合は、一人当たり、2.5㎡以上の広さをとる必要がありますが、休憩のみの場合は広さの指定はありません。ただし、併設の営業所や車庫とこの休憩施設は別室か必ず仕切りで分けられていなければなりません。

4.車両の要件

最後に商売道具である車両に関する要件です。
①台数指定 ②使用権限の証明
以上の2つをクリアする必要があります。

①台数指定
登録する台数は5台以上でなければなりません。車検証の使用用途が”貨物”と記載されていれば必ずしもトラックである必要はなく、例えば軽自動車でなければ4ナンバーの自動車でも登録は可能です。

②使用権限の証明
当然にその車両の使用権限があることを提示しなければなりません。
ただし、あくまで使用権限を示せばいいので必ずしも自己所有である必要はありません。ケース別に列挙しておきます。
◆自社所有の場合・・・会社名義(※)の車検証
◆リースの場合・・・1年以上の契約期間のある契約書
◆新規購入の場合・・・自動車売買契約書
※名義が社長個人の場合は会社名義に変更が必要。

+1 法令試験

ここまで要件をそろえても、この法令試験(運行管理者の試験とは別ですので注意しましょう。)に合格しなければ残念ながら審査を待たずに却下処分となってしまいます。さらにこの法令試験のミソは申請が受理されてからようやく受験資格と試験日の設定が与えられるので、前もって取っておく、受かるまで何度も受ける、ということができません。時間的に余裕があるというわけではないんですね(厳しい~汗)。よって短期間で確実にとれるよう、事前準備と対策はしっかり立てておくことが必要です。以下に試験要項をまとめておきます。

◆対象受験者
法人の場合は常勤の役員(1名※1)、個人の場合は事業主
※1.1回の試験は1社から1名しか受けれず、2回目は1回目と別の常勤役員でも可能。
◆試験時間
50分
◆試験問題数(合格問題数)
30問(24問)
◆試験実施日
奇数月に開催。
運送業許可申請の書類が受理されてから運輸支局より試験日の設定連絡あり。
◆受験回数
1申請あたり2回まで※2
※2.申請受理の翌月以降試験月に1回。不合格の場合は次の奇数月に1回。
◆試験内容
・〇✕選択形式
・貨物事業者運送業法及び同法施行規則
・自動車事故報告規則
・道路交通法
・労働基準法
・独占禁止法 などの法令から出題。

もちろん試験ですので、試験会場には筆記用具以外のテキストなどは持ち込み禁止ですが、当日試験会場で条文集が配布されますので、調べることは可能です。ただし、上記法令はあくまで一部であり出題法令範囲は広範囲で、かつ限られた試験時間で8割正解となると相当効率よく回答することが求められます。丸暗記とまでいわずとも、予めどういう条文がどのあたりに載っているのかがわかるレベルの試験勉強は必要だということを認識しておいたほうがよいでしょう。
万が一不合格で申請をやり直し、となったときに後悔しても時すでに遅し、一早く営業を開始するためにもここは踏ん張りどころです!

最後に

いかがでしたでしょうか。今回は運送業許可に必要な要件を、まずは大枠を掴んでいただくためにできるだけわかりやすく記載いたしました。最後に申請から許可取得までの大まかなスケジュールを記載しておきますので時間の参考にしてください。

◆申請書類情報収集、記載
  ↓ 1か月
◆申請書類提出、審査(→その間に法令試験、残高証明2回目、社会保険加入手続きなど)
  ↓ 5か月
◆許可連絡、許可書交付式
◆登録免許税(12万円)納付、運行管理者・整備管理者届出書および運輸開始前確認書の提出
  ↓ 1か月
◆緑ナンバー取得、運賃料金設定届提出
  ↓ 1か月
◆営業開始

概算スケジュール

各工程だけでみても8か月、もちろん最初からすべてパーフェクトに用意できる方はほとんどいませんので、おおよそ1年はかかると考えて準備にあたるのが妥当だといえます。
これまでご説明したように、一つずつの項目はけして理解しがたいものではありません。ですが、長期に続く準備期間と活動、聞きなれない言葉の数々や乗り越えるべきハードルがいくつもあること、などを考えても一人で取り組むのではなく、まずは最初の相談ができる専門家(行政書士)を見つけることから初めてみることをお勧めします。

この時代に運送業に手を上げようとされてる方ですから、きっと世の中のためになることを、という高い志を持った方だと思います。せっかくの志を煩雑な作業と経営者の孤独感でくじかれるなんてとてももったいないことです。ぜひ、あなたの夢を応援する支援者になってもらえるような、息の合う専門家を見つけてくださいね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?