犬なみ。

嬉しいことがあると満面の笑みを浮かべ
悲しいことがあると大粒の涙を流し
怒った時には口先をつんと尖らせる

犬並みにわかりやすい私には、
ちょっぴり得意なことがある

それは、
ある瞬間に感じた
匂いと感覚を記憶に結びつけること。

どうやら私は犬並みの嗅覚も持ち合わせていたようだ

冬の朝 新宿駅の匂いは、お化粧を落とした後の感覚にどこか似ているし
6月頃の雨の匂いを嗅ぐと、昔好きだった人と夜のドライブに出かけた時の高揚感に包まれる
秋の清澄白河の街でムンっと空気を吸い込めば、こたつでぬくぬくしている時の暖かくしあわせな気持ちで満たされる。


小さい時からそうなのだ
私は匂いと共に生きている。みんなきっとそうなのだ
ただ忘れてしまっているだけなのか

このふわっと思い出した過去の自分をめぐる時間
私はどこか上の空になってしまうけれど
その時間はたまらなく愛おしいと、近頃は思っている


そして匂いに加わり、
湿度も感じるようになっていた。
私は湿度の高い会話が好きだ

夏が終わり葉っぱが色づいた後、そろそろ冬支度をする時期にひんやりと漂う空気のように、出会ったばかりは乾いていて
言葉を交わしていると
いきなり真夏の夜のむんっとした空気の様に、
一気に湿度が上昇する瞬間がある。

それはどこか恋に落ちる時の感覚にも似ている。
その瞬間、言葉を交わしていた相手との緊張感はするすると緩んでいく

湿度が高いと
しめくさい、暑苦しい という印象もあるかもしれない。
でも、私が感じる湿度の高い空間は
嫌な気持ちを洗い流してくれる細い細い雨の様で、暑い日にしっとり汗をかきながら外でお酒を飲み交わす夜みたいな感覚で、小さな小さな部屋でポツポツと降り始めた雨の音を聞いて布団に潜り込む恋人達を想わせるのだ

綺麗に見ようとしているのではない

きっと、季節や温度や匂い、そばにあるものはずっと綺麗だったはずで
それを感受する自分の意識が大切なのかもしれない


暑い、今日もしっとりと暑い。
こんな夜は、蚊取り線香の匂いを嗅いで、窓全開で思いっきり真夏の空気を堪能しようではないか。
今日もいい匂いがしている

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